2010年ベスト・アルバム リイシュー、発掘音源編



 今日はもう1月10日ですか。2010年の記憶もどんどん薄れていく昨今ですが、予告した手前やっておきましょう。2010年のベスト・アルバム選。今回はリイシュー作品、発掘音源作品から10タイトルを選びました。


Bruce Springsteen / 『The Promise:The Darkness On The Edge Of Town Story』

闇に吠える街~The Promise:The Darkness On The Edge Of Town Story(DVD付)

闇に吠える街~The Promise:The Darkness On The Edge Of Town Story(DVD付)

 1978年発表の4作目『闇に吠える街』の拡大版は、CD3枚+DVD3枚の破格のヴォリューム。質、量ともにここまでできるのはブルース・スプリングスティーンだからだろうし、素材がこのアルバムだったからだろう。
 このアルバムの制作期間は、当時としては異常とも言える約3年もの長期に及んでいる。元マネージャーとの消耗する訴訟合戦による活動の制限、前作『明日なき暴走』の大ヒットによるプレッシャーなど、ネガティヴな要因に囲まれながらの難産であったことはよく知られるところ。結果、コアなファンほど「最高傑作!」と評価するアルバムが出来上がった背景にあったものは何だったのか、そして内省的で重い内容に仕上がったのは何故だったのか、このセットは具体的に解き明かしている。
 舞台裏を見せることには否定的な見方もあるだろう。しかし未発表曲集であるCDのDISC2〜3を聴けば、これらが単なるボツ作品による水増しではないことが分かるし、制作過程を追ったドキュメンタリー映像からは納得できるまでとことん打ち込む真摯な姿勢が垣間見れる。『闇に吠える街』を傑作たらしめた理由を知ることで、このクオリティが必然だったことが理解できるし、より立体的に楽しめるというものだ。
 78年のライヴ映像と、09年のアルバム再現ライヴを収めたDVDも素晴らしい。特に09年に観客を入れずに行われた、アルバム全曲演奏のライヴは、30年以上前の作品に対する誇りと、年齢を重ねてもそれらの曲を遜色なく演奏するだけの表現力を持っているバンドに漲る自信が感じられる。



Todd Rundgren / 『For Lack of Honest Work』
FOR LACK OF HONEST WORK

FOR LACK OF HONEST WORK

 71年から06年までのライヴ音源を集めた3枚組ボックス。トッド・ラングレンは90年代以降、こうしたアーカイヴもののリリースに熱心で、一部の音源は過去にリリースされた同種のタイトルと重複するものもあるようだが、ほぼ全キャリアから選ばれた43曲はトッドの歴史を知る資料として重宝する。また単純に曲、演奏の出来が良いので、裏ベスト的な聴き方もでき楽しい。
 3枚のディスクそれぞれがデジパック仕様のジャケットに入れられ、やや大仰な箱に収められている。パッケージと封入のミニ・ポスター風のライナーには、元ネタとなったブートレッグのジャケットがコラージュされており、トッドのコレクター気質も感じさせる。
 音質はまちまちだが、概ね良好。85年の「ア・カペラ・ツアー」の音源は、以前単独で発売されたものとは別の公演からで、このボックスに収録された方が高音質だった。



The Poppees / 『Pop Goes The Anthology』
Pop Goes The Anthology

Pop Goes The Anthology

 70年代半ばにニューヨークで活動していたバンドのコンピレーション。このポッピーズが正式に残した音源は、BOMP!からリリースしたたった2枚のシングル、全4曲のみだ。ここにはその4曲と未発表のデモやライヴ音源が収録されている。
 デモやライヴ音源は、シングル発売された曲よりビートルズ色が強く、特に1963〜64年頃のビートルズのほとんどパロディと言っていい曲を演奏している。最も有名な「Jealousy」のデモ・ヴァージョンなど、まるで「Hold Me Tight」だ。こうしたスタイルのパワー・ポップ・バンドは今となっては珍しくもないが、彼らはその先駆けであり、70年代半ばには相当珍しかった(ユートピアが『Deface The Music』を発売したのは80年だ!)。故に商業的成功には恵まれなかったとも言える。
 しかし時代の変化とともにパワー・ポップ愛好家からの支持が高まり、21世紀になって音源が発掘され、アルバムがリリースされるのだから、音楽の評価なんてわからないものだ。以前日本のVividから内容の異なる編集盤が出ていたが、こちらは本家BOMP!がリリースしたもので、アメリカでは初CD、初アルバム化。



