リリース情報:後期Utopia3作品リイシュー



 長らく廃盤になっていたユートピアの後期作品3タイトルが一挙に再発。CDは結構なプレミア価格になっていたので、手軽に入手できるようになったのは嬉しい。しかし最近このフレーズばかり使っている気がするな。
 今回再発されるのはパスポート・レコーズからリリースされていた『オブリヴィオン』と『POV』、そして92年に再結成されて日本で行われたコンサートを収録したライヴ盤『ライヴ・イン・ジャパン』の3タイトル。ベアズヴィル時代のトッド・ラングレン作品は何度も何度もリイシューされるのに、『オブリヴィオン』と『POV』は2枚組にカップリングされたCDが96年に出たきりで、みそっかすのように扱われていた。確かにセールス面ではパッとしなかった時期ではあるが、それは主にレーベルが弱小で販売宣伝の力が無かったためだと思う。決してクオリティが低い作品ではないのだから。
Oblivion + DVD

Oblivion: +DVD (NTSC Region All)

Oblivion: +DVD (NTSC Region All)

 初期こそ大作指向のプログレ・バンドだったユートピアも、70年代後半からは3〜4分程度の短い曲を中心としたポップ指向を強めるわけだが、同時に進化するテクノロジーも積極的に導入。83年作のこのアルバムでは打ち込みのドラムをふんだんに使い、リズムに重点が置かれた曲が散見される。それもテクノ・ビートから後のワールド・ミュージックの隆盛を予見していたかのようなリンガラ風のリズムまで登場するのだから、恐れ入る。
 それでいてメロディが軽視されているわけではなく、「Maybe I Could Change」や「Cry Baby」といったキャッチーなナンバーもちゃんとあるし、ヴォーカリストが4人いるユートピアならではの美しいコーラス・ワークも相変わらず冴えている。要するにバランスが取れているのだ。
 80年代前半のエレクトロ・ポップは、今では古臭くてとても鑑賞に堪えられないものも少なくないが、久しぶりに聴き返しても新鮮に聴くことができた。これは隠れ名盤なのではないか。
 今回のリイシューでは単品でも発売されていたライヴ映像「Live At The Royal Oak」のDVDをカップリングした2枚組になる。この映像は81年4月3日のデトロイト公演にてシューティングされたもので、当然『オブリヴィオン』からのナンバーは演奏されていない。全12曲で約60分。

POV

POV

POV

 スタジオ・レコーディングのユートピア作品としては最後のアルバムとなった85年作。『アドヴェンチャーズ・イン・ユートピア』のコンセプトを踏襲したもので、架空のテレビ番組のサントラ盤という設定。ポップでメロウな曲が多い点で、一般的なトッド・ラングレン・ファンの受けは良い。
 またフィリー・ソウル好きのトッドの趣味も反映されており、それ故ちょうどこの頃全盛期だったホール&オーツ風に聴こえる曲もある。念のため言っておくがトッドはホール&オーツの師匠筋に当たる。前作ほどテクノロジーに色目を使っておらず、歌モノ指向を強めているアルバム。


 こういうミディアム・バラードの逸品も含まれていたりする。個人的にも大好きな曲だ。こういうソウルフルな作風は後の『ニアリー・ヒューマン』や『セカンド・ウィンド』に引き継がれている。
 こちらはCD1枚でのリイシューだが、ボーナス・トラックが3曲追加されている。シングル・カットされた「Mated」のB面だった「Man Of Action」と、契約枚数消化のために86年に発売された『トリヴィア』という編集盤に新曲として収録されていた「Fix Your Gaze」と「Monument」がそれ。
 『オブリヴィオン』も『POV』も発売後に大掛かりなツアーが実施されているので、映像や音源は残っていても不思議ではないのだが、今回のリイシューに含まれなかったのは残念。今後の発掘に期待したい。

Redux 92: Live In Japan + DVD

Redux 1992: Live in Japan: Live in Japan/+DVD

Redux 1992: Live in Japan: Live in Japan/+DVD

 『POV』をサポートするツアー終了後、活動を停止していたユートピアが再結成。カリフォルニアで1回限りの公演を行った後、来日。日本でのみ計7公演のツアーを敢行した。その内92年5月10日の五反田簡易保険ホールでのライヴが収録され、CDとビデオで発売された。
 今回その両方をCDとDVDの2枚組にしてリイシュー。CDとDVDはそれぞれ収録曲が異なる。
 私は商品化された日の前日の公演を実際に見ているので、このライヴは思い出深い。7年ぶりのライヴとは思えないほど演奏のまとまりは良く、またユートピア全史を総括するような選曲だったため、代表曲が次々に演奏される楽しさもあった。ユートピアとしての76年や79年の来日は世代的に間に合わなかったこともあって、やっと見られたと感動もひとしおだった。この日本ツアー以降、現在のところユートピアとしてはライヴが行われていないので、世界中のユートピアのファンにとっても垂涎のアイテム。

 上記3タイトルはアメリカでは1月31日に発売されている。一応『オブリヴィオン』と『POV』は日本盤としても発売されることになっていて、そちらは2月23日発売予定。輸入盤に歌詞、対訳、解説を付けた仕様とのこと。
OBLIVION (オブリヴィオン<デラックス・エディション>)(直輸入盤・帯・ライナー付き)

OBLIVION (オブリヴィオン<デラックス・エディション>)(直輸入盤・帯・ライナー付き)

POV+3 (直輸入盤・帯・ライナー付き)

POV+3 (直輸入盤・帯・ライナー付き)



【2/9追記】
 上では「この日本ツアー以降、現在のところユートピアとしてはライヴが行われていないので」などと書いてしまいましたが、訂正させていただきます。何とユートピアは今年1月29日と30日にUtopia Mk IIとして再結成ライヴを行っていた。
 これは初期のユートピア・メンバーで、現在癌を患って闘病中のムーギー・クリングマンのためのベネフィット企画だった模様。参加メンバーはムーギー・クリングマン(key)、ラルフ・シュケット(key)、ジョン・シーグラー(b)、ケヴィン・エルマン(ds)、そしてもちろんトッド。さらにカシム・サルトンも参加した他、ゲストも多数出演したようだ。
 メンバーからお分かりのように、中心となったのは『トッド・ラングレンズ・ユートピア』のレコーディング・メンバーで、セットリストも『悪夢の惑星』以前の初期のナンバーが中心だった。

Utopia Mk II 2011年1月29日 New York Highline Ballroom
1.Moogy overture (Moogy on keys)
2.Never Never Land (Todd and Moogy)
3.Crying in the Sunshine
4.Lady Face
5.Dust in the Wind
6.Utopia Theme
7.Freak Parade
8.Another Life
9.The Ikon (not all of it but most of it)
10.Heavy Metal Kids
11.Set Me Free ("Carmen Ghia" on keys and vocals)
12.The Wheel
13.Do Ya
14.The Last Ride
15.Freedom Fighters
16.Just One Victory
 〜encore〜
17.Sons of 1984
18.Friends

 アンコール最後の「Friends」はムーギー・クリングマンがベット・ミドラーのために書いた曲と思われる。ベットのファースト・アルバムに収録されている彼女の代表曲だ。
 なお1月30日の模様は映像が収録されており、現在有料にてオン・デマンド配信が行われている。詳細はこちら→Utopia webcast
 2月2日から30日間限定で、$19.95にて試聴できるようだ。またオーディエンス・ショットの映像はYouTubeにもいくつかアップされているので、興味のある方は検索を。