Alex Chilton『Free Again:The "1970" Sessions』



 ボックス・トップスが崩壊の秒読み段階に入った時期に、アレックス・チルトンがソロ作品としてレコーディングしていた音源が『Free Again:The "1970" Sessions』のタイトルで復刻された。
 この時の録音は当時陽の目を見ることは無く、86年にその一部が『Lost Decade』というコンピレーションでリリースされたが、『1970』として96年に発表されるまで全貌は明らかになっていなかった。その『1970』も長らく入手困難な状態が続いており、復刻が待たれていた。
 今回は『1970』に収録された12曲はもちろん、『Thank You Friends: The Ardent Records Story』というコンピレーションに収録されていた2曲を追加、さらに今まで未発表だった別ミックスやデモ・ヴァージョンなど6曲が加えられ、同時期の音源の完全版として全20曲入りでリリース。


Free Again: the 1970 Sessions

Free Again: the 1970 Sessions



 1967年、16歳でボックス・トップスのヴォーカリストに抜擢されたチルトンは、いきなり「The Letter」で全米No.1の大ヒットをかっ飛ばし、一躍スターダムにのし上がる。ダン・ペンのプロデュースの下、バンドはブルー・アイド・ソウルのスタイルで人気を博し、その後も順調にヒット・シングルを生み続けるも、度重なるメンバー・チェンジや、何よりチルトン自身の音楽的自我の目覚めによって、ヒットのためにあてがわれる曲を歌うことやプロデューサーの言いなりでしか作品を作れないことに強い不満を抱くようになる。やがてチルトンはギターを覚え、自分で曲を書き始めるのだが、ボックス・トップスではそれを発表することができなかったため、旧友でスタジオ・エンジニアだったテリー・マニングに話を持ちかけ、密かにソロ・アルバムのレコーディングを敢行する。1969年の夏のことだった。
 ウッドストックを筆頭に、音楽シーンはおろか、ありとあらゆる分野に変革の波が押し寄せていた時代。当時18歳だったチルトンが野心に燃えたのは当然で、アイドル・バンドのバブルガム・ミュージック(要するに子ども向けの取るに足らない音楽)との評価を払拭することができなかったボックス・トップスのイメージを打破しようとする意気込みもあったのだと思う。この作品には自分の新しい音楽スタイルを模索した痕跡が残されている。


Free Again



 今回の復刻盤のタイトルにもなった曲で、後年チルトンのライヴでもよく演奏された「Free Again」。チルトンの代表曲と呼んで差し支えなく、90年代にティーンエイジ・ファンクラブがカヴァーしたことで、チルトン再評価の露払いにもなった。
 「Free Again」(再び自由に)とは思い通りの音楽を作らせてもらえなかったボックス・トップスへの決別宣言であり、と同時にこの時期離婚を経験したチルトンが、不幸だった短期間の結婚生活からの解放を歌っているとも解釈できる。
 一聴して分かるように、サウンド面ではバーズからの影響が強い。上記掲載映像に映っているのは『1970』のジャケットだが、よく見ると中央に写るチルトンの手にバーズの『Untitled』が確認できる。チルトンはバーズ、特にロジャー・マッギンに大きな影響を受けたと言われており、それはギターの音や歌唱法に顕著に現れている。ただしバーズほどアクの強いカントリーではないし、CSN&Yのようにウェットなカントリー・ロックでもない。カントリーの体裁は借りつつも、チルトンはもっと軽く、ソリッドな音を目指していた。
 その目論見は71年に結成されるビッグ・スターによって発展され、具現化されるわけだが、この時点でその萌芽が確認できるのは興味深い。チルトン、ビッグ・スターの業績が見直されるには、後にギター・ポップ、パワー・ポップと呼ばれるスタイルが確立されるまで待たねばならなかった。


The EMI Song(Smile For Me)



 今作にはこんな儚げで美しい曲も含まれている。ボックス・トップスのツアーで渡英した際、アビー・ロード・スタジオを見学する機会に恵まれたチルトンが、アビー・ロードの第1スタジオで「ここが『Our World』の衛星中継で使ったスタジオかあ」などと思いながら、そこにあったピアノでコードを弾いているうちに出来た曲。曲作りの経験はまだ浅かったはずだが、こんな名曲をものにしてしまうあたり、やはり只者ではない。
 他にはストーンズの「Jumpin' Jack Flash」やアーチーズの「Sugar, Sugar」をカヴァーしたり、好き放題やっている感じ。バブルガム・ミュージックの代名詞のような「Sugar, Sugar」はやたらとヘヴィなアレンジで、これをアンチ・バブルガムの意志の表れと結びつけるのは短絡的かもしれないが、悪意が感じられる内容で笑える。
 70年初頭にボックス・トップスがなし崩し的に消滅するや、チルトンは今作を方々のレコード会社へ売り込むが、色好い反応は得られなかった。アトランティック・レコードは「Free Again」をシングルで発売して、反応を見てアルバムを出すか判断するという契約を提示したが、あくまでアルバムありきで考えていたチルトンはそれに応じなかった。
 今では歴史的名作と高く評価されるビッグ・スターの『#1 Record』(72年発表)ですら当時は数千枚しか売れなかったというから、チルトンの描く方向性をこの時期に見抜いたレコード会社が存在しなかったのも無理は無い。
 そうこうする内にチルトンはクリス・ベルらとビッグ・スターの結成へ向けて動き出し、冒頭で触れた通り今作は発売されることなく幻のアルバムとなった。1970年当時は理解されなかったテイストを持つ作品ではあるが、後のビッグ・スター、アレックス・チルトンの音楽を知る我々にとっては価値のある、埋もれた名作と言える。「無かったこと」にするにはあまりにも惜しいのだ。


Free Again: the 1970 Sessions [12 inch Analog]

Free Again: the 1970 Sessions [12 inch Analog]

 こちらはアナログ盤。1500枚限定のクリア・ヴィニール。曲はCDより少なく、チルトンが考えていたオリジナル通りの12曲入り。さらに500枚限定で7インチ付きの仕様もあるそうだが、日本には入ってきたのだろうか?


