Wicked Messenger



トゥウェルヴ
 Amazonに注文してあったパティ・スミスの新作『twelve』が届いた。
 私は各国盤やブートを集めてしまうほどのパティ・スミスヲタなので、客観的で冷静な評価を下すことができるかどうか心許ないが、あえて大傑作と言い切ってしまおう。タイトル通り全12曲が収められたこのアルバムは全編がカヴァーで、選曲は次の通り。

01. Are You Experienced? - Jimi Hendrix
02. Everybody Wants To Rule The World - Tears For Fears
03. Helpless - Neil Young
04. Gimme Shelter - Rolling Stones
05. Within You Without You - The Beatles
06. White Rabbit - Jefferson Airplane
07. Changing Of The Guards - Bob Dylan
08. The Boy In The Bubble - Paul Simon
09. Soul Kitchen - The Doors
10. Smells Like Teen Spirit - Nirvana
11. Midnight Rider - The Allman Brothers Band
12. Pastime Paradise - Stevie Wonder

 ロック史を俯瞰できる人ならば、ほとんど全曲を知っているはず。それほど有名な曲ばかりが選ばれている。何故今こうしたカヴァー・アルバムを発売することにしたのか、聴くまではその真意を図りかねる部分があった。パティにとって終生のアイドルと言える、ストーンズ、ドアーズ、ジミ・ヘンドリックスあたりは単に好きだからということで理解できるにしても、ティアーズ・フォー・フィアーズとか、オールマン・ブラザーズ・バンドポール・サイモンなど意外な曲も少なくない。
 アルバムにはパティ本人によるライナーが付いており、「運命づけられた動きと自分の意思による動きが組み合わさってできた作品なのだ」と書かれている。
 本人によるこの分析は、音を聴いて深く納得できた。ここ何枚かのオリジナル・アルバム同様、パンク・ソングと呼べるような攻撃的な曲はひとつも含まれていない。「Smells Like Teen Spirit」のような曲でさえ、穏やかなアレンジが施されている。しかしどの曲も、漆黒の闇の中遠くで静かに揺らめいている漁火のような、確かな炎が燃えていることに気付かされる。これが還暦を迎えたパティの真摯な解釈なのだ。
 1975年のデビュー作『Horses』の冒頭を飾った「Gloria」の全てをなぎ倒すようなアレンジは、28歳のパティが表現した、その時点で最も正しい解釈だった。それがまた、元々はカヴァーであることを忘れさせるほど普遍的なパワーを持っていたことを、後の歴史が証明している。今回も本質的にはそれと違わないように聴こえる。
 カヴァーの成功例とは、オリジナルを超えたものである。ただしだからと言って、オリジナルとかけ離れたアレンジが施されていれば良いというものではない。取り上げたアーティスト本人の個性が反映されていなければならないのだ。従って優れたカヴァーとは、オリジナル曲以上にその人の本質を浮かび上がらせる。スティーヴィー・ワンダーを歌っても、ニール・ヤングを歌っても、楽曲は媒介にしか過ぎず、パティの個性が見えているという点で、『twelve』は傑作である。