忌野清志郎 / 『Baby #1』
Baby #1

Baby #1

 89年、RCサクセションの『Covers』とタイマーズの間の時期にLAで制作されていた未発表音源に、仲井戸麗市金子マリ、片山広明ら、「古いダチ」が手を加えて完成されたアルバム。
 89年春のRCサクセションのツアーは、セットリストの約半数が未発表の新曲で占められるという異例の内容で、ここに収録されている曲も演奏された。実際私も「恩赦」「ラッキーボーイ」「メルトダウン」は当時聴いた記憶がある。考えていることがどんどん曲になっていく、清志郎の創作ペースの尋常でない速さ故に実現したツアーだったが、RCとは別にレコーディングまで行っていたとは知らなかった。
 前年の『Covers』騒動が尾を引いていたこともあって、89年のツアー会場は不思議な緊張感が漂っていた。聴いたことのない新曲が演奏されるたびに、観客は歌詞を一言も聞き漏らすまいと身構えていたことが思い出される。今思えば、既にRCの崩壊が始まっていた時期でもあるので、従来のキング・オブ・ライヴと呼ばれたバンドとは違うテイストが秘められていたことも、緊迫感に拍車をかけていたのだろう。
 しかしこのアルバムで聴ける清志郎は、当時のライヴでの鬼気迫る雰囲気とは全く違ってリラックスしており、開放感、生命力に溢れている。タイトル曲を筆頭に、誕生したばかりの息子に向けられた曲が多いのも特徴。清志郎というソングライターの実直さがよく分かる。世間を挑発するのも、体制に刃向かうのも、優しい父親の顔を見せるのも、全て等しく清志郎である。
 清志郎が存命であれば恐らく発売されることは無かった音源だと思われるが、本人不在の中で追加レコーディングを行い、正規リリースに耐えられるクオリティに仕上げたチャボら盟友達の愛ある貢献ぶりも特筆すべき。



村八分 / 『ぶっつぶせ!! 1971北区公会堂Live』
ぶっつぶせ! !

ぶっつぶせ! !

 発売のニュースを聞いた時は、こんなものがあったのかと驚くと同時に、でも音質は悪いのだろうなと思った。解散直前に録音されたエレック盤の『村八分Live』以外のライヴ音源は、今ではブートでも厳しい音質のものばかりだったから。しかしその予想は嬉しくも裏切られた。
 もちろん極上とは言い難いレベルではあるものの、時代を考えれば充分な高音質だし、何より演奏内容は『村八分Live』(73年)よりプリミティヴなパワーがあり、スリリングだ。ストーンズエピゴーネンと言われればその通りなのだろうが、ブルーズをベースにしたロックンロール・バンドとして単なる物真似の域を超え、ストーンズに匹敵しうるテンションを実現したバンドが当時の日本に存在した証拠がこれ。
 ライナーで山口冨士夫が書いている通り、この時村八分は結成して1年経つか経たないか。しかも冨士夫とチャー坊が21歳、浅田哲と青木眞一が20歳、ドラムの上原裕に至ってはまだ17歳だった。若さ故のやみくもなパワーは、ロックンロールにとって最も重要な源泉だ。この粗野な感触は熟達したミュージシャンには逆立ちしても出せはしない。
 5年前に出た8枚組ボックスを購入した人なら何も言わずとも入手済みだろうが、村八分を聴いたことが無い人には、まずこのアルバムを薦める。



MIRRORS、MR.KITE、ツネマツ・マサトシ、FLESH、MARIA 023 / 『GOZIRA SPECIAL DINNER』
GOZIRA SPECIAL DINNER-GOZIRA RECORDS COMPLETE COLLECTION 1978-1979-

