クレイジーミッドナイト69@川崎Club Citta



 「ロックンロールお年玉」の第二部である。第一部が終わったのが22時半ぐらいで、第二部の開演まで2時間ほどあった。土地勘はあれど、私が住んでいた10数年前とはすっかり見違えた川崎の街をうろうろし、手ごろな立飲み屋へ入る。焼き鳥2本とモツ煮(絶品)をアテに、生ビール×1と酎ハイ×1を消費。川崎っぽさ満点で、もう少し長居したかったのだが、閉店時間だというので会計を済ませて再び外へ。
 まだ空腹は満たされていなかったため、昔何度か行ったことのあるラーメン屋を目指すも、行列の長さに断念。その近くに激安な焼肉屋を見つけたので、「♪肉喰う〜、肉喰う〜」と歌いながら突撃。安いだけあって本当に牛肉なのか自信が持てない代物を喰らいつつ、ここでも生ビールとサワーを呑んじゃってすっかりご機嫌である。
 時計を見ると日付が変わって、開演時間の0時半。良い心持ちで会計すると、散々喰って呑んだはずなのに2500円ほどで済んでしまい、本当に胃体内へ流し込んで良いものだったのか不安になった。
 しかしすっかり出来上がっている私は無敵である。一瞬にして気を取り直し、チッタへ戻る。前売り2300円のところ、「ロックンロールお年玉」のチケット半券を持っていると当日料金が1800円になるのが嬉しい。さぞかし盛況だろうと思いきや、フロアに入って愕然。瞬時に数えられるほどしか人がいない。最終的にも動員は50人ぐらいだったのではないかなあ。U.F.O.Clubならともかく、ここはチッタ。サッカーかバレーボールでもできそうな人口密度だった。皆さん、ロックンロールはお嫌いですか?
 でも出来上がっている私は無敵である。良いバンドばっかり見られるわけだし、広いフロアで暴れられる機会もそうそう無いのだからと、一瞬にして気を取り直す。ステージ脇のDJブースを見ると、キング・ジョーがスピン中だった。マイミクである私は早速挨拶に。するとキング・ジョー編集の『GO GO ジャズおどり』というCDRをくれた。ありがとう、ジョーさん!まさにロックンロールお年玉だ。事前に頂戴と言ってあったのだけれどね。
 酔いも手伝い、キング・ジョーのDJでイイ感じに盛り上がってきたところで最初のバンドが登場。thee 50's highteens、from 福岡!復活後のハイティーンズを見るのはこれが初めて。いや〜、変わってないぜ。相変わらずクレイジーでキュートでイカレポンチで最高。2年と少し前にケイとハニーが抜けた時はどうなるのかと思っていたが、サポート扱いながらギターのハニーちゃんが復帰して一安心。1年前に加入したという新しいキーボードもケイほどぶっ飛んではいないものの、なかなか良いノイズを奏でてくれていた。スーのドラムは以前より上手くなっている。問題ないではないか。
 このライヴが終わったらメンバーは成田へ向かい、そのままドイツツアーに入るそうだ。皆がんばっているのだね。何か知らんがやる気が湧いてきたぞ。とりあえず朝まで踊れ。
 お次は京都のサイクロンズ。以前に比べるとGSっぽさが抜けて、正統派のビート・バンドの佇まい。これはこれで良い。新作アルバムの発売を控えてツアー中だそうで、その勢いを駆ってフロアを沸かす。バンドとして充実していることが良く分かるライヴだった。しばらくご無沙汰していたサイクロンズだったが、近いうちにまた見てみたいものだ。
 夜もすっかり更け、草木も眠る丑三つ時ともなるとフロアのカオス度は相当なもの。閑散とした大バコである者は踊り狂い、ある者はアルコールを片手に跋扈する。そんな魑魅魍魎どもの中で一際不気味な足取りで蠢く男がひとり。夜のストレンジャーズミウラさんであった。第一部の出番を終えてから呑み続けていたのは明らかな酩酊状態で、右手にワインボトル、左手に缶ビールを持ち、フロア内をあっちへうろうろ、こっちへうろうろ。一応私は面識があるので話しかけたりもしたのだが、ベロンベロンになったミウラさんは目の焦点が定まらず、ろれつが回っていないので意味不明の言葉を吐くばかり。あの分では覚えていないだろうなあ。数々の醜態も見てしまったが、ミウラさんの名誉のために伏せておく。この晩のミウラさんは、夜のストレンジャーならぬドランカーだった(笑)。
 さてライヴの方はモクメというトリオが登場。ベースも弾く女性ヴォーカルのこぶしまわしとリズム感が何ともイイ。昭和歌謡のいかがわしさと正統派ガレージのスピード感が上手くミックスされた端正なバンドだった。多分もの凄く良い人たちなんだろうな。ギターのテクニックもかなりのレベルで、感心することしきり。足らないものがあるとしたら、こちらの予想を飛び越えていく狂気だけか。そういえばモンド・ダイヤモンドって今どうなっているのだろうと思い出したりした。
 楽しい時間はどんどん過ぎて行き、早くも終盤。フロアに漂い始めた眠気を一気に吹き飛ばしたのが、次のカルガモネンド。これが最高。一発で気に入りました。このバンドが見られただけでも、このイベントに来た価値はあった。
 今時関西の漫才師でも着ないようなハデなスーツで揃えたトリオ。イロモノ臭満点ながら、音楽性の高さは侮れない。サイケ、ガレージ、GS、ファンクのトンマな部分を凝縮させながら、高度な演奏力で圧倒する。ベース、ドラムは音数が半端無く、複雑なブレイクをバシバシ決める。ヴォーカルは甲高い声でシャウトしながらギターでメロディアスなフレーズを弾きまくる。カッコイイったらない。
 メンバーの風貌は一目見たら忘れられないインパクトがあるのもイイ。ヴォーカル&ギターはどう見てもロキシー時代のイーノ(本人はハリセンボンの細い方と言っていた)。ベースは香港映画に出てきそうだし、ドラムはアンガールズと同じ種類のオーラが出ている。う〜む、これは逆ビジュアル系とでも言えばいいのか。
 明け方に帰宅した私がまずやったことは、カルガモネンドをネットで検索することだった。既に地元京都の磔磔でワンマン・ライヴを行い、ソールド・アウトにするほどの人気があることを知る。騒音寺が売れるのなら、カルガモネンドが売れないはずがない。因みにヴォーカル、ムロのブログは大変面白い。
 日付を跨いで12時間以上に亘って繰り広げられた怒涛のイベントもいよいよ大団円。トリを飾ったのはTHEEE BAT!彼らが登場したのは午前4時半ごろのこと。「歌うヘッドライト」も終わりかけだというのに、大音量のハウリング・ノイズを撒き散らしながら、地鳴りのような咆哮で、夜明け前の死の舞踏へと誘う。さらに広いチッタのステージでは飽き足らずに、メンバーはフロアへ飛び降り、シールドが届くギリギリの範囲まで遠征して傍若無人に暴れまわる。正にやりたい放題である。
 先ほどのカルガモネンドがカラフルなイメージだったのとは対照的に、THEEE BATの音は漆黒の闇を思わせる。バンドのコンセプトは固まっているし、約1年ぶりに見て以前より益々風格あるバンドへ成長したように感じた。それなのに未だに音源がリリースされていないのは残念だ。
 THEEE BATが走らせる黄泉の世界行き暴走列車に乗せられて、こちらもひと暴れ。最後の最後に地獄へ道づれだ。爽快な疲労感を味わいながら、墓へ戻るゾンビのごとくチッタを後にしたのだった。