リリース情報:Nick Lowe『Labour Of Lust』



 ニック・ロウのソロ名義でのセカンド・アルバム『レイバー・オブ・ラスト』が、アメリカではYep Roc、イギリスではProperからリマスター盤でリイシューされる。ファースト『ジーザス・オブ・クール』と並び、パワー・ポップ期のニック・ロウの傑作アルバムで、CDは長らく廃盤で中古盤はとんでもないプレミア価格になっていたから、容易に入手できるようになるのはありがたい。Yep Rocからは180g重量盤LP、MP3でも発売される。

Labour of Lust

Labour of Lust

 『レイバー・オブ・ラスト』のレコーディングは基本的にロックパイルの4人で行われたせいか、『ジーザス・オブ・クール』と比べるとサウンドに統一感があるのと、前作より毒気が薄れた曲が多く、まろやかさ、爽やかさが加味されているので、明るい印象を受ける。ロックパイルの職人的な演奏の妙も楽しい。ロックパイル名義で発売されたアルバムは『セカンズ・オブ・プレジャー』(80年)1作のみだけれど、実はこれはロックパイルの最終作。それに先駆けてリリースされたニックの『レイバー・オブ・ラスト』(79年)と、同時進行で制作されたデイヴ・エドモンズの『リピート・ホエン・ネセサリー』(79年)、同じくデイヴの『トラックス・オン・ワックス4』(78年)はロックパイルのアルバムと呼ぶべきだ。
 ロックパイルで制作されたアルバムはどれも名作と呼んで差し支えない。ただニックのソロ名義で出ただけあって、ソングライター、ニック・ロウのポップな才気が爆発しているのは『レイバー・オブ・ラスト』が一番という気がする。何せ「Cruel to Be Kind」が収録されているのだから。それだけでパワー・ポップ聖典扱いを受けているほど。この曲は全米シングル・チャートで12位まで上がったニック・ロウ最大のヒット曲にして、唯一のトップ40ソングである。ニックが初めて日本に来た時、「次の曲は2週間だけリッチにしてくれた曲だ」と紹介して演奏していたことが思い出される。

 ロックパイルのメンバーは当時既に30代。おじさん達の小芝居が笑えます。
 オリジナル・リリース時はUK盤とUS盤で選曲、曲順が異なっていたが、今回のリイシューではUK盤のみ収録だった「Endless Grey Ribbon」も、US盤のみ収録だった「American Squirm」も収録。さらにシングル「Cracking Up」のB面(アメリカでは「Switchboard Susan」のB面)でアルバム未収録だった「Basing Street」をボーナス・トラックとして追加。収録曲の一覧は以下の通り。

1.Cruel To Be Kind
2.Cracking Up
3.Big Kick, Plain Scrap
4.American Squirm
5.Born Fighter
6.You Make Me
7.Skin Deep
8.Switchboard Susan
9.Endless Grey Ribbon
10.Without Love
11.Dose Of You
12.Love So Fine
13.Basing Street (Bonus Track)

 2008年にリイシューされた『ジーザス・オブ・クール』は10曲ものボーナス・トラックがあったことを考えると、今回の内容には少々寂しさを感じる。未発表曲とか残っていなかったのかな。エル・モカンボのライヴ音源(エルヴィス・コステロのライヴ盤になった日のエル・モカンボにロックパイルも出演しており、プロモ盤として音源がリリースされている)などは入っていても良さそうなものだが。
 しかし重箱の隅をつつくような不満を上げるより、ようやくリイシューされたことを歓迎するべきだろう。私自身も実はCDでは持っていなかったのよね。88年にCD化された後、『ジーザス〜』は割りとすぐ購入したのだけれどこちらは何故か買いそびれていて、気が付いた時には廃盤の憂き目に遭っているのだ。LPは持っているので音は聴けていたものの、さすがにジャケットも痛んできたし、iPodにも入れられないしで、CDのリイシューを待望していた。『ジーザス・オブ・クール』のリイシューから3年も空いたことが気になるが、この調子で『ニック・ザ・ナイフ』から『ピンカー・アンド・プラウダー・ザン・プリヴィアス』までのアルバムもリイシューしていただきたい。実は『カウボーイ・アウトフィット』もCDは持っていないので。

 こちらは今回のリイシューに合わせて制作されたトレーラー。
レイバー・オブ・ラスト

レイバー・オブ・ラスト

 英米から10日ほど遅れて日本盤CDも発売される。ただしMSIからなので輸入盤に帯と対訳が付いた仕様ではないかな。相変わらず強気の価格設定でもある。