熱狂!GS図鑑2010 〜黒沢進に捧ぐ〜@下北沢Club Que



 このイベントを知ったのは開催の1週間ほど前のこと。見に行きたいけどもうチケットは売り切れてるんじゃ…と思ったまま当日を迎えてしまった。念のため午後4時ごろにQueへ問い合わせると、当日券ありとのことでいそいそと出掛ける。この面子で売り切れなかったのは奇跡に近いラッキーではないのか。

  • ザ・シャロウズ

 このイベントはサブタイトルにあるように、2007年に亡くなった黒沢進のメモリアル企画。今回で4回目らしい。黒沢進についてはこちらを参照のこと。
 80年代のネオGSムーヴメントの勃興と、以降現在に至るまでGSにインスパイアされたバンドが絶えず存在している背景には、直接的、間接的に黒沢氏の業績が影響を及ぼしている。黒沢氏存命時にはまだ結成されていなかったシャロウズが、このイベントに出演することに歴史の連続性が感じられる。

     @club CITTA' 2010.1.9
 風貌からしてアングラなGSを標榜しているが、好事家の慰み者に止まらないビート感と狂気は、ガレージ・パンクの一種として評価できる。またマニアックな探究心を持ちつつ、オリジナルな曲を作ろうとしている姿勢が素晴らしい。何より、若さ故の勢いがある。
 リズムが甘いとか、MCが垢抜けないとか、厳しいことを言いたくなるポイントもあることはあるが、全体から見れば瑣末なことで、今後改善していけばいい。現在のこのバンドの魅力は、それを補って余りある。
 シャロウズがいることで、当分このジャンルも安泰ではないかと思わせるだけのものがあるのだ。個人的にもとても贔屓にしているバンドなのだが、音源は最近ようやくオムニバス盤で登場したばかり。早くオリジナルアルバムを作って欲しい。良い曲はたくさんあるのだし。

  • キノコホテル

 今をときめくと言っていいキノコホテル。音は聴いていたものの、実はライヴは初めて。ビジュアル先行イメージ先行の売り出し方に腑に落ちないものを感じていたし、演奏が上手すぎるので「本当に演奏しているのか?」と疑念まで持っていた。いやー、しかしこのライヴを見て全面的に謝罪します。私が間違っておりました。
 メンバー4人それぞれが高いミュージシャンシップの持ち主。特にドラムは上手いわ。支配人、マリアンヌ東雲のキャラクター設定もわざとらしくなく、笑わせてくれる。肝心のパフォーマンスはポテンシャルが高く、短い時間を計算された展開で最後まで見せてくれた。代表曲「もえつきたいの」や新譜からのリード・チューン「真夜中のエンジェル・ベイビー」もちゃんと演奏。後から分かったことだが、中山千夏の「砂漠」という曲もやったらしい。さすがにそんな渋い曲をカヴァーされても気付かなかったけど。サービス精神とマニアックな選曲が同居するところは唸らされた。また機会があれば見に行きたいバンドだ。

  • KOTARO AND THE BIZARRE MEN

 全く素性が分からなかったこのバンド。メンバーがステージに現れてびっくり。コレクターズの加藤ひさしと古市コータローじゃないの。もうひとりのギターとドラムはコレクターズではないみたいだったが、赤いベストと黒いネクタイで揃えた衣装でコレクターズとは違ったくっだらないことをやっているのが良かった。
 昭和30年代に作られたテスコのビザールな楽器を使用することをコンセプトにしているそうで、他人には実にどうでもいいことに真剣にこだわる姿勢が素敵。メンテナンスも大変なんだろうなあ。それでいてチープなエレキインストや、「引越しするなら巣鴨」とか「フィリピーナは可愛いな」とか、コミックソングと言っても差し支えないようなオリジナルで笑わせてくれる。伊達や酔狂でバカをやっていないのは偉大だ。
 コレクターズはコレクターズで一定の人気を保ちつつ、こういう余技にも力を入れるあたりがベテランの味。もちろん演奏は的確だし、加藤ひさしのヴォーカルはこの日の出演者で最も伸びやかだった。
 加藤ひさしさんは今年で50歳だそう。赤いベストがちゃんちゃんこに変わってもこのままでいて欲しいものだ。
KOTARO AND THE BIZARRE MENのMySpace

