We've got tapes, we've got cds, we've got Public Enemy



電気用品安全法問題その3
 またまた高橋健太郎氏のブログのエントリーから、民主党川内博史議員のブログでこんなやりとりが行なわれていることを知った。
◇◇電気用品安全法について

ネット上で話題になり、坂本龍一さん達が、レコード輸入権の時のように運動を始めていらっしゃる電気用品安全法に関して、担当の課長さんからレクチャーを受けました。
経過措置期間が3月31日までということで、問い合わせが相次いでいるそうです。
話をお聞きしてわかったことは、レコード輸入権の時のようなスジの悪い法律ではないということです。
すなわち、製品自身の安全性を確認すること自体は良いことであり、市場として成立している中古品の売買市場を阻害しないようにするには、どうすればいいのか、というところが論点になります。
(中略)
ちなみに商品(製品)販売後に事故があった場合、もともと製品に問題があったのか、中古品販売製造業者に問題あったのかは、民民の問題なので、争いがある場合は、最終的には司法判断ということになります。
従来よりも、手間がかかることだけは確かですが、一部で言われているように中古電気製品がなくなり、廃棄物の山になることはないのではないでしょうか?

 これが書かれたのが22日夜。この問題に多少なりとも知識を持っていれば、川内議員の言っていることが素直に納得できないものであることはお分かりだろう。それから丸1日程度の期間に寄せられたコメントの数々は、ほぼ全てが傾聴に値する重要な指摘を含むとともに、貴重な意見だ。高橋健太郎さんが「このコメントがいずれも、とても読み応えあり、僕も電気用品安全法の問題点について多くを知り、あらためて、問題点を整理することもできました。」と書かれていることには全く同感で、ぜひ熟読をお勧めする。
 特に衝撃を受けたのは23日17:18:08に書き込みされた自営業者の方のコメントで、事業資金の担保に入れていたコピー複合機が、融資先から「担保価値無し」と評価され返済を迫られている話には、他人事ながらゾッとした。電気用品安全法の本格施行が明らかになるとともに、同様の問題が全国各地で噴出することは間違いなく、経済面で与える影響の大きさを伺わせる。こうした影響は事業規模が小さいほど大きいことは想像に難くなく、昨今の景気回復基調の原動力のひとつである、中小企業の活性化が思わぬところから足を引っ張られる形になるのではないかと心配だ。
 川内議員の見解については既に多くのコメントで問題点が指摘されているので、改めて洗い出すことは控える。しかし「一部で言われているように中古電気製品がなくなり、廃棄物の山になることはないのではないでしょうか?」という意見については、個人的な体験としても現実には有り得ないこととして言っておきたい。
 今から12〜3年前、当時使っていたテレビが故障してしまい、ネットの無い時代のこと、情報源としてテレビは重要なメディアであり、困った私は近所の家電量販店に修理を依頼するため持ち込んだ。重たいテレビを抱えて店まで行き、店員に修理して欲しい旨伝えると「それうちで買ったもの?買った人以外の持ち込み修理はお断りしてるんですよね」とにべもなく拒否されてしまった。そのテレビは当時住んでいたところに引っ越す前に買ったもので、今さら買った店まで持って行くことはできず、かと言って徒歩圏内の電気店はその量販店しか無かったため、修理すればまだ使えたかもしれないテレビは廃棄する以外の選択が無くなってしまった。
 その量販店の対応には充分腹が立ったので、以後乾電池ひとつ買うものかと決意し、テレビの買い替えには2駅離れた別の家電店まで行ったし、数年前その量販店が民事再生法の適用を受けて倒産した時はざまあみろと思ったものだが、これは余談だ。
 何が言いたいかというと、販売店にとって修理なんて手間やコストがかかるだけで商売としての旨味はなく、はなから切捨てた方が得策なのだ。今回のPSE法の適用後は、業者が各地の経済産業局に、住所と氏名と事業所の所在地等を届け出、30万円ほどの検査機器を購入して、自主検査を行なった後にPSEマークを貼らねばならない。しかもPSEマークを貼ることで製造業者とみなされ、万一事故が起きた場合は補償責任を負うのである。これほど手間がかかり、かつリスクを負うことを、中古品販売業者と言えども実施するだろうか。実際中古販売業者としては大手のハードオフなどは、既にPSEマーク適用外の中古品の買取を中止している。
 川内議員のブログでは、数多くのコメントでの指摘を受け、23日付けのエントリーで「みなさんが心配に思っていることや、疑問に思っていることに正確にお答えし、是正すべき部分があれば是正していかなければならない、と思っています。」と書かれている。輸入権問題の時にユーザー側の声を正しく認識し、委員会で適切な質問を行なった川内議員だけに、真摯な対応をしてくださると信じている。
 電気用品安全法問題は今やトレンドとも言って良いほどに、ネット上では活発な論議の対象になっている(2/21付「かなしいうわさ」さんありがとうございます)。川内議員のブログへのコメントでも明らかなように、ネット上では問題の核心を突いた意見が出ているのだが、一般のマスコミはまだここまでは追いついていないようだ。23日付朝日新聞東京版朝刊の「声」欄で、このような投書が掲載されていて、私は朝日の見識を今さらながら疑いたくなった。
 世田谷区在住会社員中山一平さん50歳の投書より。タイトルは「味ある音色が法律で消える」

電気用品安全法の本格実施に伴い、2000年以前に作られた音響機器、電子楽器が4月から販売できなくなる。私は趣味でバンドをやっていてオーディオ歴も古いが、趣のある機器が店頭に並ばなくなると、とても困る。
例えば真空管アンプや、独自の音色を出す電子ピアノのフェンダーローズなどがそうだ。新記述基準に適合するよう改造すれば販売は可能だが、誰がそのような手間ひまをかけて売ってくれるのだろうか。
リサイクルが叫ばれている時代に、なぜこのような法律が施行されるのか。冷蔵庫や洗濯機と音響機器や電子楽器を、「電気用品」として十把一絡げにする無神経さ。また、安全の名の下に正当化するのなら、既に使われている機器はどうするのか。何も考えていない役人が作った法なのだろう。
楽家坂本龍一氏らがこの法に反対する署名運動を実施しているが、音楽関係者からの声はなぜか意外と小さい。日本は諸外国と比べて音に鈍感な国だといわれている。その意味では、これは日本らしい法律だといえるのかも知れない。

 最後の皮肉めいた件だけは同意できないものの、この方が書かれていることは基本的に何も間違っていない。しかしこうした投書を掲載することで、電気用品安全法の施行はごく少数の音楽愛好家が困るものという認識で、問題を矮小化してしまう。味のある音色が消えるなんてことは問題のごく一部であり、本質的にはもっと大きな問題を孕んでいることに気付かせるのがマスコミの使命だと思うのだが。