満足できるでしょう

頑張れよなんて言うんじゃないよ



 今日はこれからオールナイトでエンケン映画特集に行って来ます。

  • 追記

 行ってきました。オールナイトのエンケン映画特集の前に、まず通常レイトショウの「不滅の男 エンケン日本武道館」を見る。この映画について全く知識が無いという方はまずコチラで予告編を見てね。
 私にとって遠藤賢司と言えば必ず思い出されるのは、一昨年のフジロックのパンフレットに寄せた自筆コメントに、「イギー・ポップに俺は勝つ!!」と書いていたことだ。実際のライヴは爆音でフィードバック・ノイズを撒き散らし、絶叫と咆哮に終始する、いやはや圧巻のステージであった。「言音一致の純音楽家」と自称する通り、イギー・ポップに全く引けを取らないテンションであったことは間違いない。エンケンのライヴを見たのはあの時が初めてだった。
 この映画でエンケンが対決を挑んだのは武道館である。いちいち好戦的な人だ。冒頭、史上最長寿のロックンローラーの出で立ちで自転車に跨り、全速力で武道館入口に乗りつける。自転車から降りると肩から下げていたグレッチを一発ぶっ叩き、轟音のノイズが響き渡る。これがもう五月蝿いの五月蝿くないのって。唸るノイズを響かせながらアリーナを歩き、ステージに上がって「不滅の男」の演奏が始まるのだが、これだけで圧巻。所謂ラウド・ロックなどエンケンの前では鼻くそ同然である。
 出自はフォークの人であるから、アコースティック・ギターを繊細に鳴らす曲もあるにはあるが、グレッチに爆音を上げさせる曲との落差は感じられない。トーキング・スタイルの曲が多く、それらは一般的な曲のフォーマットに収まっていないため、洗練さというものが見当たらないのだ。曲という曲が過剰であり、それ故緊張感が漲っている。癒しだの安らぎだのと最も遠い世界を奏でているのである。
 「年を取ったとか そういうことじゃないんだ」とエンケンは歌う。しかし御年58の人間にこうまでされては、ずっと後を追う世代としては、もう少し枯れてもらえないものかと願わずにはいられない。こういう人が前にいるのかと思うと、力づけられるというよりはゲンナリしてしまう。いや、褒めているんですけど。
 映画は全編に亘り、ただエンケンの演奏を追い続ける。一瞬たりとも間延びすることのない映像は、武道館との対決に勝利を収めたエンケンが、再び自転車に跨って去って行くところで終わる。エンドロールの最後まで固唾を呑んで見守っていた観客は、場内が明るくなると同時に拍手喝采。映画を見た人なら共感してもらえると思うが、これが自然な反応だ。映画館で拍手したなんて小学生の時以来かも。
 上気したまま一旦映画館を後に。オールナイトは午前0時からで、小一時間ほど空いていたので歌舞伎町のHUBで一杯引っ掛けてから映画館に戻った。
 オールナイトはエンケン関連の映画2本(「ヘリウッド」、「アイデン&ティティ」)の上映と、トークイベントがセットになったもので、まずは座談会から。出演は大友良英田口トモロヲみうらじゅん、そしてエンケンと豪華ラインナップ。レイトショウの時は40〜50人ほどの入りだったが、こちらは250ほどの座席がびっしり埋まり、立ち見まで出る盛況ぶり。
 司会者から「エンケン日本武道館」の感想を求められ、ゲストの各々がいかに圧倒されたかを語るところから始まり、「アイデン&ティティ」で音楽を担当した大友良英と監督を務めた田口トモロヲが、劇中でロックの神様(ディラン)が吹くハーモニカの吹き替えをエンケンに依頼するため自宅へ伺った話など、多少話はあちこちへ飛びながら40分ほどの座談会だった。それぞれがエンケンの大ファンであるのは当然のこととして、今や各界で名だたる存在である彼らも、エンケンを前にすると恐縮し通しだったのが面白かった。
 印象に残ったエピソードその1。あのハーモニカはエンケンしかない、エンケンさんに頼みましょうと大友良英が言い出したので、田口トモロヲは大友がてっきりエンケンと懇意にしているとばかり思っていたが、エンケンの自宅へ依頼に行ったところ、先に来ていた大友はエンケンの前で正座させられていた。
その2。田口が映画の中でのロックの神様の役どころを説明し、「ディランが吹いているようにやってもらえませんか」と頼むと、エンケンは「俺はディランじゃないから」と言い出し、田口は断られると思い冷や冷やした。
その3。結局引き受けてくれたエンケンだったが、スケジュールの都合で全ての吹き替えを1日で録らねばならず、最後は口から血を出しながらハーモニカを吹いた。
その4。ピラミッドカレー(かつてエンケンが経営していた渋谷の喫茶店で出していたメニュー。ご飯がピラミッド型に盛られていた)のライスの型を無くしたエンケンは、みうらじゅんが自宅に来た時に盗んでいったのだと思い、みうらに電話で問いただした。実際はエンケンがみうらにあげたらしい。
その5。みうらじゅん中津川フォークジャンボリーの跡地へ行った折、敬意を表してステージのあった場所で「カレーライス」を弾き語った。
 この面子での座談会が終わった後、休憩を挟んで今度は「ヘリウッド」の監督である長嶺高文エンケンがステージに上がった。「ヘリウッド」は82年に制作されたエンケンの主演映画で、『東京ワッショイ』に感銘を受けた長嶺が、エンケンにぜひと持ちかけて作られたものだとか。原宿に設営されたテント劇場で短期間上映されただけで、闇に葬られた幻の映画で、私は見たことがないどころか、映画の存在自体を知らなかった。後にビデオ化され、カルトムーヴィーのファンの間ではそれなりに知られた作品になったようだが、この日の会場では、上映時に見たという人は3〜4人しかいなかった。
 簡単に映画についての経緯などの説明があった後、いよいよ「ヘリウッド」が上映された。これが何ともカルトムーヴィーらしいカルトムーヴィーで、一応ストーリーもあるものの、ほとんど意味を成さないし、文章で説明したところで全く伝わらないだろう。若き日の斉藤とも子や佐藤B作、ゲージツ家の熊さんなどが出演しており、キャストは意外に豪華。しかし夜中に真剣に見るような映画ではないというのが私の感想。
 上映後、再び長嶺高文エンケンがステージに上がり、司会者を交えての撮影裏話や観客からの質疑応答など。
 印象に残った話では、エンケンの役は当初松田優作をキャスティングする話もあったが、長嶺監督は「松田優作はブルースの感じは出せるけれど、ロックンローラーであるこの役はエンケンしかできない」と拒否したそう。確かにあのクレイジーでマッドな宇宙人を松田優作がやっていたら、また別の意味でカルトだったろう。
 また観客から「この映画のテーマやメッセージは何ですか」と質問されて、長嶺監督は「テーマは自由。既成の映画が持っているルールを全部ぶち壊したかった」と答え、エンケンも「映画も音楽も同じだけれど、これはこういう内容ですよと説明しているものは最低だと思う。お金を払って来ているお客さんはそれぞれ自分の生活があって、中には大変な思いをしている人だっているのだから、こういう風に見てください、聴いてくださいなんて言う権利はこちらにはない。見た人が自由に解釈して、感じたことで、またがんばろうとか思ってくれればそれが一番」と語った。長嶺監督は嬉しそうに「エンケンさん、熱いでしょ?だから俺と気が合うんだよ」と。
 そして最後は「アイデン&ティティ」の上映。この映画は見た人も多いと思うので、あまり語る必要は無いかと。恥ずかしながら私は見たことがなかったのだが。原作は何十回と読み返したほどなので、公開時には見に行こうと思いつつ、ついつい見逃していたのだ。そういう映画は山ほどある。
 原作を暗記するほど読んだ者としても、この映画は期待を裏切られることなく、面白いものだった。銀杏BOYZの峯田の演技にすっかり感心。私は途中から最後までほぼ泣き通しであった。みっともないな〜、いいトシしたおっさんが夜中にボロボロ泣いてるのはと思いながらも、涙が止まらないのは何故?若きバンドマンを主人公にした映画では「バンドワゴン」も好きだが、これほどせつない感情を覚えることはなかった。やはり私が日本人だからだろうか。
 演技ではなく、音楽を体の中にリズムとして持ち合わせているところがリアリティに結びついたのかもしれない。それは監督の田口トモロヲもしかりだ。役者としては達者ながら、中村獅童は「ちょっと…」と思ったのは同様の理由によるものだろう。
 映画館を出たのは既に始発が動き始めた時間。エンケンのパワーに打たれ、熱く、濃い一夜であった。コメント欄にも書いたが、帰宅してからも眠れなくて参った。ようやく眠気が訪れたのは、30日の午前11時頃。前日から26時間ほど起きっ放しだったことになる。仕事ではこんなに長く起きてられないのに。

