住所不定無職『トーキョー・ポップンポール・スタンダードNo.1フロム・トーキョー!!! 』
今年1月に出た『JAKAJAAAAAN!!!!!』に続く住所不定無職の2ndフルヴォリューム・シングル。ミニ・アルバムではなくフルヴォリューム・シングルと称するこだわりの理由はよくわからないが、今回は『JAKAJAAAAAN!!!!!』のように旧作のリメイクは無く、純然たる新曲7曲(+シークレット1曲)で構成されている。
トーキョー・ポップンポール・スタンダードNo.1フロム・トーキョー!!!
- アーティスト: 住所不定無職
- 出版社/メーカー: DECKREC/UK.PROJECT
- 発売日: 2011/11/16
- メディア: CD
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賢明なる皆様はとうに聴いておられると思うが、賢明ではない人もいるかもしれないので、何はともあれこの曲を。
今作のタイトル・チューンと言っても過言ではない「MAGIC IN A POP!!!」。住所の曲の魅力は、何と言ってもザ・ゾンビーズ子が書くキャッチーなメロディと、60年代のヒット・ポップスを髣髴とさせる甘酸っぱさにある。初めてこのバンドに出会った時からそれは変わっていないが、レコーディングの機会を重ねることでアレンジや録音はより洗練され、その魅力がダイレクトに伝わるようになってきた。この曲は住所の全楽曲の中でもそれが最大に発揮されている、彼らの真骨頂だ。
メロディだけでなく、ユリナの書く詞がポップなイメージの膨らみに拍車をかけている。詞の内容は意味らしい意味は無く、ほとんど言葉遊びのようなもの。ハッピーで弾けた要素を散りばめながら、随所で巧みに韻を踏んでいるところが素晴らしい。リズムに対する語感の選択もばっちりだ。最後の「太陽を/ギューッて/したいよー」など、心憎くて聴く度にキュンキュンする。また間奏部分で入るスキャットも、歌唱テクニックはともかくセンスは最高。
「MAGIC IN A POP!!!」は象徴的な曲だが、それ以外の曲も粒ぞろい。異種格闘技戦のようでありながら、両者の持ち味を見事にブレンドしたイルリメとのコラボ「恋のエンドロール」。カジヒデキがプロデュースを手がけたせいか、珍しくアレンジに都会的なテイストが感じられる「キスキス」。タイトル通りドゥーワップのスタイルを取り入れ、オールディーズ色の強い「ドゥーワッパ!」。唯一詞も曲もユリナによるせつな系のバラード「あの娘メロディメイカー」。住所がコミカル路線のナンセンスなロックンロールを得意とする、もうひとつの側面を印象付ける「ロックンロール・マルチまがい商法」。そしてフィル・スペクター愛をストレートに表現した「ハッピ!ハッピ!クリスマス!〜サンタが家にやってきた〜」。さらにシークレット・トラックが1曲あるのだが、これは聴いた人だけのお楽しみとしておきましょう。
曲調はバラエティに富みつつ、住所流のポップ・センスで統一されている。ポップ・ミュージックとは、言ってしまえば嘘、実際にはありもしない虚構を表現するものだ。それは歌詞の内容に限った話ではなく曲も含めてのことで、ある種のポップ・ミュージックを形容するのに「ドリーミーである」と言うのもそれ故である。
住所の皆さんはそのことに自覚的で、聴く者を実に上手く騙してくれる。そもそも住所不定無職なんてバンド名が嘘だし(笑)。ポップ・ミュージックが好きということは、言い換えれば騙されたがっているということだ。ポップ・ミュージックに蓄財や処世術を求める人などいないだろうし、もし実際にそんな曲があったら嫌だ。一流のポップ・ミュージックの作り手は、一流の詐欺師でもあって、私などポール・マッカートニーやら、トッド・ラングレンやら、エルヴィス・コステロやら、ブライアン・ウィルソンやらにどれだけ金を巻き上げられてきたか分からない。
住所もそれに匹敵するロックンロール・スウィンドルの素質は十分だ。これからも彼らのマルチまがい商法には喜んで引っかかる所存。
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