ハナレグミ@小金井公園

無断借用ごめんなさい



 この3連休には「勝手にウッドストック」があったり、大阪ではTIME BOMBの15周年記念イベントがあったりと、各地で楽しげな催しが目白押しである。しかーし、私は敢えてこの日ハナレグミの「hana-uta festival」へ出向いた。もちろんハナレグミは好きだが、何たってダーター。無料ライヴなのだ。それに先日ベスト盤が発売になった上に、ohanaという新ユニットも始動しているので、ハナレグミはこれで封印されるのではという予感もあった。
 会場である小金井公園西武新宿線花小金井で降りて徒歩20分ぐらい。開演の12時に間に合うように家を出て、ほぼ12時ぴったりに公園入り口まで辿り着いたが、ステージはそこからさらに10分ほど歩かねばならない場所にあった。直線距離にして10キロほどしか離れていない所に住んでいながら、こんなに大きな公園があるとは知らなかった。
 小雨がしとしと降っており、入り口近くで雨合羽に着替えたりしていたので結局15分ほど遅刻。歩きながら聴こえてきたのはブームの「中央線」のカヴァー、次のオリジナル・ラヴの「プライマル」が終わったあたりでようやくステージが見られる場所までやって来た。
 ステージはフジロックのホワイトステージぐらいのサイズだが、客席エリアはホワイトの1.5倍ぐらいはあった。そこに人がびっしりで、確実に1万人以上は集まっていただろう。客席エリアの前の方はロープでブロック分けされていて、そこは座って見るようになっていた。その後ろはフリーのエリアで、立って見る者、座って見る者、自由に楽しんでいる。後ろの方でフラフラ踊りながら見る方が楽しいだろうと思い、米粒大の永積タカシを望みながらの鑑賞。恐らく近隣住民に配慮して音は小さめではあったが、後ろの方でもバランスは良く、ヴォーカルや各パートもしっかり聴き分けられるチューニングになっていたのもありがたかった。
 最初は弾き語りのセットで、曲によってコーラスの原田郁子、ドラムの鈴木惣一朗、ハープの曽我大穂ウクレレ今野英明などがゲスト参加。まったりと、ほのぼのと、昼下がりの公園にこれ以上なくしっくり来る空間ができあがっていた。これで雨さえ降っていなければ天国だったのに。長丁場のイベントということもあって、ステージはのんびりと進行。悪く言えばダラダラとしたものだったが、ハナレグミにはこのくらいの緩さがちょうどいい。聴くことにガツガツするよりも、雰囲気を楽しむよう仕向けられており、観客もそれを理解し、望んでいるようだった。このパートはカヴァー曲が多く、ステージに向かいながら聴いた前述の2曲に加え、ボ・ガンボスの「トンネル抜けて」も聴けたし、セルフ・カヴァーの「サヨナラCOLOR 」もとうとう聴けた。選曲の良さは無論のこと、永積の歌声に乗ると曲にまた違った解釈が与えられたように聴こえる。事前にハナレグミのオフィシャルサイトでは「どんな曲を聴きたいか」の投票が行なわれており、その結果を見るとカヴァー曲を所望する声の多いこと。ファンはハナレグミというアーティストそのものを期待しているというよりも、ハナレグミが手掛けることで生まれるマジックの魅力を感じ、そこにハナレグミのオリジナリティを見出しているようだ。確かにあの声は嫉妬したくなるほどに味わいがある。
 第1部が2時間強。それから1時間ほどの休憩を挟み、第2部はブラック・ボトム・ブラスバンドが会場内を練り歩くところからスタート。相変わらず雨は降ったり止んだりだったが、これで一気に祝祭ムードが高まった。そのままボトムズがステージに上がり、今度は永積以下、鈴木正人(bass)、高田漣(g)、坂田学(ds)のバンド編成で、さらに曲によっては原田郁子高野寛のコーラス、asa-changのパーカッションなども加わり豪華この上ない。
 第2部の1曲目だった「Wake Up してください」が白眉。もともとセカンドラインのリズムを持つ曲にブラック・ボトムズのホーンが加わったから、鬼に金棒状態。坂田学のドラムがまた、パタパタパタタタタタ…と気持ちよくハネて素晴らしい。永積は何しろ元スーパー・バター・ドッグである。フォーキーな曲もさることながら、ファンクをやらせても実に上手い。
 何とmixi内に専用コミュニティまであるキラー・チューン「Jamaica Song」が久しぶりに聴けたのも収穫だった。オリジナルのブッカー・Tヴァージョンよりリズミカルで、これももはやハナレグミのオリジナルに近いアレンジになっている。非常に人気の高い曲であり、イントロのギターだけで大歓声が。途中の「♪I can see children's clappin〜」のくだりで、自然発生的に手拍子が起きた時は1万人と愛し合っているのではないかと思うほどの奇跡の瞬間を目の当たりにした。
 バンド編成の第2部は、さすがのグルーヴ感たっぷりで幸福な気持ちにさせられた。芸達者が揃っているだけあって、さり気ない小技もあちこちで披露され、ニヤリとしたり、ドキドキしたり。
 楽しい時間が過ぎるのは早いもので、実際は1時間ちょっとの第2部はあっという間に終了。最後は「明日天気になれ」。バター・ドッグを休眠状態にし、ハナレグミをスタートさせた時に作られたこの曲は「天気」と「転機」をかけた決意表明の曲だが、この場にあっては文字通り「天気」と解釈した方が良さそう。

秋の真ん中で 胸高鳴れば
ホラホラもうすぐ 日本晴れ

 一部歌詞を変えて歌われると、会場は大喝采。ちょうど雨が止み、空が明るくなりかけてきたところでもあり、自然の演出がその場にいる者に特別な感情を共有させるのに一役買っていた。
 これで終わるにはまだまだ忍びなく、続いたアンコールは「音タイム」、そして「マック・ザ・ナイフ」に日本語詞を乗せたSKA69のカヴァー「スパゲッティーのびのび」。さらに2度目のアンコールで弾き語りによる「一日の終わりに」。これまで聴けたらさすがにお腹いっぱい。1万人以上の観客が大満足で家路に着いたはず。
 天候にはあまり恵まれなかったとはいえ、野外イベントとしては大成功だったと思う。これだけ大勢が集まったのに、混乱もなく、整然とイベントが進行したのは観客の意識の高さによるところが大きい。会場には飲食物の持ち込みが許可されていたので、ピクニック気分でお菓子やらドリンクやら持ってきていた人も多く見られたが、終演後ゴミが全然落ちていないのには感動した。泥の付いたレジャーシートなども放置されることなく、モラルのある人たちだったことを裏付けていた。観客は流行に敏感な善良な市民みたいな方々が多く、ラモーンズのTシャツを着ている人など見かけなかった。いや、ラモーンズTがいけないとは言ってませんが。私なんて原爆オナニーズのTシャツを着て行ってしまったほどだし(笑)。フジロック以降日本にもフェス文化が芽生え、根付いたとされているけれど、最近は存在がメジャー化したせいかフェスの理念を知らない初心者が苗場で狼藉を働くことが目に付く。あれだけ人が集まればそれも仕方のないことかと思っていたが、この日の観客を見て考えを改めた。やはり楽しみ方をわきまえるマス単位の観客だって、いるところにはいるのである。

    • 追記

 坂田学のブログによると、動員は1万8千人だったらしい!スゴイ。