フリー・アゲイン:ザ・1970・セッションズ

フリー・アゲイン:ザ・1970・セッションズ

 3月には日本盤CDも出る。米英では1月に発売されており、日本盤が出るなんて知らなかったから私は輸入盤で買っちゃったよ。3月と言えばチルトンの命日も3月だ。あの訃報からもうじき2年だなあ。
 当初イギリス盤はアメリカ盤より曲数が多いという情報があったけれど、蓋を開けてみたら米英で収録内容は同じだった。恐らくこれ以上のマテリアルは無いと思われるので、日本盤も内容は同じでしょう。付属ブックレットにはメンフィス・シーンの研究家で音楽評論家のBob Mehrが9ページに亘って詳細な解説を寄せており、この邦訳を読みたい向きは日本盤がよろしいかも。ただしこれを書いている時点で日本盤の収録内容、ブックレットの翻訳の有無は未発表。悪しからず。2ヶ月も発売が遅いのに邦訳すら付けないとは考えにくいが。

 Bhi Bhiman『Bhiman』



Bhiman

Bhiman



 Bhi Bhimanと書いてビー・ビーマンと読むらしい。スリランカ系のアメリカ人で、両親がスリランカからの移民。彼自身はセントルイスで生まれ育ったそう。子どもの頃はニルヴァーナサウンド・ガーデンを聴いていたというから、普通のアメリカ人の子どもと変わらない音楽経験を経て、後にボブ・ディランやスティーヴィ・ワンダーに触発されて自分でも曲を作るようになった。現在はサンフランシスコを拠点に活動するシンガー・ソングライターである。これが彼のファースト・アルバム。


Guttersnipe

 アルバムの冒頭に収録された「Guttersnipe」という曲。伸びのある高音のヴォーカルの美しさと、抑制の効いたアコースティック・サウンドが印象的だ。派手さとは無縁だが、音楽的な誠実さが感じられる。
 アルバム全編を通してビーマン自身がギターを弾いて歌い、曲によってパーカッションやベース、キーボードなどが加えられている。アメリカのメディアでは「スリランカウディ・ガスリー」と形容されているようで、確かに古いフォークやカントリー・ブルーズからの影響はここかしこに見受けられる。そういったルーツ志向のシンガー・ソングライターは今や珍しくもないが、過去の音楽を掘り起こすことが目的化していない点は好感が持てる。彼は1930年代に生きているのではないのだから。


Kimchee Line

 まるでミシシッピジョン・ハートを思わせるギターを弾きながら歌われる「Kimchee Line」。この映像はライヴ・テイクだが、アルバムに収録されているのも同じ弾き語りのスタイルだ。北朝鮮のキムチ工場で働く男の悲哀を歌っている。

俺はキムチ工場で働いている 俺はキムチ工場で働いている
白菜を入れる番だ

俺は山へ登ったよ そこから抜け出せるかどうか見ようと
海へも行ってみたよ、神様 海は干上がっていた
だから俺は酸っぱいとうがらしを扱っている
海老や牡蠣も混ぜるんだ ビタミンEがあるからね

(中略)
俺はキムチ工場で働いている 俺はキムチ工場で働いている
わけぎを入れる番だ

俺は将軍様慶事までに この綱を引きちぎることは諦めたんだ
俺はまだこの偉大なる国を愛している
どこに座っているか話す前に 立ってる場所を話したいんだ
ここより自由な国に俺の姪と娘がいる

俺はキムチ工場で働いている 俺はキムチ工場で働いている
きゅうりを入れる番だ

 悲しい内容なのに深刻さは強調されず、どこかユーモラスに聴こえる。他の曲もストーリー性があり、時にシニカルに、時に優しい目線で描写された曲が多い。詞作の面からの評価も高いようで、検索して出てくるインタビューでは詞の内容に触れられたものが目立つ。
 もはや何がメインストリームなのか判別し辛いほどに、様々なタイプの音楽が溢れかえる中で、ビーマンの音楽は極めて渋く、大々的にヒットするとは考えにくい。彼自身も「ポップ・スターになりたいわけじゃない」と明言しており、他人と音楽で競うつもりもないのだろう。音楽産業に於いては当たり前のように企てられる、わざとらしいギミックや戦略に興味は無いらしい。ただし彼が自分の方向性に誠実にクリエイトした音楽は、届くところにはちゃんと届くだけの内容だ。面白い才能が出てきたものだと歓迎している。

