The Jimi Hendrix Experience『BBC Sessions』



 ジミ・ヘンドリックス没40周年に当たる今年は、ジミの公式カタログの発売権がソニーに移ったこともあって、怒涛のリリース攻勢が続いている。3月の第1波に続き、今月は大量リリースの第2波が。その中でも注目作品はCD4枚、DVD1枚のボックスセット『West Coast Seattle Boy』であることは疑いないでしょう。
 既にアメリカ盤のボックスセットが先週から店頭にも出回っているようだが、私はEU盤で注文したために未入手。EU盤はアメリカ盤より1週間ほど発売が延期になってしまったのだ。それを待ちつつ、同時リリース作品の中から先に届いた『BBC Sessions』を聴いている。


 タイトル通り、BBCに残されたジミの音源をコンパイルした編集盤で、元々は98年にMCAから発売されていた。その時はCD2枚組での発売だったが、今回はDVD1枚が追加されてのリイシュー。またCDもMCA盤には入っていなかった「真夜中のランプ」(67年8月24日に「Top Of The Pops」で収録されたテイク)がボーナス・トラックとして追加された。
 旧盤を所有している人も、DVDがどうなっているか気になっていると思うので、一部内容を紹介。
 私が入手したのはアメリカ盤。DVDのリージョンはフリーだった。


 これらの人物が証言者として登場するドキュメンタリー形式の映像。左上は音楽ライターのデヴィッド・シンクレア、右上と左下は当時のBBCでジミと関わったプロデューサー。そして右下が故ノエル・レディング

 インタビュー・シーンが多いので、字幕が無いと少々辛い。日本語は無いが、英語を始め6カ国語の字幕は選択できるようになっている。


 ライヴ映像はルルが司会を務めるテレビ番組、「A Happening For Lulu」でのスタジオライヴから3曲分を見ることが出来る。「ヴードゥー・チャイル」「ヘイ・ジョー」「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」がそれ。この3曲はCDのディスク2にも音源が収録されている。
 この番組は69年1月4日に生放送されたものだが、「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」は放送予定に入っていなかった演奏。「ヘイ・ジョー」が終わるとジミが「(解散した)クリームに捧げる」と言って演奏を始めてしまう。そのシーンもしっかり見ることができる。ノエル・レディングによれば、ディレクターがびっくりして「止めろ!」とサインを出していたのを覚えているそう。そりゃあ現場は混乱しただろうな。
 69年1月と言えば、ノエルが脱退する直前で、オリジナルのエクスペリエンスとしては最後期の演奏ということになる。バンドは行き詰まりを感じていた時期のはずだが、映像を見る限りメンバーは和気あいあいとしたもの。テレビ番組だし、以前のヒット曲を演奏するだけだし、結構気楽なものだったのかもしれない。
 ちゃんと見ることができるライヴ演奏はこの3曲だけ。他にも証言者の発言に合わせて、アレクシス・コーナーの番組で演奏した「フーチー・クーチー・マン」やら、ジョン・レノンがコーラスで参加したと噂があった「デイ・トリッパー」やら何曲かが流れるが、画面上は静止画や、他のライヴ映像に音だけ乗せたものだったりする。
 ラジオ用に録音した音源に映像が残っていないのは当然だが、「Top Of The Pops」など他のテレビ番組に出演した時の映像は無かったのだろうか。それとも今後リリースされる予定があるので、慎重に残しておいたのか。
 収録時間はトータルで約24分。監督は『West Coast Seattle Boy』に入るドキュメンタリーと同じボブ・スミートンだった。
 珍しいカヴァーや、アルバム用のレコーディング前に録音されたテイクが聴けるCDの方は聴き応えある2枚組なので、未聴であれば入手する価値は充分あるだろう。問題は既にMCA盤で持っている人はどうするかだ。まあせいぜい悩んでくださいな。私はもう買っちゃったから悩む必要は無くなった。「A Happening For Lulu」の映像はちゃんと見たことが無かったし、映像としては思いの外綺麗だったので不満はない。


BBC Sessions

BBC Sessions

 こちらがアメリカ盤。
BBCセッションズ(DVD付)

BBCセッションズ(DVD付)

 こちらは日本盤。発売が12月8日予定と、輸入盤より遅いからDVDに日本語字幕が入るのだろうか?
 シンコーミュージックのTHE DIG Special Editionとして発売された1冊まるごとジミ・ヘン・ムック。『West Coast Seattle Boy』をディスクごとに詳細に検証したり、全オリジナル作と主要編集盤の解説など、資料性は高い。「買ってはいけないジミヘンアルバム」ベスト10のコラムは笑える。
 他に生前最後のインタビューや、69年のミュージックライフ誌に掲載された日本のメディア唯一のインタビューの再録。渡英から亡くなるまでの4年間のジミのスケジュール一覧など、読み応えは充分。今年の各種リイシューの副読本として最適。