Bhi Bhiman『Bhiman』



Bhiman

Bhiman



 Bhi Bhimanと書いてビー・ビーマンと読むらしい。スリランカ系のアメリカ人で、両親がスリランカからの移民。彼自身はセントルイスで生まれ育ったそう。子どもの頃はニルヴァーナサウンド・ガーデンを聴いていたというから、普通のアメリカ人の子どもと変わらない音楽経験を経て、後にボブ・ディランやスティーヴィ・ワンダーに触発されて自分でも曲を作るようになった。現在はサンフランシスコを拠点に活動するシンガー・ソングライターである。これが彼のファースト・アルバム。


Guttersnipe

 アルバムの冒頭に収録された「Guttersnipe」という曲。伸びのある高音のヴォーカルの美しさと、抑制の効いたアコースティック・サウンドが印象的だ。派手さとは無縁だが、音楽的な誠実さが感じられる。
 アルバム全編を通してビーマン自身がギターを弾いて歌い、曲によってパーカッションやベース、キーボードなどが加えられている。アメリカのメディアでは「スリランカウディ・ガスリー」と形容されているようで、確かに古いフォークやカントリー・ブルーズからの影響はここかしこに見受けられる。そういったルーツ志向のシンガー・ソングライターは今や珍しくもないが、過去の音楽を掘り起こすことが目的化していない点は好感が持てる。彼は1930年代に生きているのではないのだから。


Kimchee Line

 まるでミシシッピジョン・ハートを思わせるギターを弾きながら歌われる「Kimchee Line」。この映像はライヴ・テイクだが、アルバムに収録されているのも同じ弾き語りのスタイルだ。北朝鮮のキムチ工場で働く男の悲哀を歌っている。

俺はキムチ工場で働いている 俺はキムチ工場で働いている
白菜を入れる番だ

俺は山へ登ったよ そこから抜け出せるかどうか見ようと
海へも行ってみたよ、神様 海は干上がっていた
だから俺は酸っぱいとうがらしを扱っている
海老や牡蠣も混ぜるんだ ビタミンEがあるからね

(中略)
俺はキムチ工場で働いている 俺はキムチ工場で働いている
わけぎを入れる番だ

俺は将軍様慶事までに この綱を引きちぎることは諦めたんだ
俺はまだこの偉大なる国を愛している
どこに座っているか話す前に 立ってる場所を話したいんだ
ここより自由な国に俺の姪と娘がいる

俺はキムチ工場で働いている 俺はキムチ工場で働いている
きゅうりを入れる番だ

 悲しい内容なのに深刻さは強調されず、どこかユーモラスに聴こえる。他の曲もストーリー性があり、時にシニカルに、時に優しい目線で描写された曲が多い。詞作の面からの評価も高いようで、検索して出てくるインタビューでは詞の内容に触れられたものが目立つ。
 もはや何がメインストリームなのか判別し辛いほどに、様々なタイプの音楽が溢れかえる中で、ビーマンの音楽は極めて渋く、大々的にヒットするとは考えにくい。彼自身も「ポップ・スターになりたいわけじゃない」と明言しており、他人と音楽で競うつもりもないのだろう。音楽産業に於いては当たり前のように企てられる、わざとらしいギミックや戦略に興味は無いらしい。ただし彼が自分の方向性に誠実にクリエイトした音楽は、届くところにはちゃんと届くだけの内容だ。面白い才能が出てきたものだと歓迎している。