 ワタナベマモル@名古屋御器所なんや



 引越し後初、そして2012年一発目のライヴはワタナベマモルさんの弾き語りライヴだった。マモさんの弾き語りライヴを見るのは、去年の5月以来だから久しぶりだ。
 会場の「なんや」は地下鉄の御器所駅から徒歩5分ぐらいの閑静な場所にある居酒屋。2階の座敷で月に数回ライヴのイベントを開いているようだ。マモさんも年に一度の割で出演していると言っていた。
 7時半ごろに到着して、飲み食いしながら開演を待つ。8時を回った辺りから、地元名古屋の人と思われる前座2組が演奏。15人ほど座れば一杯になってしまう、こじんまりとしたスペースは、マモさんが登場するころにはキャパをオーヴァーするすし詰め状態だった。
 とはいえ、動員は20人程度だったのだが。この動員でも全力で歌い、演奏するのがワタナベマモルのワタナベマモルたるところだ。弾き語りであろうとあくまでロックンロールにこだわるのもこの人ならでは。「行くぞ〜〜、ロックンロール賛歌!」のシャウトからライヴはスタート。曲の内容はもちろんのこと、ギターのカッティングのバリエーションからコードの選び方から、ロックンロールに対する豊富な知識と経験に裏付けられた、これぞロックンロールとしか呼びようの無い小宇宙が座敷に現出する。



 しょぼいコンデジで撮ったこんな写真しか無くてスミマセン。
 「ロックンロール賛歌」「ヒコーキもしくは青春時代」「野球場へ行こう」「キャデラック4号」「オイラの部屋へおいでよ」などライヴでの定番曲は抜群の客受けで、リピーターが多いらしくコール&レスポンスもばっちり決まる。個人的には「二人で歩いた」「どけよ」が久しぶりに聴けたのも嬉しかった。さらに「いつも同じのをやっていると(自分が)飽きるので」と新曲も披露。「明日荒川へ行って夕日を見よう(とか言うタイトルの長い曲)」と「自転車」の2曲がそれで、それぞれ初めて聴いたがいずれも叙情的な味わいがあって良かった。
 これも定番の「今週週末来週世紀末」で「♪わーいわーいわーーい」と盛り上がって本編終了後、ほとんど間髪を置かずにアンコールに突入。「時速4kmの旅」「森へ行こう」など3曲を歌い切った後は、観客の方もヘトヘトだった。演奏時間は1時間半に及ぶかという長丁場ながら、あっという間のライヴだった。弾き語りとは思えない密度とドライヴ感はさすが。ロックンロールに忠誠を誓うマモさんにとってはいつものことなのだろうが。たったひとりでバンド並みのグルーヴをここまで叩き出す人を、私は他に知らない。
 終演が11時近く、終電が出てしまう15分ほど前だったのでマモさんとは余り話もできなかったが、4月には山川のりを氏と一緒にまた名古屋へ来ると言っていた。その頃には私が少し制作でお手伝いした新しいDVDも発売できるだろうとのことで、併せて楽しみである。

 談志、逝く



 既に各種報道でご存知の通り、立川流家元、立川談志が亡くなった。享年75。
 その訃報に初めて触れた時は、とてもショックだった。しかし時間が経っても悲しいという感情はあまり湧いてこない。それよりは寂しい、寂寥の感ばかりが強まる。どこかでこの日が来ることを覚悟しており、それに直面した気持ちなのかもしれない。
 私にとって落語という芸能を知る切っ掛けを与えてくれたのが談志だったし、談志が落語の全てだった。落語が単なる滑稽な昔話ではないことに気づかせ、芸を通じて哲学や思想と言っていい深遠なる世界まで見せた唯一の人が談志だった。
 私の得意分野で例えるならば、ティーンエイジャーのちょっとした楽しみ、欲求不満の捌け口、言うなれば娯楽に過ぎなかったロックンロールを、世代を超えて人の生き方、考え方にまで影響を及ぼすものにしたビートルズに近いと思う。談志以前にそんな噺家がいただろうか。
 私とてその点をいきなり理解したわけではない。93年ごろにフジテレビで深夜に放送していた「落語のピン」という番組があり、これを見たのが最初の切っ掛け。今思えばかなり実験的な番組で、一席30分〜40分、時にはそれ以上ある談志の高座を、深夜とはいえCMによるカットも無く毎週見ることができた。その時録画したビデオは今でも持っていて、VHSなのですっかりクタクタになっているけれど、今でも時々見たりする。
 「落語とは人間の業の肯定である」とは談志の有名なテーゼだ。それを実践して見せる芸を、テレビを通じてではあったが、垣間見るにつけ、凄さを理解したのだった。
 と同時に実際の高座も見に行きたいと思っていたが、なかなか叶わず、初めて談志の高座を見たのは2002年だったから、ずい分と時間がかかったものだ。それ以前も何度かチケット入手を試みていたのだが、談志の公演は人気が高く、そうやすやすとは手に入らなかったのだ。それもそのはず、私が狙っていたのは特に人気の高い都心部での独演会ばかりで、目先を変えて八王子での独演会に手を出してみたらあっさり入手できたのだった。
 郊外ならチケットが手に入ることに気づいてからは、町田、立川、横浜などへ足を伸ばして見に行くようになった。都心の公演は相変わらず惨敗続きだったが、e+の先行抽選では座席を問わなければ結構当たることも分かり、有楽町のよみうりホールや、半蔵門国立演芸場など談志にとっての「ホーム」へも何度か行くことができた。ただ一番コアなファンが集結する国立演芸場の「ひとり会」は結局一度も行くことができなかったな。
 初めて見た八王子での独演会は、偶然にも五代目小さんが亡くなってから最初の独演会で、落語協会脱退の折に破門されていた談志は、師匠小さんの葬儀にも現れなかったことが報道された直後のことだった。まくらで小さんとは無関係な時事絡みの話を延々喋った後、「小さん師匠が死んだね」とぽつりとつぶやき、やおらバンダナを外し「今日は小さん師匠がやっていた通りにやる」と宣言して「三軒長屋」と「粗忽長屋」をかけたのだった。いずれも小さんが十八番としていた噺で、恐らくは若き日の談志が小さんに稽古をつけてもらった時のことを思い出しつつ演じたのであろう。マスコミで報道されるような尊大で頑固な談志のイメージとは真逆の、優しく繊細な人柄に触れるとともに、芸人談志の奥深さを知った瞬間だった。
 生の高座を見なければ談志は理解できないとまでは言わないが、実際の高座はテレビなどメディアを通じて見る高座とは一線を画していた。絶対放送できないような際どい話もバンバン出てくるし、まくらが長く、噺に入ってからもどんどん脱線するので、一席が1時間以上に及ぶこともしばしばだった。国際フォーラムでの公演の際、満員のホールCで高座に上がった談志は、開口一番に女性器の俗称を叫んだこともあった(笑)。
 これはただの自慢なのだが、談志自身が絶品だったと認めた2004年3月27日の町田市民ホールでの「居残り佐平次」や、芸能の神が舞い降りたと言われる伝説の2007年12月18日のよみうりホールでの「芝浜」も私は見ている。これらは『談志大全(上)』というDVDボックスで見ることもできるが、記憶が濁るような気がして私は見る気になれない。あの日実際の高座で触れた衝撃、迫力、会場の空気感までDVDに記録されているとは思えないのだ。
 初めて見たのが2002年なので、私が見ることができたのは60代〜70代の晩年期だけだ。2006年以降ぐらいは衰えが目立ち、見る度にやつれていっているのが客席からでも分かったから、なかなかに辛いものがあった。しかしその老醜を晒すことさえ、談志の場合はドキュメンタリーとして成立していた。立川談志という人間性を打ち出すことがひとつの芸であり、それが可能な選ばれし芸人だったのだと思う。
 8ヶ月の療養の末、2010年4月13日に高座へ復帰した談志は、その終演後の記者会見で引退宣言ととれる発言をしている。この日の模様は『談志が帰ってきた夜』というDVDで見ることができる。復帰は果たしたものの、談志落語として満足のいく芸はもうできないと悟ったのかも。実際、それ以降は落語会に出演しても、談志は漫談などの軽いトークしかやらなくなった。
 しかしある時から談志は方針を変更する。4月の復帰後、私が最初に見たのは11月24日のよみうりホールでの一門会。何とここで談志は「へっつい幽霊」を披露した。悪いね、また自慢ですよ。その直前の11月2日に久々の落語、「金玉医者」をかけたと知っていたので少しは期待していたのだが、本当に落語をやってくれるとは思っていなかった。その日、私がTwitterにポストした内容を拾ってみる。

