Bob Dylan 『THE ORIGINAL MONO RECORDINGS』インプレその1



 待望だったボブ・ディランのモノ・ボックスが昨日我が家に届いた。私が購入したのはUS盤だ。Amazonの箱から取り出して、すぐにはシュリンクを破らず、しばらくは色んな角度から眺めてニヤニヤする。何だろうこの感覚は。寿司をつまみながら高笑いしているおっさんみたいだ。事実おっさんなのだが。
 ボックスセットは所有する喜びが多分にあり、眺めているだけでもかなり楽しめる。しかしそれだけで終わったのでは単に気持ち悪いおっさんなので、満を持してシュリンクを破る。

 まずこれが外観。シュリンクの上から、限定であることを謳うゴールドのステッカーと、内容について説明する黄色のステッカーが貼ってある。黄色の方のステッカーにはボックスに含まれる全曲とベスト盤にのみ収録される「寂しき四番街」がダウンロードできると書いてある。

 こちらは箱の裏側。

 外箱から内箱を引き出したところ。

 初期の8タイトルがこのように。発売前には輸入盤はデジパック仕様との情報があったが、実際は紙ジャケだった。日本製ほど精巧ではないものの、以前の海外製紙ジャケと比較すると格段の出来。私は紙ジャケにはそれほどこだわらないので、これでも充分。

 付属の60ページのブックレットと、封入されていたカードが2枚。モノ・ボックスのカードの裏面にはダウンロード用のコードが印刷されている。『ウィットマーク・デモ』のカード裏面は宣伝が。

 ブックレットの中はこんな感じ。詳細な英文ライナーと、珍しい写真がたくさん。
 ではいよいよ音を聴いてみたい。やはりファーストから順番に聴いていくのがよかろうと、まずはデビュー作『Bob Dylan』を選ぶ。

 紙ジャケの中には白無地の紙製スリーブがあり、ディスクはその中に入っていた。レーベル面はご覧のように六つ目。

 ステレオ盤との比較のため、手元にあった2005年リマスターの国内盤CDも併せて聴いた。


 ご存知の通り、ファーストは完全な弾き語り作品。ゲスト・ミュージシャンを入れず、ディラン本人による歌唱とアコースティック・ギター、ハーモニカで構成されている。ステレオ盤で聴いてもほぼ全ての音は中央から聴こえ、せいぜいハーモニカが音の高低によって多少左右に振られる程度だ。これは当然ハーモニカを吹く際にディランが首を左右に振るからである。
 ステレオとモノを聴き比べても、音の立体感に大きな違いは感じられなかった。これは予想できたことでもある。最も大きな違いはサウンド全体の質感だった。
 実は最初に驚いたのは05年マスターのステレオ盤の優秀さだ。ディランのヴォーカルにしろ、ギターにしろ、目の前で鳴っているかのようにリアルで、演奏しているディラン本人の姿を喚起するほどなのだ。どちらが迫力があるかと言えば、ステレオ盤に軍配が上がるだろう。
 ではモノ盤はステレオ盤に劣ると言えるのか?何をもって「良い音」とするかは微妙なところだし、好みの問題に収斂されるのかもしれないが、モノの方が音楽を鑑賞しているようには聴こえたと言っておこう。
 ステレオ盤と比較すると、モノ盤はやや音圧が低く、音の鳴り方が優しい。その分サウンドの全体像を掴みやすい利点がある。ディランの目の前で聴いているのがステレオ盤だとすれば、2〜3メートル下がったところから聴いているように感じられるのがモノ盤なのだ。
 ステレオではディランがあまりにも間近で歌っているため、その声やギターの1音1音に圧倒されてそればかりが気になってしまう。森を見たいのに、木しか見せてくれないような気分になってくる。あまりの迫力に、40分足らずのこのアルバム1枚を聴くのにかなりのエネルギーを要求されるのだ。
 その点モノはディランの頭からつま先までが見渡せるため、余裕を持って接することができる。例えばライヴを見に行って、ギタリストの手元ばかりを見ている人はそのバンドを鑑賞していることになるのだろうか。それも鑑賞方法のひとつには違いないだろうし、方法を誰かから強要される筋合いはない。だから先に述べたように好みの問題とも言えるのだが、私にはモノ盤の方が音楽を聴く上では聴きやすいと感じた。
 ステレオ盤の方が現代的、モノ盤の方がアナログ的とは言えるだろう。アナログ的と言えば、モノの方が曲間が長いという違いもあった。曲と曲との間にある無音部分は、ステレオが約3秒に対し、モノは約5秒取ってあった。これはアナログ盤時代の時間感覚を復活させたためだと思われる。


 とりあえずファーストしか比較できなかったが、これ以外のアルバムも順次聴き比べていくつもりだ。高額のボックスを入手したのだから、じっくり楽しませてもらわねば。

Bob Dylan: Original Mono Recordings

Bob Dylan: Original Mono Recordings

ボブ・ディラン・モノ・ボックス

ボブ・ディラン・モノ・ボックス

ボブ・ディラン

ボブ・ディラン