Elvis Costello『National Ransom』
スターバックスが設立したレーベル、Hear Music移籍第2弾。Universalに所属していた頃はアルバムごとに発売するレーベルが異なっていたエルヴィス・コステロだが、落ち着くべきところへ落ち着いたかなという気がする。
前作『Secret, Profane & Sugarcane』に続き、Tボーン・バーネットがプロデュースを担当し、そのレコーディング・メンバーで結成されたバンド、シュガーケインズも引き続き参加、さらにはジャケットまで前作と同じトニー・ミリオネアのイラストを使用していることで、発売前はブルー・グラス、カントリー色が強かった前作の続編ではないかと予想したが、それは巧みに裏切られた。
この新作は、ここ10年ほどエルヴィス・コステロが取り組んできた音楽遍歴の総決算的アルバムに仕上がっている。
『Secret, Profane & Sugarcane』から継承したカントリー・テイストもあれば、『The Delivery Man』に代表されるスワンプ風味のシンプルなR&Rやら、『North』で聴けたアコースティックなジャズ、はたまた『When I Was Cruel』でのアブストラクトな音響作品を思わせる曲まで入っている。
音楽的な傾向は様々ながら、エルヴィスらしいメロディ・センスは冴え渡っており、正しくエルヴィス・コステロ博覧会の様相。当初このアルバムに先駆けて、Universal時代のベスト盤『Pomp & Pout』の発売が予定されていたが、大幅に延期になっている。発売がバッティングすることでセールス面で悪影響が出ることを避けたかったのは当然だろうが、内容的にも『National Ransom』があればベスト盤なんか不要とでも言いたげだ。
先に触れたように、レコーディングは前作同様シュガーケインズの面々を中心に敢行され、曲によってインポスターズのメンバーが合流している。シュガーケインズは既に1年以上共にツアーを行っているミュージシャンの集団だ。ライヴを重ねることで単にブルーグラス編成のバンド以上の可能性が引き出されたことは想像に難くない。ここ10年ほどのエルヴィスのアルバムの作り方は、音楽の方向性を優先し、それに合わせた編成を固めていく傾向があり、それ故アルバムごとにバック・メンバーが変わることが多かった。今回はシュガーケインズありきでありながら、『Secret, Profane & Sugarcane』とは異なる音楽性を融合させるとどうなるのかを試してみたように思える。必要に応じてインポスターズであったり、マーク・リボウなどのゲストを招き、化学変化を楽しんでいるかのようだ。
収録曲がバラエティに富んでいる点では、かつての『Spike』に近いかもしれない。近年のエルヴィスの作品は、決してポテンシャルは下がっていなかったが、アルバムごとにかなりマニアックな音楽性を追求していたことと、作品数が多いために、熱心なファン以外にはどこから手を出して良いものやら判断がつかないきらいがあった。今作は楽曲そのもののクオリティが高い上、良い意味で雑多な音楽性が楽しめるので、何を聴けば良いのか分からないという人にも薦められる。これがエルヴィス・コステロという音楽家の現在進行形のサンプルである。
アルバム発売に合わせて出演したイギリスの人気テレビ番組「Later」での映像。最新作の中から「A Slow Drag With Josephine」を演奏している。
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