 談志一門会@よみうりホールより帰宅。既に伝わっているだろうけど、家元が高座に上がるサプライズ。かなり長めの落語ちゃんちゃかちゃんに続いて、へっつい幽霊に入った時は震えた。
 4月に自らの体調不良から「もう落語はやらない」と宣言して以降の落語会では、まともな落語は弟子に任せ、漫談程度でお茶を濁していたから、もう家元の落語は聞けないものと思っていた。
 今日だって家元の声の調子は、往時に比べると足元にも及ばなかった。落語ができない不甲斐ない姿を見せるのも、ドキュメントとしての芸であって、それが許されるのが家元だ。でもへっつい幽霊を一席やり遂げたのは、何か期するものがあったのだろうなあ。
 前段のちゃんちゃかちゃんの中で、「芝浜」のエンディング部分を演じたところは、会場の空気が明らかに変わった。3年前のこの会場で見ることが出来た奇跡の芝浜を思い出させた瞬間だった。
 へっつい幽霊は基本をなぞる感じで、家元の好調時のテンションではなかった。あれが限界だったのかもしれない。以前の家元なら一席終えて緞帳が下がると、すぐに上げさせて反省やら言い訳やらをぶつのが恒例だったが、それは無し。不完全であることを熟知しつつ全力を出し切った結果だったのかと。

 古典落語は伝統的な型があって、それを忠実に再現するのが正当とされる評価の仕方がある。その型を習得した上で、「このままでは落語は能のような伝統芸能になる」と危惧したのが談志だった。伝統的なスタイルを知らずに滅茶苦茶やるのは論外として、形式だけを遵守して目の前にいる現代の客に伝わらない芸のどこが正当だと言ったのだ。その考えを具現化したのが談志落語であり、立川流の落語だった。
 しかしそれを実践するには、現代を生きている観客に対峙するだけのエネルギーを要する。噺の中にリアルタイムの皮膚感覚として分かる狂気や風刺を織り込む必要があるからだ。4月の時点で談志はその限界を感じていたのだろう。
 最近の報道によって、11月に談志の喉頭癌が再発していたことを知った。11月24日のよみうりホール、或いはその前に「金玉医者」を披露した11月2日のムーブ町屋公演の時には再発していた可能性が高い。自ら標榜した談志落語には及ばないことは承知の上、形式としての落語、噺の筋を聞かせる落語を見せておく必要もあると思っていたのではないかと思う。談志はそれほど伝統的な古典落語(この場合は談志の少年時代、即ち昭和20年代に聞いた落語)を愛していた。





