ハートがホワン

k_turner2009-01-22



超迷曲「恋のホワン・ホワン」再発!
 三遊亭円丈による幻のレコード、「恋のホワン・ホワン」が遂に再発された。好事家の間ではつとに有名な作品だが、一般的には知らなくて当たり前の代物だ。
 発売は1981年暮れ。前年から続いていた漫才ブームザ・ぼんちの「恋のぼんちシート」の大ヒットの余波を受け、ちょっと売れているお笑い芸人ならば猫も杓子もレコードを発売していた時代の徒花。このレコードも何匹目かの柳の下のどじょうを狙ったことは明白で、全くと言っていいほど話題になることはなく、ヒットもしなかった。しかし私はこのレコードが発売された時、当時購読していたFM誌でニュースとして掲載されていたのを覚えている。ジャケット写真と共に「何やらコステロ風に決めているのは三遊亭円丈…」という紹介記事だった。円丈師匠のファンではあったけれど、ただふうんと思っただけで特に気にもしなかった。
 その認識を改めたのは発売から数年後のこと。A面曲「恋のホワン・ホワン」はニック・ロウ最大の中ヒット曲「恋する二人(CRUEL TO BE KIND)」のカヴァーであることが判明したからだ。エルヴィス・コステロを経由してニック・ロウの信奉者でもあった私は色めき立った。「恋のホワン・ホワン」のジャケット写真は88年のニック・ロウ来日ツアーのパンフレットにも掲載されている。ただしヒットしなかっただけあって流通枚数は極めて少なく、私はかれこれ20年以上中古レコード屋で探し続けたけれど、現在に至るまで現物を見たことは一度もない。稀にヤフオクに出品されても、すぐに1万円ぐらいの値が付いてしまうので、簡単に手に入るレコードではなかったのだ。
 初めて音を聴いたのは発売から20年近く経過してから、萩原健太氏のラジオ番組でだった。オリジナルとは違いフィル・スペクター風のアレンジに乗って、面妖な日本語詞を怪しい音程とスットコなリズム感で歌うそれは、本来軽快であるはずの曲のイメージを台無しにしてしまう実にパンクでデストロイなカヴァーだった。円丈師匠本人は「もう思い出したくもない」そうだが、これを聴いてますます収集欲が高まったのは言うまでもない。2002年には『Laugh!』というコミックソングのオムニバス盤に収録され、無事CD化も果たしている。それでも7インチ盤で手に入れたいという欲求が消えることはなかった。
 積年の思いが実り、2009年の今、7インチ盤にて復刻されたことを知った私が注文を入れるのにためらいなどあるはずがない。到着するのを今や遅しと待っているところだ。
 音だけならYouTubeでも聴ける。良い時代になったというか、嫌な時代になったというか。

 ところで今回復刻したのはレコード・ショップ芽瑠璃堂のレーベルなのだが、その紹介ページを読んでいて気付いたことがある。B面の「恋のリハビリテーション」の作曲・編曲のクレジットは橋詰宣秋とある。ん?記事によるとこの曲のバックはCONXが務めたとあるから、この人は橋詰宣明、つまりmooneyさんじゃん!ニッポンのロックンロールとパブ・ロックがこんなところでつながっていたとは…。