Some people like rock?

k_turner2005-08-05



 職探しは相変わらず難航中。しかし諸条件と労働に対するモチベーションに関して何とか折り合いが付けられそうな仕事をひとつ発見。ネット上から応募して、その1時間後に担当者から電話有り。来週月曜に面接を受けることになった。先にこんなことを書いてしまって、不採用だったら目も当てられないな。まあ、いいや。
 明日明後日はどの会社も採用部門が休みになるので、あがいたところで仕方がない。とりあえずは月曜の面接に賭けることにして、夜は吉祥寺へ出掛ける。バウスシアターのレイトショウでT.REXの『ボーン・トゥ・ブギー』を上映しているのだ。
 言うまでもなくT.REXの唯一の公式映画で、まっとうなライヴ映像が見られる作品として貴重。先ごろDVDが発売されたがビンボーな私に買えるはずもなく、この劇場公開は楽しみにしていた。むかーしブートのビデオで見たことがあるものの、画質はひどかったので初めて見るに等しい。
 動員は60〜70人ぐらいかな。金曜とはいえ結構な人が見に来るのだなと感心。40代後半のリアルタイマーと思われるおっさんから、20代前半の兄ちゃんまで客層はヴァラエティに富んでいた。女性の姿も多い。伝説は色褪せていないのである。
 まず「20th Century Boy」をバックに72年来日時に鋤田正義らによって撮影された写真をスライド風に上映。これが見たことのない写真ばかりで、「20th Century Boy」をレコーディングした時のスタジオでの作業風景や、武道館と思われる楽屋でのショットなど、当時の空気感が伝わるような素晴らしい写真であった。絵こそ動かないもののドキュメンタリーとして成立していた。
 続いて本編。昔見たブートビデオはノイズだらけで、画像はところどころ波打っていたし、色もほとんど飛んでいたが、さすがに正規にリリースされたものは綺麗だ。ロック系の映画をしばしば上映しているこの劇場の売りは「爆音上映」であって、ライヴハウスと同等の機材をセッティングして大音量が鳴り響く。普通の映画なら隣の客が喋ってる声や飲み物の容器を落とす音などが気になって仕方がないところだが、さすがにそうした音は全く聴こえない。お陰で冒頭のボランがレスポールをノイジーに掻き鳴らすシーンからノックアウトされる。カックイイー。カート・コバーンの20年先を行っていたことがよく分かる。この音量で聴けただけでも劇場に来たかいがあったというものだ。
 内容は知っている人も多いだろうが、ストーリーは無く、大きく分けるとウェンブリー公演で収録されたライヴ映像、アップルスタジオで行われたリンゴ・スターエルトン・ジョンを交えてのセッション、ジョン・レノン邸の庭で行われた弦楽四重奏とのセッション。そして間に寓話的なシークエンスが挟まれるというものだ。半分近くを占めるのがウェンブリーのライヴシーンで、72年3月18日の収録というからまさにヒット曲を連発して、ポップスターとして頂点を極めていた頃の映像。ご存知の通りマーク・ボラン及びT.REXの演奏ははっきり言えば下手なのだが、演奏の未熟さなど全く問題にしない勢いというものが感じられる。客席を埋める15〜6歳の少女達の興奮ぶりや凄まじく、ロックンロールスターの典型が克明に記録されている。リンゴ・スターが監督を務めたのは、かつての自分達に起こった現象と同じものをT.REXに見出していたからではないかな。実は私は音楽的には好きでも、いかにもお子様向けアイドル風ルックスであるマーク・ボランをヴィジュアル的にカッコイイと思ったことはなかったのだが、スター然としたオーラを発しながらシャウトする姿を見て考えを改めた。と同時にやはりこの人はデヴィッド・ボウイと並んで元祖ヴィジュアル系なのだな、と。客席にはボランのコスプレで来ている女の子までいるのだ。こういう文化はここから始まっていたわけだ。
 アップルスタジオでのセッションにおける(今より禿げてる)エルトン・ジョンのブギピアノの見事さとか、ジョン・レノン邸セッションでの弦楽四重奏のアレンジ(多分トニー・ヴィスコンティによるもの)の楽しさとか、1時間強の短い作品ながら見所はたくさん。そのジョン・レノン邸のシーンはガーデン・パーティーという設定で、振舞われるハンバーガーをゲストの修道女達がむさぼり喰う場面があるのだが、これが妙に美味そうなのだ。アメリカではナイフとフォークを使ったりするようだが、ハンバーガーって手で掴んでかぶりつく野蛮な食べ物だから美味いのだと思う。野蛮とは対極に位置すべき修道女がハンバーガーなどという下品な食べ物にかぶりついているというのが単純で良い。いかにもリンゴ・スターが考えそうな演出。実際私は映画館を出たらモスバーガーへ直行してしまった程なのだから、日本ハンバーガー協会(そんな組織があるのかは知らないが)は推奨映画に指定しても良いと思う。