 この動画は1980年に収録されたもの。ちょうど漫才ブームの頃だ。「漫才」を「MANZAI」と表記して、ツービート、B&B紳助竜介らを中心に若者の感覚に訴えた漫才が人気を博した時代。その時期に漫才に熱狂していた世代を寄席に集め、落語の魅力を知らしめようとする企画で収録されたものだと思われる。この動画の中で、談志は落語とは何かを非常に分かりやすく語っている。落語の理解、普及には誰よりも熱心だったことがよく分かる。
 私が見た11月24日のよみうりホール以降も、談志は何度かの落語会で高座に上がっている。私がその次に見たのは翌年、即ち今年の2月20日立川市アミューたちかわでの一門会だった。この時談志は「文楽がやっていた通りにやる」と言って「明烏」をかけた。多くの落語家が演じる有名な噺ではあるが、談志による「明烏」は後にも先にもこの時しか聞いたことが無い。この日もストーリーをなぞるに留め、伝承に特化した高座だった。まくらもほとんど無く、いきなり噺に入り、下げの後は普通に緞帳が下りただけだった。
 私が見た談志の高座はこれが最後。その直後の3月6日の川崎市麻生文化センターでの一門会が談志自身の最後の高座になってしまった。
 長々と書いてきて、やはり寂しさはつのるばかりだ。最重要人物を失った落語界はこれからどうなっていくのだろう。談志の弟子たちの高座も何度も見ているので、彼らは見事に談志落語を受け継いでいることは認めるが、それでも師匠談志を凌駕するほどの個性はまだ見出せない。談志はそれほど大きな存在だった。
 談志の最後の高座となった川崎市麻生文化センターで、来る12月8日、立川流一門会が開かれる。しかも最後の高座に同席した志らく、談笑も出演となれば、当然追悼色の強い会となることだろう。私は既にチケットを入手しており、はせ参じる所存。今を生きる芸である落語が談志亡き後も生き続けていることを確認したいと思う。談志の最後の演目は「長屋の花見」と「蜘蛛駕籠」だった。季節柄「長屋の花見」は無理としても、志らくか談笑のどちらかに「蜘蛛駕籠」をやってもらいたいなあ。

 住所不定無職『トーキョー・ポップンポール・スタンダードNo.1フロム・トーキョー!!! 』



 今年1月に出た『JAKAJAAAAAN!!!!!』に続く住所不定無職の2ndフルヴォリューム・シングル。ミニ・アルバムではなくフルヴォリューム・シングルと称するこだわりの理由はよくわからないが、今回は『JAKAJAAAAAN!!!!!』のように旧作のリメイクは無く、純然たる新曲7曲(+シークレット1曲)で構成されている。


トーキョー・ポップンポール・スタンダードNo.1フロム・トーキョー!!!

トーキョー・ポップンポール・スタンダードNo.1フロム・トーキョー!!!



 賢明なる皆様はとうに聴いておられると思うが、賢明ではない人もいるかもしれないので、何はともあれこの曲を。





 今作のタイトル・チューンと言っても過言ではない「MAGIC IN A POP!!!」。住所の曲の魅力は、何と言ってもザ・ゾンビーズ子が書くキャッチーなメロディと、60年代のヒット・ポップスを髣髴とさせる甘酸っぱさにある。初めてこのバンドに出会った時からそれは変わっていないが、レコーディングの機会を重ねることでアレンジや録音はより洗練され、その魅力がダイレクトに伝わるようになってきた。この曲は住所の全楽曲の中でもそれが最大に発揮されている、彼らの真骨頂だ。
 メロディだけでなく、ユリナの書く詞がポップなイメージの膨らみに拍車をかけている。詞の内容は意味らしい意味は無く、ほとんど言葉遊びのようなもの。ハッピーで弾けた要素を散りばめながら、随所で巧みに韻を踏んでいるところが素晴らしい。リズムに対する語感の選択もばっちりだ。最後の「太陽を/ギューッて/したいよー」など、心憎くて聴く度にキュンキュンする。また間奏部分で入るスキャットも、歌唱テクニックはともかくセンスは最高。
 「MAGIC IN A POP!!!」は象徴的な曲だが、それ以外の曲も粒ぞろい。異種格闘技戦のようでありながら、両者の持ち味を見事にブレンドしたイルリメとのコラボ「恋のエンドロール」。カジヒデキがプロデュースを手がけたせいか、珍しくアレンジに都会的なテイストが感じられる「キスキス」。タイトル通りドゥーワップのスタイルを取り入れ、オールディーズ色の強い「ドゥーワッパ!」。唯一詞も曲もユリナによるせつな系のバラード「あの娘メロディメイカー」。住所がコミカル路線のナンセンスなロックンロールを得意とする、もうひとつの側面を印象付ける「ロックンロール・マルチまがい商法」。そしてフィル・スペクター愛をストレートに表現した「ハッピ!ハッピ!クリスマス!〜サンタが家にやってきた〜」。さらにシークレット・トラックが1曲あるのだが、これは聴いた人だけのお楽しみとしておきましょう。
 曲調はバラエティに富みつつ、住所流のポップ・センスで統一されている。ポップ・ミュージックとは、言ってしまえば嘘、実際にはありもしない虚構を表現するものだ。それは歌詞の内容に限った話ではなく曲も含めてのことで、ある種のポップ・ミュージックを形容するのに「ドリーミーである」と言うのもそれ故である。
 住所の皆さんはそのことに自覚的で、聴く者を実に上手く騙してくれる。そもそも住所不定無職なんてバンド名が嘘だし(笑)。ポップ・ミュージックが好きということは、言い換えれば騙されたがっているということだ。ポップ・ミュージックに蓄財や処世術を求める人などいないだろうし、もし実際にそんな曲があったら嫌だ。一流のポップ・ミュージックの作り手は、一流の詐欺師でもあって、私などポール・マッカートニーやら、トッド・ラングレンやら、エルヴィス・コステロやら、ブライアン・ウィルソンやらにどれだけ金を巻き上げられてきたか分からない。
 住所もそれに匹敵するロックンロール・スウィンドルの素質は十分だ。これからも彼らのマルチまがい商法には喜んで引っかかる所存。


