Buddy Guy『Living Proof』



 自然の摂理なので仕方ないとはいえ、この歳になると体力、気力の衰えが著しい。もうバカボンのパパも、マカロニほうれん荘のきんどーさんも、私より年下になってしまった。ジョン・レノンエルヴィス・プレスリーなら、私の歳にはこの世にいなかった。
 中学、高校の頃には、まさか自分がこんな歳になるとは思っていなかった歳になってしまったのだ。ところが10代の頃に思い描いていた理想の将来像を実現しているかと言えば、及んでいるとは口が裂けても言えない。悲しい現実だけが今ここにある。
 理想とのギャップを埋めることはできるのか?そのためには残された時間で足りるのか?そんなことを考えると昼も眠れない昨今だ。
 こういう人にだけはなるまいと思っていた、愚痴の多いおっさんに今自分がなっていることに気が付き、さらに愚痴を重ねる始末。個人的な問題だけでなく、周りの環境、社会全体に明るい兆しが無く、出口が見えずにふさぎ込む。
 暗い話にばかりやたら詳しくなったもんだ。明日の晩は汽車に乗ってメンフィスへ帰ろうかな…。


 自分で書いていても「さっさと死ね」と言いたくなる。しかし死ぬ前にせめてこれを聴いていってくれ。バディ・ガイの新作『Living Proof』のオープニングを飾るこの曲を。




 途中に入る絹を切り裂くようなギター・ソロを聴いて、冷水を浴びせかけられるような気持ちにならなかったら、本当に死んだほうがいいのかもしれない。
 「74 years young」とはもちろん「old」と言うべきところを「young」に言い換えたタイトルだ。ニュアンスとしては「74歳の若造」ぐらいの意味か。現在74歳のバディ・ガイによる所信表明のような曲に仕上がっている。
 74の爺さんに「若造」と自称されたら、30歳以上若い私などどうすればいい?この曲は象徴的な1曲ではあるが、このアルバムは全編通して直情型ブルーズ・マン、バディ・ガイの真骨頂が詰まっている。こんなのを聴いたら、我が身の不甲斐なさを恥じ、泣きながら夕日に向かってダッシュするしかないだろう。


 基本的には2年前の前作『Skin Deep』を踏襲したアルバムで、プロデュースは前作に続きトム・ハムブリッジが担当。この人はスーザン・テデスキの出世作『Just Won't Burn』やジョニー・ウィンターの近作も手がけており、定評あるブルーズのプロデューサー。バディとの相性もバッチリだ。
 前作と異なるのは、バンドが固定されたこと。前作、前々作と、曲ごとに豪華ゲストを招くアルバムが続いていたが、今回はほぼ同一メンバーによる手堅いバッキングが支えている。ドラマーでもあるトム・ハムブリッジが、全曲でドラムを叩いている。
 ゲストはわずかに2名で、参加したのはB.B.キングカルロス・サンタナ。それぞれをフィーチャーした曲を収録している。アルバム中唯一のバラード、「Stay around a little longer」はB.B.と渋いデュエットが聴ける逸品だ。
 今回はカヴァーが無く、全曲がトム・ハムブリッジを中心としたオリジナルであるのも特徴。バディは5曲で共作者として名を連ねている。
 演奏、楽曲ともにぶれが無く、ゲストによる適度なひねりも加わって、引き締まったアルバムが出来上がった。完成度の高さでは前作を凌ぐのではないか。何より、バディのエネルギッシュなギターや、深みのある歌声が堪能できるのが嬉しい。ギターに関してはジミ・ヘンドリックススティーヴィー・レイ・ヴォーンに影響を与えたほどの人であり、元々ロック寄りの情熱的なスクイーズ・ギターを弾く人だ。それが全く衰えていないのが驚異的であるし、感銘を受けずにいられない。
 今やB.B.キングに次ぐ、シカゴ・ブルーズ界の長老であり、ロックンロール・ホール・オブ・フェイム、グラミー・ウィナーとなったバディ・ガイとて、これまでの道のりは平坦ではなかった。80年代にはレコード契約にあぶれ、10年以上レコードが出せない不遇の時期もあった。デビューは1958年まで遡るが、ソロ・アーティストとしての黄金時代を迎えたのは、むしろ90年代以降とさえ言える。
 その彼が2010年、74歳になった今、こうしたアルバムを世に送り出したことに、私は希望を見出す。もちろん偉大なる才能と、不断の努力があっての賜物であることは理解している。バディの成し遂げたことには到底追い付かないにしても、私の能力、技量の範囲において似たことは出来るのではないかと思わせてくれる。年齢を理由に絶望するのは愚かなことだと気付かせてくれる。74歳まで生きられるかどうか分からないが、少なくともその歳に追い付くまでの人生で、叱咤激励が必要と感じた時には聴き返したいアルバムだ。


Living Proof

Living Proof

 残念ながらこのアルバムも日本盤が出ていない。ブルーズ・マンの発音は難しくてヒアリングできないので、できれば歌詞が知りたかった。今のところネットで検索しても歌詞は出てこないんですよ。