Bob Dylan『THE ORIGINAL MONO RECORDINGS』インプレその2



 ボブ・ディランのモノ・ボックスなんて高額商品を買ってしまったので、元が取れるぐらいじっくり味わうシリーズの第2弾。
 今回はセカンドの『The Freewheelin'』とサードの『The Times They Are A-Changin'』について、モノ盤とステレオ盤の比較を。
『The Freewheelin'』

 これがモノ盤。ファースト同様、インナースリーヴは白の紙製。レーベルは二つ目。

 比較に使ったのは日本盤紙ジャケ。ステレオ盤はディランとスージー・ロトロの頭上に「STEREO」のロゴが入っているため、写真のトリミングが異なる。発色はモノ盤の方が自然な感じ。
 比較に使用したステレオ盤は、03年リマスターのCD。このアルバムもファーストに引き続き弾き語りが中心だが、「コリーナコリーナ」のみバッキング・ミュージシャンを起用している。
 ファースト『Bob Dylan』はステレオ盤であってもヴォーカル、ギター、ハーモニカがほぼ中央に置かれる素朴なミックスだったのに比べると、『The Freewheelin'』はサウンド・プロダクションに凝り始めたことが分かる。ヴォーカルを強調する意図があったようで、ヴォーカルが真ん中、ギターが右寄り、ハーモニカが左寄りに配置されたミックスとなっている曲が多い。
 ファーストと同じように全パートが真ん中にミックスされているのは、「くよくよするなよ」「オックスフォード・タウン」「ワン・モア・チャンス」「アイ・シャル・ビー・フリー」と、何故かアナログ盤で言うところのB面曲に集中している。
 03年版リマスターで聴くと、メリハリを付けるためか音圧が非常に高く、真ん中にでーんと置かれたヴォーカルは時に耳障りですらある。またギターとハーモニカが左右に分かれているため、ヴォーカリスト、ギタリスト、ハーピストの3人のディランが別々に演奏しているようで滑稽だ。
 モノ盤の場合、こうした不自然さは解消されている。全パートが中央に位置しているのは当然のことながら、03年版リマスターと比較すると音圧が控えめで、その分優しく聴こえる。これは弱々しいという意味ではなく、音楽に接する上で自然だし、温かみすら感じられるのだ。ギターの音など使っている弦が違うのではないかと思えるほど、耳当たりがやわらかい。
 90年代の後半になってようやくリマスターの概念が確立され、以降CDの音質は目覚しく向上したけれども、それは同時に音圧を上げる競争のような面もあった。各パートがはっきり聴こえるのは良いとしても、過剰な音圧は聴く者を疲弊させてしまう。昨年のビートルズのリマスターや、今回のディランのモノ・リマスターなどはそれに対する反動、反省があるような気がする。


フリーホイーリン・ボブ・ディラン

フリーホイーリン・ボブ・ディラン



The Times They Are A-Changin'』

 こちらがモノ盤。写真では分かりにくいと思うが、表面がエンボス加工されている。

 レーベルは『The Freewheelin'』と同じく二つ目。インナースリーヴの他に、裏ジャケから続くディラン作の小説?「11のあらましな墓碑銘」が裏表に印刷されたカードが封入されていた。オリジナルLPではインナースリーヴに印刷されていたのだろうか。もうじき発売される日本盤モノ・ボックスではどう再現されるのか楽しみだ。買わないけど。

 右が手元にあった日本盤のステレオCD。プラケ版のせいか、今回のモノとは色合いがかなり異なる。日本盤はややセピア調。
 比較に使用したステレオ盤は、05年リマスターのCD。今まで比較してきた3枚の内、モノとステレオの差異が最も感じられなかったのはこのアルバムだった。
 ステレオは若干ヴォーカルが強めにミックスされているが、それでも『The Freewheelin'』ほどは目立たず、全体の音圧も大きいとは言えない。モノ盤と比較してもほぼ同じレベルの音圧だった。今作はファーストに続いて全曲がディラン本人による弾き語りによるだが、ステレオ盤もヴォーカル、ギター、ハーモニカのいずれもがほぼ中央に置かれていた。
 東西冷戦、公民権運動などでアメリカ社会が揺れていた時期を反映し、タイトル曲を始めディランのプロテスト・シンガーとしての側面が強い内容ではある。ただし怒りの矛先を向けつつも、周囲を扇動するような姿勢は感じられず、ディランはあくまでも個人レベルのステイトメントを発しており、繊細かつ内省的なプロテスト・ソングが並んでいる。
 その内容を表すには抑制の効いたミックスが必要だったのだろうし、結果として質素と言っていいサウンドに仕上がったのだと思われる。今作からプロデューサーがトム・ウィルソンに代わったことも関係しているかもしれない。
 サウンド面での大きな違いは無かったが、ひとつだけ気になった点がある。アルバムのトータル・タイムがモノとステレオで17秒も違うのだ。所有しているCDプレーヤーでは、モノが45分59秒、ステレオが45分42秒と表示された。曲ごとの時間を調べてみたところ、特定の曲の長さが違うのではなく、全10曲それぞれが1〜3秒程度、モノの方が長かった。演奏時間が長い曲ほどこの差が大きい傾向があるので、ステレオは全体的にピッチが速いのではないだろうか。


時代は変る

時代は変る

ボブ・ディラン・モノ・ボックス

ボブ・ディラン・モノ・ボックス