  • 追記2

 映画「不滅の男 エンケン日本武道館」のサントラ盤は既に発売中。映画を制作したアルタミラからの発売なので、入手はやや困難かも。新宿のタワーレコードにはありました。
 映画には未収録の「俺は勝つ」を含めて、映画のために収録した音源で構成。音だけでもこの映画の異様なテンションは充分伝わるのでお勧めである。ただし映画の中で唯一ピアノの弾き語りだった「死んじゃったお母さんの夢」と、アンプをぶっ飛ばす気か?と思った爆音の「ド・素人はスッコンデロォ!」が未収録なのは残念。やっぱり映画も見ないと。

  • 追記3

 映画「ヘリウッド」にアップル君役で出演していたのは小暮隆生という人だそう。このページによるとこの小暮隆生なる人物は「後のデーモン小暮」とあるが、これは事実とは異なるようだ。
 この日の長嶺監督とエンケントークショウの中で、エンケンが「彼は今東映(だったか大映だったか)に入社して、宣伝を担当している」と言っていた。「ヘリウッド」の撮影時は役者の卵でも何でもなく、渋谷を歩いていた時に制作スタッフに「遠藤賢司って知ってる?」と声をかけられ、ファンだと答えたことから抜擢されたそう。
 映画でのアップル君の役柄はゲイの美少年で、全裸になって浣腸されたり、ウンコを食べさせられたりしている。「エンケンのファン」と口にしたばかりにとんだ羽目になった人である。