2010年ベスト・アルバム 新譜編



 明けましておめでとうございます。今日はもう3日なので、すっかり遅い挨拶ですが、今年もどうぞよろしく。
 遅いついでに今頃こんな企画を。どこでもやっている年間ベスト・アルバムを私も選んでみました。1年間にどれだけの音源がリリースされているのか、皆目見当もつきませんが、当然のこと全てを聴くなどということは不可能です。あくまでも私個人の主観により、「好んでよく聴いた」ことのみを基準に選んだ結果を以下に。今回は新録音の作品のみです。点数は切りの良いところで10枚としました。


住所不定無職 / 『ベイビー! キミのビートルズはボク!!! 』

ベイビ?!キミのビートルズはボク!!!

ベイビ?!キミのビートルズはボク!!!

 今回取り上げた10枚は順不同。しかし単純に聴いた回数ではこのアルバムがぶっちぎりだった。100回以上は確実に聴いているけれど、全く飽きが来ない驚異の作品。このキラー・チューンの量産ぶりには全く恐れ入る。オマージュや憧憬の範疇に止まらず、先祖返り的な発想で凡百の60'sフォロワーを蹴散らしていく痛快さにメロメロになった。
 このアルバムについて言いたいことは、以前このブログでも書いた。(こちら→[Now Listening] 住所不定無職 『ベイビー! キミのビートルズはボク!!!』 )このエントリーをナタリーのタクヤさんがTwitterで褒めてくださったお陰で、普段の10倍ぐらいの人の目に触れたことも2010年の良き思い出。
 今月26日にはDECKRECからセカンド・アルバムの発売も決まっている。収録曲の内、2曲は既に『Majix』で先行配信中。2曲とも最高なので、アルバムへの期待も高まる。



Curly Giraffe / 『Idiots』
Idiots

Idiots

 恥ずかしながら昨年までその存在を知らなかったアーティスト。一人多重録音にてメロディアスなポップ・ソングを作り続けるCurly Giraffeの4作目。70年代のヒット曲のように親しみやすくキャッチーな曲が次々出てくるのを聴いて、冷や汗タラタラ。一人多重録音ものにありがちな箱庭感というか、悪い意味での密閉間が無いのも魅力。どうして今まで知らなかったのだろうと大いに後悔した。
 調べてみるとミュージシャンとしてのキャリアは長く、ロッテンハッツやGREAT3のベーシストとしても活動していた高桑圭の変名によるソロ・プロジェクトだった。なるほど、センスの良さと質の高さも納得。
 アルバム収録曲はどれも素晴らしいが、特にこの曲が好きだ。




UA / 『KABA』
KABA

KABA

 洋の東西を問わず、カヴァー・アルバムが花盛りの昨今、最初にリリースの知らせを聞いた時には「UAまでが?」と訝ったが、聴いてみてさすがと唸った。この人が歌うと、どんな曲でもUAの作品になってしまう。それ故、笠置シズ子の「買い物ブギ」とレディオ・ヘッドの「No Surprises」なんて曲が1枚のアルバムに収まるのだ。
 CDの帯にはデビュー15周年の記念作品であることが謳ってあり、アルバムごとに音楽的な変貌を遂げるUAとしては、ほんのサービス、或いは息抜き程度の意味だったと思われる。気軽に聴けるのは確かで、時に息が詰まりそうな重厚な表現をやってのけるUAのアルバムとしては異色。しかし近年活動を共にする鉄壁のバッキング・メンバーに支えられたサウンド、そしてもちろん歌唱は聴き応え充分。このアルバムの曲を中心に披露された、夏の野音でのライヴも楽しかった。



ワタナベマモル / 『SESSiONS』
SESSiONS

SESSiONS

 自身のレーベル、MAGIC TONE RECORDSを2007年に立ち上げてから、年間100本以上のライヴを行い、1枚の新作アルバムを発表するというペースを崩していないワタナベマモル。そのワーカホリックぶりだけでも賞賛に値するが、セルフ・プロデュースにて制作されるアルバムの質が相変わらず高いのは驚き。
 今回はTHE DAViESとしてではなく、多数のゲストを招いてのソロ名義のアルバムになっている。甲本ヒロトトモフスキー、ハッチハッチェル、山川のりをなど、参加ミュージシャンは皆旧知の間柄だけあって、ワタナベマモルが目指すサウンドに相応しい貢献をしている。所謂バンド・ブーム世代で今でも音楽で食っている人たちが、無意識の内に醸し出す味わい。伊達や酔狂でここまで来たのではないぞと、無言で訴えているようだ。世代が近く、いい歳をしてロックなんてものに夢中の私なぞ、これほど滋養のある音楽はない。
 初回プレス分のみ、グレイトリッチーズ時代の名曲「時速4キロの旅」のセルフ・カヴァーを収録。本人曰く「青臭くて小恥ずかしい」そうだが、20代の頃ではなく今こそ歌われるべきと思えるような好カヴァーに仕上がっている。



