I'm a Midnight Mover

k_turner2006-01-21



ウィルソン・ピケット死去(ネタ元:『脳外海馬 middleage kicks』)
 ロックンロールも半世紀以上の歴史を重ねたので、50〜70年代に活躍していたアーティストの中には鬼籍に入られる人も珍しくなくなってきた。数々のレジェンドやジャイアントの訃報にも慣れっこになってしまった嫌いがあるが、これには久しぶりに大きなショックを受けた。
 60年代のアトランティック・レーベル黄金期を支えたソウル・シンガーであることは言わずもがな。ロックファンの多くがそうだと思うが、私もストーンズなどを通じて知った口で、世代的にも初めてウィルソン・ピケットを聴いた頃、既に彼は歴史上の人物だった。それでも時代や生活環境に関係なく、彼の歌声は私のソウルを震わせたし、数多いソウル・シンガーの中でも一目置く存在であったことは事実だ。
 私の得意分野の話で申し訳ない。1983年にジョン・ハイアット、ニック・ロウ、ポール・キャラックの3名がジョイント(後にカウボーイ・アウトフィットと名乗るニック・ロウのバンドにジョン・ハイアットが加わった形)でツアーを行なっていて、旧西ドイツで放送されていたテレビ番組「ROCKPALAST」が収録したライヴ映像が残っているのだが、このアンコールでウィルソン・ピケットの代表曲「634-5789」を3人が代わる代わる歌っている。これが実に良いのだ。ジョンはアメリカ人、ニックとポールはイギリス人という違いはあるものの、歳は近く、それぞれが少年時代にこの曲を耳にしていたのだろう。いつでも取り出せるところに置いてある愛読書でも開くように、さり気なく、それでいてリスペクトを感じさせる演奏で、感動的だ。ウィルソン・ピケットぐらい嗜みとしていつでも演奏できるぜと言っているようだった。彼らの場合特にソウル、R&Bから大きな影響を受けたミュージシャンであることも関係あるだろうが、直接的にしろ、間接的にしろ、ウィルソン・ピケットから受けた影響が血肉化されていなければ、ロックミュージシャンとしての資質を疑われても仕方あるまい。
 2006年の現代に日常的にウィルソン・ピケットを聴いているなんて人は、一部のマニアを除けば稀だろうが、ロックンロールが好きだと公言するならば、ベスト盤の1枚ぐらいは常備しておいた方がよかろう。彼の遺産は末永く聴き継がれるべきものだ。

 上は今私の手元にあった唯一のピケットの7インチ盤。1968年に全米50位、R&Bチャートでは18位まで上がったヒットシングル。見難いと思うが作者はボビー・ウーマックキング・カーティス、プロデュースはトム・ダウドとトミー・コグビルと、目も眩むような豪華な布陣。今からこれを聴いてピケットを偲ぶ。R.I.P.