レコードコレクターズ9月号雑感



 もの凄く遅ればせながら、レココレ9月号を購入。4〜5年前まではほぼ毎月購読していたこの雑誌も、最近は時々しか読んでいない。発売されていることを忘れていることもしばしばだ。しかしたまたま読んでしまった8月号での「日本のロック/フォーク・アルバム・ベスト100 60〜70年代編」に釈然としないものを感じ、続編である9月号の「日本のロック・アルバム・ベスト100 80年代編」をある意味心待ちにしていた。どうせまたレココレらしいバイアスのかかった選出になるんだろーなーと思って。
 一読してみて、その予想が裏切られることはなかった。はっぴいえんど〜ティンパンアレー〜ナイアガラ周辺人脈に対する溺愛ぶりたるや、ここまで来るとあっぱれである。日本のロックって10人ぐらいで作り上げたのかな?と錯覚するほどだ。ローザ・ルクセンブルグの『ぷりぷり』の解説で、「矢野顕子細野晴臣から絶賛された「在中国的少年」も収録されている」と書かれているのを目にし、思わず笑ってしまった。それはこの少ない文字数の中でわざわざ触れなければならないことだろうか。
 今回の80年代編に関して言えば、2位に暗黒大陸じゃがたら(『南蛮渡来』)、3位にフリクション(『軋轢』)、7位にINU(『メシ喰うな!』)、10位にPhew(『Phew』)と、パンク、ニューウェーヴの流れから登場したアーティストが上位にランクされている点で多少溜飲は下がるものの、そうしたオルタナティヴな作品のセレクションに、いかにもライヴ現場を知らない者の視点が感じられてしまう。
 選者のひとりである和久井光司氏が、「80年代はソニー勢がJポップの土台をつくり、インディー勢がロックに”オルタナ”という観点を加えていった10年だったはず。」と寸評で述べているが、同感だ。上位にランクされたオルタナティヴ系の作品はそれぞれ高く評価されてしかるべきものだが、その一方でラフィン・ノーズ、ウィラード、有頂天など、80年代当時人気を博し、後のバンドブームの隆盛に寄与し、ひいては百花繚乱の様相を呈した90年代以降の日本のロックにまで影響を及ぼしたインディーバンドたちがごっそり抜けているのは、片手落ちだという気がしてならない。
 欧米のロックカルチャーの並行輸入、もしくは模倣に明け暮れながら、オリジナルな音楽を模索した60〜70年代を経て、引き続き欧米を参照していたものの、日本独自のロックと呼ばれる音楽が成立し始めたのが80年代、さらにそれが従来の歌謡曲シーンを駆逐し、メインストリームのポップスに移行しつつ成熟したのが90年代というのが、大雑把な日本のロックの歴史だと認識している。
 その流れに沿って評価するならば、まだ黎明期であったライヴハウスで実験を繰り返していたインディー勢の動向は再点検されるべきだし、はっぴいえんど人脈から外れていても、メジャーなフィールドで活動していた者たちの中に意欲的な作品が残されたことは忘れるわけにはいかない。今回のベスト100から漏れている後者の具体例を挙げれば、大沢誉志幸岡村靖幸小山卓治米米クラブ爆風スランプなどが思い当たるが、和久井氏の指摘通り、見事にソニー勢だ。
 ベスト100を構成する元となった、ライター諸氏30名の個人別ランキングを見ると、このような歴史認識とはかけ離れた、単なる好みで選んでいる人が大半であることに気付く。それを集計したランキングがいびつなものになるのは当然だ。選者の数が変われば、ランキング結果も大幅に変わるに違いない。
 ベスト100に入った各作品の解説を、その作品を高く評価したライターが書いているのも記事をつまらなくさせている原因だ。「個人的には」「自分には」という但し書きが付いた解説の多さに辟易する。いっそのことその作品を選出しなかったライターが担当した方が面白いものになったのではないだろうか。プロの書き手であれば、個人的に評価しない作品であっても価値を見出し、聴いたことの無い者にアピールできる文章が書けるはずなのだから。


 第一特集はこのくらいにしといたるわ。他には連載記事の「ブラウン管の向こうの音楽職人たち」が面白かった。CM音楽プロデューサーの吉江一男氏のインタビューで、92年のポカリスエットのCM作成秘話が語られている。フィル・スペクター風のサウンドが欲しいと思った吉江氏は、音楽を大滝詠一に依頼したのだが、御大からの回答は「そういうものだったら、今は俺に頼むより織田哲郎のほうがうまいよ」というものだったそう。その結果採用されたのが織田哲郎作の「いつまでも変わらぬ愛を」だったのだ。
 92年の時点で大滝詠一がCM音楽作家として現役ではないと自覚していたこと、フィル・スペクターサウンドのクリエイターとして織田哲郎を評価していたことは興味深い。大滝マンセーなレココレライター諸氏が、早速織田哲郎のCDを探し始めたことが想像される。

レコード・コレクターズ 2010年 09月号

レコード・コレクターズ 2010年 09月号