JAKAJAAAAAN!!!!!(再発盤)

JAKAJAAAAAN!!!!!(再発盤)

 こちらは『JAKAJAAAAAN!!!!!』の再発盤。1月に出たオリジナルの『JAKAJAAAAAN!!!!!』は既に生産完了だそうで、付属DVDが無くなったのと、TV番組「めちゃ×2イケてるッ!」のエンディング・テーマに使われた「1・2・3!」が「大人の事情」によってカットされている。その代わり再発盤は紙ジャケ。裏ジャケも変更されており、何かのレコードのパロディのような気がするが、元ネタが分からない…。

 住所不定無職 presents「MAGIC IN A POP'N'PAUL SHOW 〜PHASE1〜」@下北沢THREE



 先週発売になった2ndフルヴォリューム・シングル「トーキョー・ポップンポール・スタンダードNo.1フロム・トーキョー!!!」の発売を記念したレコ発イベントの第1弾。何とも欲張りなことに、3ヶ月連続でレコ発を行ってしまうのだ。
 いきなり結論を言ってしまうが、いやもう、壮絶なライヴだった。私はこのバンドのライヴは多分20回近く見ているけれど、予想はいつも斜め上方向に裏切られる。この日もその例に漏れなかった。
 セットリストは別掲参照。レコ発なのに新譜の曲をなかなか演奏しないところが何とも焦らし上手。新譜には入らなかった新曲の「シャ!シャ!シャ!シャイン・ア・ライト!」を披露したりして、「まだか〜?」とそろそろしびれを切らし始めたところで「MASIC IN A POP!!!」を持ってくる演出が憎い。
 この曲はキーボードのリフが印象的なので、ライヴではキーボード・プレーヤーをゲストに入れるのかと思っていたが、3人だけでの演奏だった。音の厚みが足らない部分は脳内で補完できるほどには聴き込んでいたため、違和感は無し。ユリナとヨーコのヴォーカルの掛け合いだけでも相当高度なことをちゃんとやってのけていたし、CDで聴けるサウンドとは一味違うライヴ・ヴァージョンは、新鮮な感動を残した。
 ライヴでは必ず演奏する代表曲「I wanna be your BEATLES」を挟んで、再度新譜から演奏された「キスキス」も素晴らしかった。この曲も新譜の中ではライヴ演奏が難しいと思われた曲だが、けなげに演奏する3人の熱意が伝わる出来栄えだった。
 ところが、内容と演奏の出来のバランスが取れていたのはこの辺りまでだったのだ。その次の「テレフォンナンバーリンリンリン」はゾンビーズ子とユリナのパート・チェンジが行われるのだが、何故かゾンちゃんのギターがぎこちなく、転換もダラダラとした印象。それまでスムーズだった流れに淀みが感じられた。ここからパフォーマンスがガラガラっと崩れてしまったように見えた。
 続く「メガネスターの悲劇」はユリナのリード・ギターが見ものなのだが、あれっ?どうしてそんなに弾けてないのだーー。この間はちゃんと弾けてたのに。この不可解さが住所のライヴのスリルでもあるのだが。
 それ以降はパンクとしか形容できない荒々しい演奏で最後まで押し切った住所の皆さんだった。アンコールでの「ロックンロール・マルチまがい商法」はユリナがダブルネックベース、ヨーコがゾンちゃんのグレッチを弾くという余興的趣向もあったりしたが、もちろん演奏はパンクであった。「いつも同じ楽器だと飽きるんだもん」とはユリナのMCでの弁。ユリナはよく「何か決める時に考えないようにしている」と言っている。これも単に同じ楽器を弾くことに飽きたという以上の理由は無いのだろう。実際に弾けるかどうかは別問題で、やりたかったからやったという姿勢が、演奏内容と同じくパンクなのだ。
 住所不定無職は演奏能力以上の楽曲を作ってしまうところがその特徴でもあって、ライヴはそんなことをする人たちを実際に見たいがために行っているところがある。だから演奏の出来不出来はそれほど大きな問題ではない。ただ2月に同じ会場で見た初ワンマンは演奏内容の面でも本当に素晴らしい出来だったので、この日のライヴにも期待するところはあった。それが叶わなかったのは事実だけれども、別に手を抜いていたとは思わないし、新曲を演奏することに気を取られるあまり、演奏し慣れている曲への集中力を欠いたぐらいのことではないかな。そこがこのバンドの面白いところでもある。
 終演後、物販コーナーで販促に励むユリナとヨーコと少し話す機会があったのだが、「CDは本当に自分たちで演奏しているんです。信じてください」と涙ながらに訴えられてしまった。別にトラを使っているのではないかなんて言っていないのに(笑)。このライヴの演奏の出来がいまいちだったことは本人たちも気にしているのね。大丈夫、私も鬼ではないのだから、ライヴの良かった面だけを記憶に留めるようにしよう。
 個人的事情から、住所のライヴはこれで当分見納め。次はいつ見られるか、今は全く分からないのだが、時間が空く分、色々な変化に期待しよう。まあそれも裏切られるのかな。

住所不定無職セットリスト@下北沢THREE 2011年11月20日
1.マジカルナイトロックンロールショー
2.ラナラナラナ
3.シャ!シャ!シャ!シャイン・ア・ライト
4.1・2・3
5.MASIC IN A POP!!!
6.I wanna be your BEATLES
7.キスキス
8.テレフォンナンバーリンリンリン
9.メガネスターの悲劇
10.ドゥーワッパ!
11.あの娘のaiko
12.渚のセプテンバーラブ
13.あいつはファニーボーイ
〜encore〜
14.ロックンロール・マルチまがい商法
15.世界で一番素敵なガール

