太陽民芸『AB/CD』



 このバンドについてはそれほど知名度があるとは思えないため、まず簡単なプロフィールを。結成は2000年。度重なるメンバーチェンジを経て2008年より現在の4人、岩川健次郎(vo./g.)サブディラン(g.)ペニイ鈴木(b.)高橋啓(ds.)となる。オリジナル・メンバーは岩川健次郎ただ一人である。このアルバムは結成11年目にしてリリースされた彼らのファースト・アルバム。
 そのジャケットがこちらになります。ご覧下さい。ハイ、どーん。






AB/CD

AB/CD







 とてもむさ苦しく、悲しいほどにダサいこのジャケットから漂うダメっぷりが涙を誘う。繰り返すが、これがバンド結成11年目にしてようやく発売された作品ですぜ、皆さん。
 しかし誤解しないで欲しい。私は彼らのことを指差して笑いたいのでもなければ、石を投げて蔑んだりしたいのでもない。彼らのあまりの不器用さ、過剰な純粋さに感動しているのである。
 アルバムに収録された全11曲は、どこから切っても血の滴るようなバカさ加減に満ち溢れたロックンロール。30を過ぎてもバイトしながらバンドを続けている彼らをつなぎ止めている唯一にして、無二の理由であるところのロックンロールである。そのむせ返るような愛情、無垢な信頼に、とても共感できてしまうアホは私だ。

  • 陽民芸「ロックンロールはこれからだ」




 太陽民芸は「ロックンロールは鳴り止まない」ことに疑問を抱かない。鳴り止むはずがないと思っているし、TSUTAYAビートルズピストルズを借りる段階もとっくに卒業している。でもロックンロール・ハイスクールは未だ卒業の見込みが無い。マカロニほうれん荘のきんどーさんさながらに落第を繰り返している。
 「大人になんかなれやしないぜ / 年を食ってもそうだよ / 俺たちずっと死ぬまでやってやる」(ロックンロールはこれからだ)
 ロックンロールの世界では使い古された物言いではあるが、彼らにとってはうわべだけの形骸化したテーゼではなく、ほとんど宗教的な意味での真実の言葉なのだ。そこにリアリズムを持たせられるバンドは実はそれほど多くない。彼らなら放っておいても死ぬまでやってそうだけど。
 ある種の人々には「バカじゃないの?」の一言で済まされるかもしれない。ジャケットからして、およそ誰からも好かれる種類の音楽ではない。常識で考えれば。しかし常識が通用するロックなど何が面白いのだろう。誰からも好かれる音楽ほど無難で退屈なものもない。そこへ行くと太陽民芸はドブネズミのように美しいのである。
 私がこのバンドを知ったのは2〜3年前。ワタナベマモルのライヴで対バンとして出演したのを見て以来だ。第一印象ですっかり気に入り、音源が発売されるのを首を長くして待ち続けた。さすがCDになると、MySpaceで何度も聴いたデモ・ヴァージョンとは一線を画すソリッドな音になっていて嬉しい。それなりにキャリアがあるだけに、演奏もなかなかのもの。全てのロックンロール・ピープルに自信を持って聴かせられるアルバムだと思う。惜しむらくはCDショップではほとんど取り扱いが無いこと。ライヴ会場で手に入れる以外は、Amazonぐらいでしか手に入らない。
 太陽民芸オフィシャルサイト:http://poor-records.com/mingeihp/hp/top.html
 太陽民MySpacehttp://www.myspace.com/taiyoumingei
 全曲試聴(MUFFIN Treasure Market):http://mu-f-fin.jp/new/?cls=detail&al_id=193