The Bandana Splits『Mr. Sam Presents The Bandana Splits』



 洋の東西を問わず、アイドル歌謡という分野はいつの時代も需要があるものだ。しかしほとんどのアイドル歌謡はせつなの輝きを放っては、次の瞬間には消えていく宿命にある。そのはかなさと聴き手自身の一時期の思い出とが密接につながるから、ある人にとってはエヴァーグリーンであるのに対し、世代が違うとまるで共感が得られなかったりする。「歌は世につれ…」とはこのことだ。
 しかるに50〜60年代のアメリカのアイドル歌謡、ガール・グループものと呼ばれる音楽スタイルには何故、世代を超えた人気があるのだろう。


Mr. Sam Presents the Bandana Splits

Mr. Sam Presents the Bandana Splits



 これは最近の愛聴盤。ジャケットだけ見ると50年代のガール・グループもののリイシュー盤かと錯覚するが、れっきとした2011年の新譜である。もちろん中身の方も往年のガール・グループを模した雰囲気で貫かれている。早速ご覧いただきましょう↓





 アルバムの冒頭を飾る「Sometimes」という曲のクリップ。これを書いているのはちょうどハロウィンの時期でもあるので、その仮装のように見えなくもないが、50年代の雰囲気はよく出ている。
 アルバムは全編この調子で、もちろん半ば冗談でやっているのだろうが、単なるお遊びの範疇には思えない聴き応えのある仕上がり。メロディーの品の良さ、コーラス・ワークの巧みさなど、それこそ往年のガール・グループものと並べても決して劣っていない。
 マーヴェレッツほどの黒さは無く、シャングリラスのようなあばずれ感も皆無。グループとしてはさらに遡ってアンドリュー・シスターズあたりの影響も感じられる。ただしサウンド面はハワイアンなどエキゾチックな要素が入っていたりして、50年代の雰囲気が濃厚だ。
 メンバーはアニー・スプリット、ローレン・スプリット、ドーン・スプリットの3人で、同姓を名乗るラモーンズ方式を採用していることからもおふざけのほどが伺える。バックの演奏もほとんどがこの3人と、プロデューサーであるサム・コーエンが手がけている。
 サム・コーエンはアポロ・サンシャインというバンドの中心メンバーだった人。私はその存在も知らなかったのだが、試聴してみたら00年代のオルタナ・バンドという位置付けにしてはオールディーズ風のメロディーが耳に残る作風が目立った。バンダナ・スプリッツをプロデュースするには打ってつけの人だったのかもしれない。アポロ・サンシャインはボストンで結成されているが、今は活動を休止しており、サム・コーエンはニューヨークへ拠点を移し、セッション・ミュージシャンやプロデュース業を行っているようだ。
 バンダナ・スプリッツはニューヨークはブルックリンから登場。アメリカのインディー・ミュージックのメッカとして近年活況を見せる地だが、こういうものまで出てくるとますます何でもありの百花繚乱状態なのだなと思う。


 例えば80年代にはトレイシー・ウルマンがやはり60年代のガール・ポップスをパロディにしたような音楽をやっていた。しかしそれも今聴いてみると、60年代の雰囲気は感じつつもやはり80年代の音楽の一部に思える。録音機材が60年代当時とは違うのだから当然と言えば当然だし、バンダナ・スプリッツも結局のところ1950年代の雰囲気を持った2010年代の音楽なのだろう。そこは了解しつつも、往年のガール・グループと同じスタイルが持つどうしようもない魅力、普遍性には抗えないのである。


The Best Of The Girl Groups, Vol. 1

The Best Of The Girl Groups, Vol. 1

The Best Of The Girl Groups, Vol. 2

The Best Of The Girl Groups, Vol. 2

 ガール・グループものというのはアイドル歌謡なのであって、シングルヒットこそ命。オリジナル・アルバム単位で聴くよりはヒット曲、代表曲ばかりを楽しみたい。Rhino編集のこのコンピレーションは1990年の発売以降、今もってカタログに残る超ロング・セラー。往年のガール・グループものの美味しいところがどっさり入っている。フィル・スペクター関連やモータウン関連など、恐らく権利関係の都合で漏れているところもあるにはあるが、それらはそれぞれのコンピレーションでフォローすればよろしい。