 リリース情報:Kinks in Mono



 11月も半ばを過ぎようとする今日このごろ、今年もクリスマス商戦を見越した各種ボックス・セット、デラックス・エディションの類のリリースが目白押し。やれ『SMiLE』だ、『Some Girls』だ、『四重人格』だ、フロイドだ、スペクターだと喧しい。私はもうゼエゼエと肩で息をしています。体力的にも経済的にもフォローが追いつかなくて…。
 しかーし、豪華絢爛リリース・ラッシュの中でも個人的に見逃せない箱ものの存在が。世間的にはあまり注目されていないような気もしたので、備忘録を兼ねて取り上げておく。


Kinks Mono Box Set


Kinks in Mono

Kinks in Mono



 一昨年のビートルズ、昨年のディランに続き、遂にキンクスもモノラル音源を集大成。パイ・レーベルに残したオリジナル・アルバムの内、モノでリリースされた7タイトルと、4タイトルのEP、及びアルバム未収録音源をコンパイルし、CD10枚にまとめたセット。現在のところ英Sanctuary盤のみで、11月29日の発売が予定されている。収録曲目詳細は以下に。

CD 1: Kinks (Pye NPL-18096, 1964)
1.Beautiful Delilah
2.So Mystifying
3.Just Can’t Go To Sleep
4.Long Tall Shorty
5.I Took My Baby Home
6.I’m A Lover Not A Fighter
7.You Really Got Me
8.Cadillac
9.Bald Headed Woman
10.Revenge
11.Too Much Monkey Business
12.I’ve Been Driving On Bald Mountain
13.Stop Your Sobbing
14.Got Love If You Want It

CD 2: Kinda Kinks (Pye NPL-18112, 1965)
1.Look For Me Baby
2.Got My Feet On The Ground
3.Nothin’ In The World Can Stop Me Worryin’ ‘Bout That Girl
4.Naggin’ Woman
5.I Wonder Where My Baby Is Tonight
6.Tired Of Waiting For You
7.Dancing In The Street
8.Don’t Ever Change
9.Come On Now
10.So Long
11.You Shouldn’t Be Sad
12.Something Better Beginning

CD 3: The Kink Kontroversy (Pye NPL-18131, 1965)
1.Milk Cow Blues
2.Ring The Bells
3.Gotta Get The First Plane Home
4.When I See That Girl Of Mine
5.I Am Free
6.Till The End Of The Day
7.The World Keeps Going Round
8.I’m On An Island
9.Where Have All The Good Times Gone
10.It’s Too Late
11.What’s In Store For Me
12.You Can’t Win

CD 4: Face to Face (Pye NPL-18149, 1966)
1.Party Line
2.Rosie Won’t You Please Come Home
3.Dandy
4.Too Much On My Mind
5.Session Man
6.Rainy Day In June
7.A House In The Country
8.Holiday In Waikiki
9.Most Exclusive Residence For Sale
10.Fancy
11.Little Miss Queen Of Darkness
12.You’re Looking Fine
13.Sunny Afternoon
14.I’ll Remember

CD 5: Something Else by the Kinks (Pye NPL-18193, 1967)
1.David Watts
2.Death Of A Clown
3.Two Sisters
4.No Return
5.Harry Rag
6.Tin Soldier Man
7.Situation Vacant
8.Love Me Till The Sun Shines
9.Lazy Old Sun
10.Afternoon Tea
11.Funny Face
12.End Of The Season
13.Waterloo Sunset

Disc 6: The Kinks are the Village Green Preservation Society (Pye NPL-18233, 1968)
1.The Village Green Preservation Society
2.Do You Remember Walter Mono
3.Picture Book
4.Johnny Thunder
5.Last Of The Steam Powered Trains
6.Big Sky
7.Sitting By The Riverside
8.Animal Farm
9.Village Green
10.Starstruck
11.Phenomenal Cat
12.All Of My Friends Were There
13.Wicked Annabella
14.Monica
15.People Take Pictures Of Each Other

CD 7: Arthur, or the Decline and Fall of the British Empire (Pye NPL-18317, 1969)
1.Victoria
2.Yes Sir, No Sir
3.Some Mother’s Son
4.Drivin’
5.Brainwashed
6.Australia
7.Shangri-La
8.Mr. Churchill Says
9.She’s Bought A Hat Like Princess Marina
10.Young And Innocent Days
11.Nothing To Say
12.Arthur

CD 8: The EPs (Kinksize Session Pye NEP 24200, 1964, Kinksize Hits- Pye NEP 24203, 1964, Kwyet Kinks Pye NEP 24221, 1965, Dedicated Kinks Pye NEP 24258, 1966)
1.Louie Louie
2.I Gotta Go Now
3.Things Are Getting Better
4.I’ve Got That Feeling
5.You Really Got Me
6.It’s Alright
7.All Day And All Of The Night
8.I Gotta Move
9.Wait Till The Summer Comes Along
10.Such A Shame
11.A Well Respected Man
12.Don’t You Fret
13.Dedicated Follower Of Fashion
14.Till The End Of The Day
15.See My Friends
16.Set Me Free

CD 9: Mono Kollectables, Disc One
1.Long Tall Sally
2.You Still Want Me
3.You Do Something To Me
4.Beautiful Delilah (Alternate Mono Mix)
5.I’m A Lover Not A Fighter (Alternate Mono Mix)
6.Bald Headed Woman (US Mono Mix)
7.Ev’rybody’s Gonna Be Happy
8.Who’ll Be The Next In Line
9.I Need You
10.Never Met A Girl Like You Before
11.Sittin’ On My Sofa
12.I’m Not Like Everybody Else
13.Dead End Street
14.Big Black Smoke
15.Act Nice And Gentle
16.Autumn Almanac