GOZIRA SPECIAL DINNER-GOZIRA RECORDS COMPLETE COLLECTION 1978-1979-

 ミラーズのヒゴ・ヒロシによって立ち上げられた、日本初のパンク・レーベル「GOZIRA RECORDS」から発売された全6枚のシングル全曲と、レーベル所属バンドの当時のライヴ音源をカップリングした2枚組。シングル盤音源は過去に何度かCD化されているが、ライヴ音源は初出のものが多数。
 サブタイトルに「GOZIRA RECORDS COMPLETE COLLECTION 1978-1979」とあるように、78〜79年の1年余りの間に残された音源で、当時のニューヨークやロンドンで起きていたパンク・ムーヴメントに呼応したものであるのは確か。ニューヨーク勢ほどアーティスティックではないし、ロンドン勢ほど弾けてもいない、微妙な佇まいが日本のパンク黎明期を強烈に感じさせる。しかし主にニューヨーク方向を向きながら、従来には無かった音楽、シーンを創出しようとする姿勢を捉えた貴重なドキュメンタリーには違いない。
 日本のロック自体がまだまだ英米追従型であった頃に、東京のアンダーグラウンドでは同時代の空気を嗅ぎ、精神的に消化して、オリジナルなものを模索していたバンドが多数いたことが分かる。



V.A. / 『ツナミ・アタック!!』vol.1〜3
ツナミ・アタック・オブ・ザ・ジャパニーズ・ガレージ ロックンロール VOL:1

ツナミ・アタック・オブ・ザ・ジャパニーズ・ガレージ ロックンロール VOL:1

ツナミ・アタック・オブ・ザ・ジャパニーズ・ガレージ・ロックンロール vol.2

ツナミ・アタック・オブ・ザ・ジャパニーズ・ガレージ・ロックンロール vol.2

  • アーティスト: オムニバス,The FLY AND HIS ONE MAN GABAGE,THE MIGHTY MOGULS,JACKIE & THE CEDRICS,MACH KUNG-FU,The GREAT MONGOOSE,THE TITANS,荒馬車ブレイメン,HELL-RACER,The Rizlaz,THE DREXEL
  • 出版社/メーカー: ウ゛ィウ゛ィト゛・サウント゛
  • 発売日: 2010/06/16
  • メディア: CD
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ツナミ・アタック・オブ・ザ・ジャパニーズ・ガレージ・ロックンロール VOL:3

ツナミ・アタック・オブ・ザ・ジャパニーズ・ガレージ・ロックンロール VOL:3

 村八分や東京ロッカーズの時代からかなり下って、80年代後半以降の日本のロックは質的にも向上し、商業的に成功するバンドも出てくるわけだが、成熟を迎えると同時に多様化の道を歩みだす。ガレージ・パンクという言葉がまだ浸透していなかった89年に「BACK FROM THE GRAVE」と題して始まったガレージのイベントからは5,6,7,8's、ギターウルフ、MAD3、JACKIE AND THE CEDRICS、TEENGENERATE、SUPERSNAZZなどを輩出する。
 彼らに共通していたのは国内での活動と平行して海外にもネットワークを広げ、ライヴや音源のリリースを行ったことだ。5,6,7,8'sやギターウルフは今でも海外ツアーを行っているし、SUPERSNAZZグランジ・ブームの真っ只中でその総本山であったSub Popからアルバム・デビュー。TEENGENERATEなどは国内より、海外でのリリースの方がはるかに多かった。BACK FROM THE GRAVEはガレージ・パンクを日本で認知させると共に、海外で通用する日本のバンドを誕生させたイベントだった。
 2010年の夏に3ヶ月連続で発売されたこのコンピレーション3タイトル、計4枚(vol.3は2枚組)は、80年代末から90年代初頭のBACK FROM THE GRAVEオリジナル世代から、その血を引き継ぐ現在のバンドまで、日本におけるガレージ・シーンを彩ったバンドを集大成したもの。細かいことを言えばあのバンドが漏れている、他にもっと良い音源があるだろうなど、不満が無いわけではないが、これだけのヴォリュームで音源がまとめられたことは初めてだし、恐らく今後これを越えるものはないだろう。
 ところでこの3タイトルを購入すると、応募特典でロッキン・ジェリービーンがデザインしたCD収納ボックスがもらえるはずだったのだが、締め切りから4ヶ月以上経つのに未だに送られてこない。あれはどうなったのかな。



Dara Puspita / 『Dara Puspita 1966-1968』
Dara Puspita 1966

Dara Puspita 1966

 インドネシアのキノコホテル。というかキノコホテルが現代日本のDara Puspitaか。数年前から一部の好事家の間で人気を呼んでいた東南アジアのガレージ、サイケ・ポップの中で、特に人気が高かったこのバンドが遂に単独CD化。66〜68年の間に残された4枚のアルバムから選曲した26曲を収録したもの。オリジナルのレコードが激レアだったため、こうして手軽に聴けるようになったことは喜ばしい。
 しかしこのキッチュな魅力は実際に音を聴いてみないと伝わらないだろうなあ。ということでお聴きください。Dara Puspitで「Believe Me」。


