The Explorers Club『GRAND HOTEL』
3月に入り、長く厳しかった今年の冬もようやく息切れの様子。ここ岐阜県中濃地区でも、ずい分過ごし易い気候になってきた。根が単純なせいか、陽気が良くなるとポップな楽曲が聴きたくなるのが常であって、この時期の私の部屋にはカラフルで軽快な音楽が溢れ返る。スクイーズ、ウイングス、ELO、ラズベリーズなど大御所から、70年代後半の泡沫パワー・ポッパーまで、様々なレギュラー陣が控えているが、それら一連のポップの匠たちに加え、今年新たにベンチ入りを果たしたアルバムがある。それがThe Explorers Clubの『GRAND HOTEL』。
- アーティスト: THE EXPLORERS CLUB
- 出版社/メーカー: アート・ユニオン
- 発売日: 2012/02/20
- メディア: CD
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2008年にリリースされた彼らのファースト・アルバム『Freedom Wind』はビーチ・ボーイズへの過剰なる愛と敬意が込められた作品で、かなり笑わせてもらった記憶がある。今回はジャケットからも分かるように、60年代のA&M作品を始め、ソフト・ロック的サウンドを標榜。また『Sunflower』、『Surf's Up』あたりのテイストを色濃く反映し、引き続きビーチ・ボーイズの溺愛ぶりも感じられる。
知っている人はよく知っているが、知らない人は全然知らんという類のアルバムだろう。しかし一部のマニアにだけ占領させておくにはもったいないクオリティを誇る作品だと思う。例えばアルバムに先駆けてシングル発売された曲はこんな具合。
Run Run Run
60年代後半から70年代前半ぐらいのソフト・ロック、ハーモニー・ポップに造詣が深い人であればあるほど、このメロディやアレンジ、コーラス・ワークを含め、サウンド作りのセンスと技量には舌を巻くのではないだろうか。ミックスはビーチ・ボーイズの一連のリイシューや『PET SOUNDS SESSIONS BOX』、『SMiLE』のエンジニアでもあるマーク・リネットが担当しているのだから、お墨付きとも言える。
この1曲のみならず、アルバム全体がこうしたサウンドで統一され、きらびやかな一大ポップ絵巻となっている。例えるならばカート・ベッチャーがプロデュースを手がけ、バート・バカラックやジミー・ウェッブが書いた曲を、カール・ウィルソンが歌っているとでも言えばいいか。
それのどこが絢爛豪華なのか、例えが理解できなくても大丈夫。そうした予備知識など全く無くても、このアルバムは楽しめるはずだ。
思えばCDで昔のアルバムが容易に入手できるようになった90年代あたりから、ビートルズ、ビーチ・ボーイズを筆頭とした60年代のサウンドを標榜するバンドはあまた登場した。そうしたバンドは少しでもかの時代のニュアンスに近づけようと、ヴィンテージの楽器や機材を導入したり、オシロスコープで60年代のレコードの音の波形を分析したりと、涙ぐましい努力を重ねた。個人的にはLilysとかStairsとか、好きなバンドもあるにはあったが、大半は「なるほど、こういうサウンドね」で片付いてしまうものでしかなかった。
何故なら彼らは60年代サウンドのフォロワーであり、クローンの域を出ることができなかったからだ。せいぜいマニアックな知識のあるリスナーを、にやりとさせるのが最大の成果だったのだ。一時的に面白がることはできても、残念ながら何年も愛聴できるほどのクオリティではなかった。予備知識が無ければなおさらのこと。何となく古臭い音と思っただけだろう。
一方、後年評価が確立されてから初めて聴いたという人にとってはどうなのか知らないが、中学生の時発売された大滝詠一の『ロング・バケイション』をリアル・タイムで聴いた者から言わせてもらえば、『ロン・バケ』がオールディーズからの大量の引用で構成された大滝流ポップの集大成などということは全く知る必要はなかった。そんなことは知らなくても田舎の中学生が毎日ターンテーブルに乗せて楽しめる魅力があったのだし、そうでなければあの時代に100万枚も売り上げるヒットになるはずはなかったのだ。
このThe Explorers Clubの『GRAND HOTEL』もそれに匹敵するアルバムだと思う。既に80年代の中学生ではないのだから、聴いていれば「これはバカラックのあの曲、これはフィフス・ディメンションの…」と元ネタに気付いてしまうのは致し方ない。日本盤CDには萩原健太さんによるライナーノーツに、それら元ネタが列挙されてもいるので、興味のある向きはそちらに当たっていただきたい。
そうしたマニアックな聴き方ももちろんできるのだが、私は何も知らない中学生の頃に戻ってこのアルバムを聴いてみたい欲求に駆られている。The Explorers Clubは60年代70年代のポップスへの深すぎる愛と探究心によって、内容が模倣を超えてしまったという確信があるのだ。中学生の頃の私なら、このアルバムをどう聴くだろう。
先日ビーチ・ボーイズの来日公演が発表された。デビュー50周年を記念して、ブライアン・ウィルソンを含む現存メンバーが集結して行う、ワールド・ツアーの一環で日本にもやって来るそうな。しかし先月のグラミー賞授賞式でのパフォーマンスは見るに忍びない無残なものだった。私にとって既にビーチ・ボーイズは「本人である」以外に見所は何も無い。The Explorers Clubは60年代サウンドのオリジネーターでこそないが、今こうしたサウンドを鳴らすバンドとしては右に出る者はいない。それこそビーチ・ボーイズとて、今はもうこれだけの音は出せないだろう。同じ見るならThe Explorers Clubのライヴの方が見たいと思う。
最後にこのアルバムのトレーラー映像を。どうやらオフィシャルなものではなく、ファンが勝手に作ったもののようだが、大変良く出来ており、思わず吹いたので転載。
- アーティスト: Explorers Club
- 出版社/メーカー: Rock Ridge Music
- 発売日: 2012/02/29
- メディア: LP Record
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- アーティスト: The Explorers Club
- 出版社/メーカー: Rock Ridge Msuic
- 発売日: 2012/02/29
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- アーティスト: THE EXPLORERS CLUB
- 出版社/メーカー: ART UNION
- 発売日: 2008/06/04
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