CD 10: Mono Kollectables, Disc Two
1.Afternoon Tea (Canadian Mono Mix)
2.Susannah’s Still Alive
3.Wonderboy
4.Polly
5.Lincoln County
6.There’s No Life Without Love
7.Days
8.She’s Got Everything
9.Hold My Hand
10.Creeping Jean
11.Plastic Man
12.King Kong
13.Mindless Child Of Motherhood
14.This Man He Weeps Tonight
15.Australia (Australian Single Version)
16.Lola
17.Berkeley Mews
18.Apeman
19.Rats
20.Apeman (European Single Version)

 ご覧のようにCD1〜7のオリジナル・アルバムは現行CDのようなボーナス・トラックは収録しておらず、60年代にリリースされたものと同じ曲目曲順。マニア的にはCD9と10のレア音源集が貴重か。1970年のアルバム『Lola Versus Powerman〜』はモノ・ヴァージョンが存在しないので、アルバムとしては今回のボックスには入らないが、CD10の16、18、19といった収録曲はシングル化されたためにモノ・ヴァージョンが作られている。そこまで網羅する徹底ぶり。16の「Lola」は現行CD『Lola Versus Powerman〜』のボーナス・トラックで聴けるけど。
 CD9に収録される「Beautiful Delilah (Alternate Mono Mix)」は初登場音源だそうで、現在ネット上でフルサイズのサンプルが公開されている。→こちら
 各CDのジャケットはデジパック仕様。また32ページのブックレットが付属するとのこと。一部ブックレットの内容を含め、オフィシャルのFacebookページにて仕様が確認できるようになっている。→こちら
 パイ時代のキンクスのアルバムと言えば、今春から2枚組のデラックス・エディションで再発されており、新たにリマスタリングし直された高音質のモノ・ヴァージョンを聴くことができた。このボックスも恐らく同じ音源を使用しているものと思われるが、現在のところ確たる情報が無い。これで旧マスターだったら画竜点睛を欠くもいいところなので、期待はしている。
 正直なところ、キンクスのCDは何度買い直ししたのか分からないほどで、いい加減にせえよと言いたい気持ちも無くはない。しかしファンの悲しい性というのでしょうか、毒を食らわば皿までもという言葉もある。出るのなら押さえておきたい欲求と、箱に入っているスペシャル感に、ついつい背中を押されてしまうのは私だけではないだろう。発売がアナウンスされていた『Lola Versus Powerman〜』と『Muswell Hillbillies』のデラックス・エディションは延期の末、結局発売されないようなので、その分浮いた予算を回せるという目論見もある。
 さらに、これはキンクスに限った話ではないのだが、どうやらいよいよCDのフォーマットが最終局面を迎えているようなのだ。こちらのページによると、メジャー・レーベル各社は2012年末か、場合によってはそれより早い時期に、CDでの販売を終了し、以降はネット配信のみに移行するとのこと(ただし限定盤は一部残るとも)。この情報にどこまで信憑性があるのか分からないが、昨今のようにCDのボックス・セットやデラックス・エディションなる商品が大量に市場に投入されるのは、そろそろ終わりと考えた方が良さそうだ。少なくともキンクスのボックス・セットがリリースされるのは、これが最後ではなかろうか。これで打ち止めと思えば、思い切ってポンと…。


Hidden Treasures

Hidden Treasures



 こちらはボックス・セットに先んじて先月発売されたデイヴ・デイヴィスのソロ音源をまとめたコンピレーション。67年にソロ名義でリリースしたシングル「Death Of A Clown」がヒットしたことでソロ・アルバムの発売が計画されたデイヴだったが、その後のシングルが振るわず、結局計画は頓挫してしまった。しかし68〜69年頃にアルバム1枚分に匹敵する音源は出来上がっており、一部はキンクスの再発CDにボーナス・トラックとして収録されたり、日本でのみデイヴがヴォーカルを担当したキンクス作品と合わせてCD化されたりもしたが、この時期のソロ音源を完全に網羅した作品はこれが初めて。
 レアなミックス違いなども収録されており、これで死んだ子の歳を数えることもなくなるだろう。収録曲を以下に。

1. Susannah’s Still Alive
2. This Man He Weeps Tonight
3. Mindless Child of Motherhood
4. Hold My Hand
5. Do You Wish to Be a Man
6. Are You Really
7. Creeping Jean
8. Crying
9. Lincoln County
10. Mr. Shoemaker’s Daughter
11. Mr. Reporter
12. Groovy Movies
13. There Is No Life Without Love
14. I Am Free (mono mix)
15. Death Of A Clown (mono mix with single tracked vocal)
16. Love Me Till The Sun Shines (mono mix with less percussion & handclaps)
17. Susannah’s Still ALive (mono)
18. Funny Face (mono)
19. Lincolm County (mono mix, pitched lower & edited)
20. There’s No Life Without Love (mono mix, pitched lower with diff. vocal balance)
21. Hold My Hand (mono mix)
22. Creeping Jean (mono mix, with additional vocals during instrumental break)
23. This Man He Weep Tonight (mono mix with acoustic guitar added )
24. Mindless Child Of Motherhood (mono mix)
25. Mr. Reporter (alternate mix)
26. Hold My Hand (early take with guide vocal, no overdubs)
27. Good Luck Charm