休日に天気が良過ぎるのも考えものだ



 外へ出かけないと損した気持ちになる。


タムくん。
 ほぼ日で今月20日までの期間限定にて公開されているアニメ。SAKEROCKの「インストバンド」という曲のPVでもある。
 「まずはともかく、こちらをご覧ください!」とあるので、未見の方はともかく一度ご覧いただきたい。
 このアニメーションに対し、「泣いた」「感動した」という声がやたら聞かれる。リンク先の紹介コメントにも「なくしたものがもどってきたような、やたらとなつかしい、うれしい気持ちになれるんです」とひらがなだらけで書いてある。
 最初は私の感受性がおかしいのかと思い、不安になって3回ほど繰り返して見たのだが、少なくとも感動は覚えなかった。むしろこのアニメで多くの人が心を震わされている事実が不気味に思えた。
 非常に雑な絵で、基本的なデッサン力が乏しいこと、みつはしちかこの習作みたいなタッチであることはこの際目を瞑ろう。それが味なのだと、好意的に解釈してあげる。しかしストーリー及び設定に対する疑問はどうしても拭いきれない。
 見てもらえば一目瞭然で、ストーリーは非常に単純だ。コンプレックスのある3枚目の主人公が、可憐なヒロインに思いを馳せるという、古典的にも程があるもの。
 まず私が気になったのは、主人公の立場が不明確なところだ。この太った男は学校の中をひとりで大汗をかきながら、ひたすら掃除している。しかし何故そのようなことをしているのかの説明は全く無い。他の生徒で同じように掃除に励んでいる者はひとりも登場しないので、全校生徒が取り組む掃除の時間ではないのだろう。主人公が学生であることを匂わす場面も無い。ということは清掃業者か?
 その出入業者らしき主人公は女学生であるヒロインに密かに好意を寄せているのだが、彼女には男前のボーイフレンドがいることが分かり、叶わぬ思いに身悶えして苦しむ。ところがこの男は彼女の靴紐がほどけていたことに気付き、それを直すために追いかけるのである。この時点でストーカー同然である。
 靴紐がほどけていたために転倒し、あわや交通事故の犠牲になりかけたヒロインは、間一髪助けられ、命の恩人が主人公であることを知り、ハッピーエンドを迎えるのである。靴紐がほどけていたら普通気が付くだろうとか、自分で直さないのかなどの疑問は置き去りにされ、主人公のストーカー行為は奇跡的なタイミングで功を奏し、肯定される。
 これを見てどう感動すればいいのでしょうか?
 あまりにも非現実的な展開は、ファンタジーだからという理由で片付けてしまうこともできる。ファンタジーそのものを否定する気は全く無い。でもファンタジーなら上手く騙してくれないと。これだけ短い作品の中で全てを説明するのは難しいだろうが、ストーリーに決着をつけるのならある程度納得の行く説明がなされていなければ、感情移入などできないのである。説明できないのなら、オチなど付けない方が潔い。
 このタムくん、本名ウィスット・ポンニミットというタイ出身の作家について、私はほぼ日で見るまで何も知らず、最初から感動を強要されるような形で接したので逆に身構えたということもあるかもしれない。最初から「これはこう見るもの、こう感じるものですよ」と言われる作品にろくなものはないと経験上知っているから。別にネガティブキャンペーンを張るつもりもないので、そんなに感動するものなら、その理由が分かるような批評も読んでみたいものだ。現段階ではただの印象論しか聞こえてこない。