デラックス・エディションの方が安い件



 CDのデラックス・エディションってあるじゃないですか。洋楽の往年の名盤のオリジナルを収録したディスクと、レコーディング時のアウト・テイクやライヴ音源が入ったディスクをカップリングした2枚組のシリーズ。オリジナル盤もリマスターされて音質がアップしていることが多くて、元々持っているタイトルでも「買い直しかよ〜」なんて文句言いながら、でも内心喜んで買っちゃうあれですよ。
 厳密にはユニバーサル系のレーベルから出るタイトルが「デラックス・エディション」で、ソニー/BMG系のレーベルから出るタイトルは「レガシー・エディション」と名付けられているけれど。
 当然のこと、1枚もの単体で発売されているCDより内容が盛りだくさんなのだから、オリジナル仕様より高価であることが普通なのだが、Amazonで調べてみるとそうでもないケースが結構あることに気が付いた。
 ということで、デラックス・エディションの方が安く買えてしまうCDを列挙。取り上げるのは基本的に輸入盤で、価格は変動するのであくまでこれを書いている11月11日現在の情報であることをお断りしておく。


Dexys Midnight Runners『Too Rye Aye』

Too Rye Ay

Too Rye Ay

2,288円
Too Rye Aye (Dlx) (Exp)

Too Rye Aye (Dlx) (Exp)

2,253円
 上が通常盤、下が2枚組デラックス・エディション。デキシーズミッドナイト・ランナーズのセカンド・アルバム。当時この中から「カモン・アイリーン」が大ヒットした。デラックス・エディションはシングルB面曲と、BBCのライヴ17曲を収録。


Santana『3』
SANTANA 3

SANTANA 3

1,696円
Santana 3 (Aniv) (Reis)

Santana 3 (Aniv) (Reis)

1,503円
 71年作のサード・アルバム。次作の『キャラバンサライ』からラテン色が薄れるため、ここまでが第1期サンタナと呼ばれたりする。後にジャーニーを結成するニール・ショーン(当時17歳!)が在籍していた時期でもある。
 2枚組のレガシー・エディションには、ヒット曲「No One To Depend On」のシングル・ヴァージョンと未発表アウト・テイクを収録。そしてディスク2に収録されているのがフィルモア・ウエストで行われた71年7月4日のライヴ。



Jefferson Airplane『Volunteers』
Volunteers

Volunteers

2,192円
Jefferson Airplane: The Woodstock Experience

Jefferson Airplane: The Woodstock Experience

1,503円
 これはちょっと変則的ながら、一応2枚組拡大版なので。69年作のジェファーソン・エアプレインのアルバム『ヴォランティアーズ』は、彼らにとって6枚目のアルバムであり、中心メンバーマーティ・バリンが在籍した黄金期エアプレインの最後のアルバムである。
 下に掲載したWoodstock Experience版2枚組は、昨年ウッドストック40周年を記念して発売されたもので、ヒッピー・カルチャーの象徴的存在だった彼らが『ヴォランティアーズ』の発売直前に出演した、ウッドストック・フェスティヴァルでのライヴ8曲がカップリングされている。内3曲はこのエディションでなければ聴けない。



The Byrds『Sweetheart of the Rodeo』
SWEETHEART OF THE RODEO

SWEETHEART OF THE RODEO

1,475円
Sweetheart of the Rodeo: Legacy Edition

Sweetheart of the Rodeo: Legacy Edition

1,366円
 新メンバーにグラム・パーソンズを迎え、フォーク・ロック路線からカントリー・ロックへ舵を切った6作目。68年に作られたこのアルバムによって、バーズはもちろん、アメリカ全体のロックにも転機が訪れる。
 2枚組レガシー・エディションはグラム・パーソンズがバーズ以前に在籍していたインターナショナル・サブマリン・バンドの6曲と、アルバムのアウト・テイク14曲が入ったディスクとのカップリング。上の通常盤もオリジナル収録の11曲に8曲のボーナス・トラックが追加されている(レガシー・エディションのディスク1とは内容が異なる)。



 とりあえず私が見つけた4タイトルを挙げておいた。探せばまだ他にもあるかも。
 通常盤より安いとまではいかないものの、2枚組としては破格の安値と言えるタイトルは他にもいくつかあった。
 例えばクラッシュの『London Calling』(2CD+1DVDで1,503円!)とか、ジェフ・バックリーの『Grace』(1,366円)とか、マイルス・デイヴィスの『Round About Midnight 』(1,366円)とか…。
 デラックス・エディションというのは基本的にオリジナル仕様で聴いていて、内容に価値を認めていた人が、ヴァージョン・アップとして手を出すものと思っていたのだが、これだけ手頃な価格で出回ると、初めて聴くのが2枚組ということも起こり得るだろう。
 それを証明するように、イギー&ザ・ストゥージズの『Raw Power』のレガシー・エディションにはこんなレビューが寄せられている。

Iggy Popをはじめて聴いた。
昔のパンクは熱いなあ、と感動。
聴いてて叫びたくなるほどかっこいい。
元のCDを聴いたことがないのでなんとも言えないがリマスターされてるだけあってとてもクッキリとした音になっている。
そして本編のCDよりよかったのが全9曲のライブ音源。
なにこの熱さ?半端ないね!
ライブ音源目当てに買っても申し分ない出来のCDとなっているのでオススメです!
自分はいわゆるゆとり世代なので昔の音楽に余り触れたことが無かったが、
このCDを聴いて昔のロックンロールというものに興味がかなり沸いてきた。
自分みたいな若者にもぜひともお勧めしたいアルバムです。

 オリジナル盤から聴けよ、などと煩いことを言うつもりはない。そういう時代なんだなあと思うだけだ。おじさんとしては。
 考えたら今の10代にとって60年代のロックというのは、自分が生まれる30年以上前の音楽ということになる。私の年齢に置き換えるならば、戦前のカントリー・ブルーズとか、ビバップ以前のビッグ・バンド・ジャズぐらいの距離感があることなってしまうのだ。
 歴史が長い分、情報量も処理し切れないほど多いから、系統立てて順序を守って聴くなんてことをしていたら、パンク・ムーヴメントを迎える前に寿命が尽きてしまうかもしれない。面倒なことはすっ飛ばして、手当たり次第に聴く方がよっぽど健全だ。
 せっかくこんなに安く傑作が手に入るのだから、2枚組だからと臆せずにどんどん聴いた方が良いのかもしれない。ただし情報量が増えた分、音楽に対するリテラシーを身に着けることも求められるとは思うが。