ひとりぼっちの反乱



佐野元春『ネット時代の音楽ビジネスを語る』
 ナタリーより。

10月29日夜、都内某所で「佐野元春 ブロガーミーティング」と題した会合が行われた。これは著名なブロガーを集めて、佐野元春が自身の活動についてプレゼンテーションを行うというクローズドなイベント。

 感動的なレポートなので、ぜひ全文を読むことをお勧めする。佐野元春は自らの表現欲求に誠実で、またその行動に対して理路整然と説明できる稀有な存在だ。ネットが当たり前のものになる以前から今日までの彼の考えや実践してきたことが大変よく分かる。こうした会合を開いたことからも明白なように、彼は音楽をとりまくビジネスに真摯に取り組んでいる。ただしビジネスを盾にリスナーを疎外する方向性に対しては、真っ向から立ち向かう姿勢を崩さない。
 内容もさることながら、この会合でもうひとつ重要なのは従来からある雑誌や新聞のようなメディアを対象としたものではなく、ブロガーだけを集めて開かれたことだ。それはビジネス的な判断というより、彼の嗅覚と言った方が良い。旧来型のメディアより、ブロガーの行動力に賭けたのは、ミュージシャンとしての姿勢と直結している。それは結果が出るよりもまず、アクションを起こしてみようとするラジカルなものだ。
 音楽雑誌がつまらなくなったと言われるようになって久しい。そんなメディアに私も時々文章を寄せている立場だから大きなことは言えないが、今の音楽雑誌はいかに保守層(つまりお金を払って読んでくれる読者)に擦り寄るかしか考えていないように思う。そんなメディアに未来があるとは思えない。
 私はかつてbeatlegという海賊盤の情報誌で、J-POPに関するコラムを連載していたことがある。当時欧米のロックが死に絶えたも同然の状態だったこともあり、90年代後半からしばらくは日本のロックが非常に面白く思えた時期だった。その連載中に9.11が起こり、当然のこと日本の音楽界からそれに対する反応が起こることを期待したのだが、結局具体的な行動で示したのは奇しくも佐野元春だけだった。それは日本のロックに対して失望させるに充分な出来事だった。非常に良いタイミングで真心ブラザーズが「人間はもう終わりだ」というシングルを発売したこともあったが、よく調べてみたらこの曲は9.11とは無関係に制作されたもので、その内容の過激さから9.11直後の発売を見送る動きがあったことが分かってからというもの、輪をかけた失望につながった。そのことは当時の連載コラムにも書いた記憶がある。
 その後はしばらくお茶を濁したような記事で連載を続けていたが、J-POPに関して記事を書くことが苦痛で仕方が無く、2002年に入ったころに連載は打ち切らせてもらった。ただし理由はそれだけではないが、ここでは詳細は省く。
 beatlegという雑誌とのつきあいはその後も続いていた。が、それも先日をもって最後とさせてもらった。私が今後あの雑誌に記事を書くことはないだろう。元々あまり依頼が来ることはなかったが、音楽雑誌への寄稿そのものに興味を失いつつある。そのタイミングでこのブロガーミーティングの記事を目にし、急に兆しが見えてきた気がした。佐野元春の行動力にまたしても唸らされたのである。