He Loved Him Madly



テオ・マセロ死去
 マイルス・デイヴィスのプロデューサーとして有名なテオ・マセロが亡くなったそう。享年82。
 コロムビア時代を通じてマイルスの創作上の重要なパートナーであり、特に『In a Silent Way』以降のエレクトリック期においては、スタジオでのセッションを収録したテープを大胆に切り刻み、新たにつなぎ合わせて作品化する作業を担当した。ジャズの世界ではもちろん、それどころか60年代終わりの音楽界では通常考えられなかった手法を実践した人物。結果的に後のリミックスに通じる発想や、音響と呼ばれるようになる概念を40年近く前に実現していたことになる。
 『On the Corner』とか『Get Up with It』あたりの今なお問題作と言われるアルバムは、ほとんどテオの作品だと言う人もいるぐらいで、実際マイルスは録音のためにスタジオには現れるけれども、編集作業には一切関わっていないらしい。その理由はテオに全幅の信頼を置いていたからだとか、マイルスがドラッグ禍にあったせいでとても立ち会えなかったからだとか、諸説あり真相は不明。そもそもマイルスとテオはあまり仲が良くなかったらしく、俺の演奏はどうやっても傑作になるのだからとテオに仕上げを押し付けていたからだという説まである。
 インタビュー嫌いだったマイルスの口から具体的な説明はほとんどなされることなく夭逝してしまったし、裏方であったテオもあまり多くを語らなかったために、この2人の関係、及びアルバム制作の裏側部分は謎に包まれた部分も多い。60年代後半〜70年代前半の諸作については、10年ほど前から発掘音源を大量に追加したボックスセットが順次リイシューされているが、これらにテオは直接携わっていないことが惜しまれる。結局当事者の貴重な証言を得ないまま、ミステリアスな傑作の数々だけが残った。人類は永遠の謎解きに翻弄される楽しみを与えられたのかもしれないが。