夏のぬけがら



 もう8月だって。今年はフジロックにも行けなかった。行かなかったのではない。行けるものなら行きたかったのだが、人にはそれぞれ事情があるのである。
 朝から自宅で作業。昼食を挟んで午後3時ごろに一段落。その後、最寄の郵便局で今日中に済ませておかねばならなかった用事を片付けたら、当面の仕事は終わってしまった。
 まだ陽は高く蒸し暑いものの、7月から続いていた猛暑もピークを過ぎたようでさほど不快ではない。暑さのせいもあって、ここしばらくは表を歩き回る機会が減っていたことを思い出し、ぼんやりと考え事をしながら散歩。苗場へ行っていれば先週末は散々歩いたのだろうが。
 車の往来の激しい街道沿いは空気が悪いので、少し遠回りをしながら2駅分歩く。所要時間45分ほど。これでフジの入り口ゲートからオレンジコートあたりまで歩いた計算か。久しぶりに間近でセミの鳴き声を聞いた。Tシャツから出た腕も少しは焼けたはずだ。
 たどり着いたのは6年ほど前まで住んでいた場所に近く、土地勘はある。中古CDや書籍、ビデオなどを販売している店が目に留まり、まだ営業していたことに安堵と懐かしさが入り混じった気持ちで立ち寄る。
 何を探すでもなく店の中をうろついていると、中古レコードが入ったダンボール箱があることに気付く。200枚程度だろうか。店の売り上げに貢献していないのは明らかな、デッドストックであろう。不憫に思い、80年代のメタルから90年代のハウス、ヒップホップまで、雑多な品揃えの中から数枚を抜く。
 The Colour Field 『Virgins and Philistines』100円
 Golden Earring 「Twilight Zone」12インチ 200円
 Phil Spector 『The Early Productions 1958-1961』1000円
 Jesus Couldn't Drum 『S.T.』500円
 締めて1800円。フィル・スペクターのは83年発売のライノ編集盤。テディ・ベアーズの「To Know Him Is To Love Him」が入っていたので嬉しい。実は数ヶ月前からこの曲が聴きたくて仕方が無かったのだが、昔持っていたエアチェックのカセット以外手元に音源が無く、調べたらCDでは例のボックスにしか収録されていないようで購入することもできずに悔しい思いをしていたのだ。ボックスは廃盤で、スペクターの現状を考えると再発の目処は立ちそうにないからね。その他は安さと懐かしさにほだされて。ジーザス〜はギタポ、ネオアコのファンで探している人がいるかもしれない。
 今や都内でも中古レコード店は壊滅状態で、ディスクユニオンあたりでもレコードはコレクターズアイテムにのみ注力するようになってきている。このクラスの中古レコードが市場に出回るのも、そろそろ終わりかなと思ったこともある。いくらエリカ・バドゥ「地元のレコード店を救え」と訴えたところで、時代の流れには逆らえないのだ。

 日も傾き始めたので電車で帰宅。帰路も歩くガッツは無かった。スーパーに寄って晩のおかずの買い物。豚ロースが安かったので、これでポークジンジャーを作ることにする。一袋100円でたっぷり入っているキャベツの千切りも一緒に。
 シャワーを浴びて汗と埃を洗い流しさっぱりしたところで、でんと盛られたキャベツに乗ったポークジンジャーをつまみにビールによく似た発泡酒を飲む。至福のひとときである。願わくはここが苗場であれば。発泡酒でなくハイネケンであれば。鳴ってるのが今日買った中古レコードでなくマイ・ブラッディ・ヴァレンタインブーツィー・コリンズの生演奏であれば。