陽民芸 / 『AB/CD』
AB/CD

AB/CD

 そのワタナベマモル『SESSiONS』でもコーラス隊として活躍していた太陽民芸のファースト・アルバム。バンド・ブーム世代よりは若いけれども、精神的な部分ではつながっていることが感じられる。ロックンロールを信じて疑わない無邪気さ、暑苦しさ、に思わず頬が緩む。今時そんなことで大丈夫なのだろうかと心配になるほどだ。
 曲は1度聴けば覚えてしまうほどキャッチーだし、ライヴ・バンドとしての演奏力も確かなものがある。ロック信奉者たるもの、こういうバンドを疑ってはいけないのだと思う。「ロックンロールはこれからだ」と宣言したのだから、彼らもなりふり構わずこのままどこまでも突っ走ってほしい。
 このアルバムについては以前ブログで取り上げたので、併せて参照していただけると幸い。(こちら→太陽民芸『AB/CD』



Graham Parker / 『Imaginary Television』
Imaginary Television (Dig)

Imaginary Television (Dig)

 ベテランでありながらコンスタントに良質の作品を届けてくれる点では、私の中でワタナベマモルと双璧を成す。既にポップ・マーケットから遠ざかって久しいが、アメリカへ渡ってマイ・ペースで創作活動を続けているのだから、ファンは黙って聴いていれば良いのだろう。
 アコースティック主体でフォーク・ロックを思わせるサウンド。派手さは望むべくもないが、楽曲の出来はすこぶる良い。あの高めの声でしゃくりあげるような歌い方も健在。11曲入りで35分程度と、アナログ時代を髣髴とさせるヴォリュームも憎い。「わしはもうこういうのしかやらんぞ」と言い張る頑固な爺さんみたいだ。本当にそうだったとしても全く問題はない。



Ray Lamontagne & The Pariah Dogs / 『God Willin' and The Creek Don't Rise』
God Willin' & the Creek Don't Rise

God Willin' & the Creek Don't Rise

 大ヒットした『Gossip In The Grain』から2年ぶりとなる4作目。今回からバンド名義になり、プロデュースもレイ・ラモンターニュ自身となったが、基本路線は変わらず。1曲目を聴いただけで、その包容力ある歌声にホッとさせられる。安心のラモンターニュ印といった感じ。
 70年代初頭のシンガーソングライター作品を思わせるいなたさがあり、スワンプ・ロックと言ってもいいアーシーなサウンドを聴いていると、今は何年だ?という疑問を抱かないわけではないが、何でもありの現代だからこういう音も受け入れられるのだろう。ただ今作も日本盤が出なかったのは残念。



Deerhunter / 『Halcyon Digest』
ハルシオン・ダイジェスト

ハルシオン・ダイジェスト

 現在のアメリカン・インディーものにはとんと疎いのだが、アーケイド・ファイアにピンと来なかった私が、これは一聴して気に入った。古風とも言えるメロディ・ラインを持ちながら、バック・トラックには抽象的なサウンド・コラージュやノイズが散りばめられている。サイケデリックであったり、アンビエントであったり、曲調は様々ながら、全体は何故かグルーヴィー。
 多分にアーティスティックでありながら、難解さは微塵も感じられず、初めて聴いた時から親しみやすかったのも好印象。少なくともこのジャケット(30年ほど前の女装コンテストの優勝者のポートレイト)から受けるイメージほどグロテスクなものではない。



Buddy Guy / 『Living Proof』
リヴィング・プルーフ

リヴィング・プルーフ

 これも以前ブログで取り上げており、その時言いたいことは言い尽くした感がある。(こちら→Buddy Guy『Living Proof』
 ブルーズの作品として評価すると、決してバディ・ガイの最高傑作とは言えないのかもしれない。実際ガチガチのブルーズ・ファンの間では必ずしも高評価ではないようだ。しかし74歳の老ブルーズ・マンが、その年齢を感じさせないだけのギターをバリバリと弾きまくり、エモーショナルな歌声を響かせている事実に圧倒されない方がおかしいと私は言いたい。このギター、この歌声は、特定の音楽ジャンルを超越する破壊力が感じられる。この際ブルーズとしてどうかなんて瑣末なことに囚われなくても良いじゃないの。
 アメリカから随分遅れたとはいえ、12月にやっと日本盤も出たことはめでたい。



John Legend & The Roots / 『Wake Up !』
Wake Up!

Wake Up!

 これもブログで取り上げ済み。(こちら→John Legend & The Roots『WAKE UP!』
 感動的な作品という意味では、これが2010年の1番かも。先の見通しが利かない暗い世相の中にあって、しんどいけれども希望を見出していこうとするポジティヴィティを音楽で表明した偉大な作品。個人的にも辛い時期にこのアルバムに出会い、随分と救われた思いがした。発売は9月ながら、今もって売れ続けているそうだ。今こそ求められている音楽なのだろう。



 以上10作品。次点は挙げていくと切りが無いので割愛。でも2010年は概ね豊作で、例年なら年間ベストと言える内容で漏れたものはたくさんある。今回は新録作品に限定したが、リイシュー、発掘系の作品も近々まとめるつもり。いつになるかは分からないけど。