UA × 菊地成孔@新宿minotaure2

k_turner2006-03-15



 60人限定の超スペシャル・ライヴ。まだ仕事中なので、今日も一言だけ。
 既にネット上では情報が流れていると思われるが、何とこのライヴ、間もなくレコーディングが始まるUAのジャズ・スタンダード・アルバムのための公開リハーサルだった。
 詳細はまた後日。

  • 3/18追記

 満月の晩、新宿の片隅でひっそりと行なわれたライヴ。告知は1週間前にネット上で行なわれ、チケットは10日に電話予約のみ受付で一般発売無し。私は運良く情報を手に入れ、運良く電話予約に成功し、運良く見に行くことができた。
 会場のミノトール2は普段からライヴをメインに営業しているバー&レストラン。オールスタンディングにすれば150人ぐらいは入れそうなスペースだが、テーブル席のみなので60人の定員いっぱい入るとかなり窮屈だった。
 出演メンバーはVo.UA、sax&Vo.菊地成孔、Pf.坪口昌恭、Dr.藤井信雄、B.佐藤”ハチ”恭彦、PA.パードン木村。菊地のクインテット・ライブ・ダブにUAが加わった形。まずクインテット・ライヴ・ダブだけで1曲。菊地さんらしいクールなジャズで、思ったほどダブ色は強くない。この演奏中、UAも舞台袖から出てきて後ろの方で聴いていた。狭い会場なので、全員が気付いていたと思う。私は離れた所だったけれど、間近に立たれた客などはクインテット・ライヴ・ダブの演奏どころではなかったのではないか。
 クインテット・ライヴ・ダブの演奏が終わると「それではお待たせしました、UA」と菊地から紹介され、UAが客席からステージに上がった。この時点では何をやるのか全く知らされておらず、歌い出したのが「Over The Rainbow」。もちろんスタンダードのあの曲だが、超スロー・テンポで深いリバーヴが掛けられたアレンジが施されており、UAの透き通った高音が美しい出来ばえだった。
 1曲歌い終えたところで、「実は…」とこの日のライヴの趣旨説明。帰宅直後に書いた上にある通りで、これからレコーディングに入る次のアルバムのために、制作前にどうしても一度人前で歌いたかったというUAたっての希望で急遽実現したライヴだった。大々的に告知されなかったのは小さな会場でやりたかったということと、菊地とのアルバムの制作についてはマスコミにも情報解禁していなかったためだそうだ。小さな会場を選んだのは、手の届く場所にいる観客からの反応を知りたかったからだそうで、「意見があったらどんどん言って」とUA。ということは観客でありながら、プロデューサーとしての役割も求められるということ?これは責任重大だ。
 今度のアルバムはジャズ・スタンダードのカヴァー集になる予定で、既に候補曲は15曲ほど挙がっているとのこと。UAは今までにも多くのカヴァーを歌ってきたし、いずれも素晴らしいものだ。ジャズにしても『アメトラ』には「TORO」と「貴方の一番好きな歌」という古典的なジャズの形式を取った曲があったし、『SUN』などは形式こそややアバンギャルドだが、「ファティマとセミラ」を除けば全曲ジャズと呼んで差し支えないものだったと私は思っている。ところがUA本人はジャズ・スタンダードを歌うことに不安があるらしく、「ビリー・ホリデイに怒られそう」と自信無さげ。
 早速観客の女性から「私はUAが大好きで、UAが歌う曲はみんな良いと思う。今の曲(Over The Rainbow)も良かったけど、ジャズとしてはどうなのか良く分からない」と声が上がり、場内爆笑。UAも「そこなのよ。ジャズとしてどうかが私も分かれへん」と言っていた。
 私の意見をちゃんと伝えようとすると、相当の時間を要するし、私の独演会にしてしまう訳にもいかないのでその場では黙っていたが、UAが歌えばUAの曲になっている時点でそれがジャズであろうと何であろうと、カヴァーとしては成功なのだと思う。確かにジャズという音楽は歴史があるし、名唱を残した先人も数多いので構えてしまうのは分かるが、幸いなことにビリー・ホリデイは2006年にアルバムを作れないのである。つまり比較はできないのだ。
 この日歌われたのは7曲ほど。はっきり曲名が分かったのは「Over The Rainbow」と「A NIGHT IN TUNISIA」のみ。残りは選曲した菊地が途中で解説したところによると、ポール・モーリアバカラック、ジョビン他だった。菊地とのデュエットも2曲(だったかな?)あった。この日は演奏されなかったが、アルバムには書き下ろしのオリジナル曲も1曲入る予定だそうだ。一昨年CMで流れていた「バードランドの子守唄」は演奏されず。これはアルバムにも入らないのかな?
 「Over The Rainbow」以降の曲もやはりUAの歌唱によるUAの曲になっていたと思う。ただ「Over The Rainbow」に比べると、アレンジが大人しいというか、ジャズの形式に素直なものだとは感じた。ほとんど1曲ごとにトーク・タイムとなり、UAは弱気なことを何度か口にしていたが、そのたび菊地が「大丈夫ですよ、最高っすよ、自信持ってくださいよ」となだめていた。私も菊地さんの意見に同意する。
 公開リハーサルとしてのライヴだったので、ショウを見たという印象は受けなかった。演奏された曲はどれも素晴らしいものではあったが、アレンジに関してはまだ手直しの可能性も無いとは言えない。完成度の点ではアルバム発売後に行なわれるであろうライヴの方が良いものになるはずだ。ただこれほどの小会場でのライヴはこれが最初で最後だろうから、貴重な体験ではあった。
 アルバムは7月発売予定で、その後はツアーも行なわれるらしい。具体的なイベント名までは出なかったものの、夏フェスの出演予定もあるそうだ。フジロックで見ることができると良いな。