 日本のカルトGSに近い感触もあるけれど、GS特有の陰にこもった暗さが無く、彼女たちはもっと軽やかでキュート。決して上手くはない演奏も味わいがある。このバンドは60年代当時インドネシアで絶大な人気を誇り、そこに目をつけたプロモーターが東南アジアのみならず、中近東、ヨーロッパを含む海外ツアーを敢行したほど。イギリスにも渡り、彼の地でシングルを2枚発売してもいるそうだ。
 ディスクユニオンが力を入れていたこともあって、2010年はこうしたアジア産のガレージに親しんだ。タイミング良くキング・ジョーさんが編集した「怪奇!世界の辺境ビート歌謡」なるCDRもいただいて愛聴したし。インドネシア、タイ、カンボジアシンガポールあたりにはすこぶるカッコイイガレージ・バンドが多数存在したことを知り、世界の広さを思い知った。



Spencer Wiggins / 『Feed The Flame』
Feed The Flame : The Fame And XL Recordings

Feed The Flame : The Fame And XL Recordings

 続いていきなりサザン・ソウル。60年代から70年代にかけて、GOLD WAX、FAME、XLと3つのレーベルを渡り歩きながら、商業的な成功を収められないままR&B界を去った幻のシンガーの、FAMEとXLに残された音源を収録したコンピレーション。
 サザン・ソウルに特有のウェットで汗臭い歌唱とは少し異なり、シャウトしながら絶叫しない、情緒過多でないのに泣かせるという不思議な魅力がある。これは詫び寂びの世界ではないかと。
 本国アメリカでは全く評価されず、この人を最も高く買ったのは日本のサザン・ソウル・ファンであるのも頷ける。アメリカではLP1枚すら発売されなかったのに、日本では70年代にGOLD WAX音源をまとめたLPが発売されている。この魅力はアメリカ人には分かりにくかったか。
 2006年になって英KENTがGOLD WAX時代の音源をCD化。そして2010年にこのアルバムをリリース。マニアックなソウル、R&Bファンが多いイギリスでも、スペンサー・ウィギンズを認めたのは最近のことだ。KENTからリリースされたCD2枚はいずれも人気が高く、これに乗じて現在は教会でゴスペルを歌っているというスペンサー・ウィギンズが、R&B界に復帰するようなことになると良いのだが。



NEVILLE BROTHERS / 『Authorized Bootleg:Warfield Theatre, San Francisco 27/02/1989』
Authorized Bootleg-Warfield Theatre-San Francisco

Authorized Bootleg-Warfield Theatre-San Francisco

 このアルバムについては、以前一度取り上げたことがある(こちら→リリース情報:Neville Brothers 『Authorized Bootleg Warfield Theatre San Francisco』
 そこでも触れた通り、名盤『Yellow Moon』の発売直前にサンフランシスコで収録した2枚組のライヴ盤。ライヴこそネヴィルズの真髄とよく言われる上に、バンドとして最も脂が乗っていた時期だけに、これが悪かろうはずが無い。
 ブートレグを謳っているものの音質は大変良好で、これが今まで正規にリリースされていなかったことが不思議なほど。典型的なニューオーリンズ・スタイルから、『Yellow Moon』で聴けるようなそれを一歩押し進めたコンテンポラリーなファンクから、オールディーズ・メドレーによるアッパーなパーティー・チューンから、どこから切っても隙の無い極上のグルーヴ。この会場にいなかったことは悔やまれるばかりだが、全体像が掴める高音質の音源が残ったことは感謝以外の言葉が見つからない。



 以上、あまり深く考えずに10タイトルを選んでみた後で気付いた。ディランもマイルスもストーンズもジミ・ヘンもポール・マッカートニーも入っていないではないか!まあその辺は各方面で取り上げられているだろうし、敢えて今さらここで触れる必要はないかな。もちろん取り上げなかった大物たちが上記10タイトルより劣るとは思っていないが、それに勝るとも劣らない重要作はたくさんあったということ。
 今年もそんな作品に出会える期待と、散財への不安でいっぱいだ。