 シャロウズが期待の新鋭ならば、こちらはネオGSムーヴメントの立役者。メンバーはナポレオン山岸(G.)、サリー久保田(B.)、チャーリー森田(Dr.)の3名。そう、ピンキー青木を除くファントムギフトなのだ。
 『流線の彼方』というトヨタ2000GTドキュメンタリー映画の音楽をこのメンバーで担当したことを切っ掛けに、ライヴ活動を開始。この日で3回目のライヴだったようだ。
 リード・ヴォーカルはチャーリー森田が担当し、GSのカヴァーを中心にしたセットリストだった。私がその方面に明るくないので、知らない曲が多かったが、判明した限りではジャックスの「いい娘だね」とか、テンプターズの「テル・ミー・モア」などを演奏していた。元々ファントムギフトは80年代に忘れ去られていたマイナーなGSナンバーを掘り起こすことを目的としていたバンドでもあり、原点に戻ったというところか。
 ナポレオン山岸の唸りを上げるギターは衰えていなかったし、チャーリー&ホット・ホイールズでも歌っていただけあってチャーリー森田のヴォーカルもちゃんとしたものだった。充分な見応えのあるライヴだったと思う。シャロウズのベースのブローノ君など最初から最後まで一番前で飛び跳ねていた。しかしファントムギフトと比較してしまうと、どうしても分が悪い。ピンキー青木の不在によって今ひとつ物足りなさを感じてしまったのが正直なところ。何故かサリー久保田がガチガチに緊張していたことも影響していたかも。
 実はファントムギフトのライヴは2003年に一度だけ再結成した時に見ただけなのだが、ネオGSムーヴメントから遠く離れてなお、その時のライヴは鮮烈な印象を残した。いかに彼らが偉大なバンドだったかということを、今回の2000GTのライヴを見て改めて思った。
 それを確信したのはアンコールでヴォーカルにシャロウズのオクヤマ君を迎えてオリジナルの代表曲「ハートにOK!」を演奏した時。真ん中にリード・ヴォーカルがいるだけで、このバンドはがらりと印象を変えるのだ。往年のGSの名曲と比べても全く引けを取らない曲だし、何よりヴォーカリストをバックアップした時の火を噴くような3人の演奏がとにかく素晴らしい。オクヤマ君も萎縮することなく歌いきっていて立派だった。
 ピンキー青木さんが戻ってくる可能性が限りなくゼロに近い今となっては、正式な再結成は夢のまた夢なのだろうなあ。『流線の彼方』はサントラ盤のCDも発売されており、ファントムギフトのライヴ音源が含まれていたこともあって、早速会場で購入。

流線の彼方 サウンドトラック

流線の彼方 サウンドトラック

 当日券は出たものの、ほぼ満員の入りで最後まで大いに盛り上がった。イベントの趣旨に合わせ、コアなGSファンにも嬉しいサプライズもあった。バンドの転換の合間にモニターでGS関連の映像が流されていたのだが、その中に最近発掘されたというダイナマイツのモノクロ映像があった。69年の春に撮影されたと思われるもので、当時の最新シングル(にして彼らの最後のシングル)「バラと悪魔」のプロモーション映像なのだ。
 遊園地で乗り物に興じたり、リップシンクでその曲を演奏したり、またいかにもアイドル然としたはきはきした喋り方で新曲の魅力を語ったり、当時の雰囲気を十二分に伝える貴重な映像だった。この1年後には村八分を結成している山口冨士夫がニコニコしながら手を振ってる姿には、めまいすら覚えた。眼福にあずかったわ。