Glenn Tilbrook@吉祥寺スターパインズカフェ

k_turner2005-08-07



 昨年に引き続きソロでの来日公演が実現。去年は東京と大阪を1回ずつしかやらなかったが、今年はその他の地方も巡演し、東京だけで3回も行われる。今日が東京2日目。しかも今日はドキュメンタリー映画「One For The Road」の上映も行われるということで、午後4時前に会場入り。
 映画上映の10分ぐらい前に入ったら、既に満席。皆さん熱心なのね。2階の正面テーブルに着席していたTotちゃんを見つけ、雑談しているうちに上映時間となる。私は少し後ろのバーカウンター前にあった椅子に座る。そこしか空いてなかったから座ったのだが、客電が落ちるとほぼ同時にグレンがふらっと現れ私の隣に座ったのには少しびびった。
 そのままグレンの隣で映画鑑賞。スクイーズ解散後のグレンはギターの弾き語りで何度かツアーを行っており、最初のソロアルバムを出した後にRV車に乗って敢行したアメリカツアーを記録した映画だ。かつてマジソン・スクエア・ガーデンを2晩もソールド・アウトにしたバンドの中心メンバーであったグレンが、ギター2本を携えただけでRV車を自ら運転しアメリカ各地を回る様は見方によってはみすぼらしく映るかもしれない。しかしそこにはかつてのキャリアとは関係なく、自らの変化を受け入れ、表現欲求に忠実に活動を続けるミュージシャンの溌剌とした姿があるのだった。数十人からせいぜい100人程度の観客とのコミュニケーションを大切にしながら彼らを楽しませ、自らも楽しんで演奏をしている。レコード業界的には過去の人かもしれないが、それがどうしたと言わんばかりにミュージシャン、グレン・ティルブルックはロードを続けるのである。変なプライドがあればこうはいかないだろう。月並みな言い方だが、音楽こそがこの人の原動力なのだ。
 行く先々でのエピソードは豊富だし、スクリーンに映し出される観客の誰もが幸せそうにグレンの歌声に酔っているので、見ていて実に楽しい。日本語字幕は無いものの、入場時に大まかな解説が載ったパンフレットが配られており、グレンの台詞には英語字幕が入っていたので内容はほぼ理解できた。ついでに言えば隣にいるグレンが自分の発言に受けたりしてるので、つられてこっちも笑ってしまったり。
 70分ほどの映画の後は、五十嵐正先生が進行役となって観客からグレンへの公開インタビュー。年末か来年初頭から4枚連続でスクイーズのレア音源アルバムがリリースされることが明かされたり、その後にはニューアルバムの予定が控えていることまで言及。
 第1部はそこで終了。一旦会場の外へ出て、6時から第2部のライヴのために再入場。今度は1階の座席を確保して、7時の開演を待ったわけだが、1時間近くただ待つとなると飲むしかないわな。この店は店員が客席を回って注文を取りに来てくれるので、ついつい「すいませーん、これもう1本」と頼んでしまうのだ。フィッシュ&チップスを肴に開演までにハイネケン2本とギネス1本を空けてすっかりいい気分。多分同様の客が多かったと思われ、会場のノリも最初から最高潮。ただし会場の反応が良かったのはアルコールのせいばかりではない。第1部ではヘラヘラとしたおっさん風情だったグレンが顔つきも凛々しく、力いっぱいシャウトしたのだから。
 去年の弾き語りライヴもあれはあれで素晴らしい体験であったが、ライヴの出来としては今回それを上回っていた。まるでロンドンのパブで見てるかのようなアットホームな雰囲気を醸しつつ、演奏そのものは決してラフではなくしっかりと聴かせるグレンに脱帽。声はよく出ていたし、あの超絶ギターも健在。パーカッシヴにカッティングするので、すぐにチューニングが狂ってしまい、ほぼ1曲終わる毎にチューニング。それもメーターなど使わず、場合によっては演奏しながらちょいちょいっと合わせてしまうのはさすが弾き語り経験の豊かさを感じさせた。
 ライヴは2部構成で、最初は12弦のアコギを使い、ソロの曲を多めに。もちろんスクイーズ時代の曲も演奏するが、比較的渋めのナンバーが中心で「Love's Crashing Waves」が聴けたのは嬉しかった。実はこれ会場へ向かう道すがら聴いていた『Piccadelilly Collection』で久々に耳にして感動を新たにしていたばかりだったので、リクエストしようと企んでいたのだ。前述の通り観客のノリはよろしく、映画で見たアメリカの観客に負けない盛り上がりを見せた。
 20分ほどの休憩を挟み、後半はグレンが2階から「Goodbye Girl」を歌いながら登場。今度はずっと6弦を使用し、セットリストは往年のヒット曲が中心。今更ながら本当に名曲が多いのだ。「Black Coffee In Bed」のコーラスや、「Hourglass」の手拍子など既にお馴染みであって、一応グレンの呼びかけはあるものの要求されるまでもなく観客は自主的に参加。この辺も去年はグレンに促されてやっとという感じだったので、観客も楽しみ方を学習したと言える。
 前半が約1時間、後半は1時間10分ぐらいかな。アンコールは伝家の宝刀「Pulling Mussels」で締め。しかしその後もしばらく再アンコールを求める拍手は鳴り止まず。個人的には「Pulling〜」が聴けた時点でお腹いっぱい。数多いヒット曲も大半が聴けたのでこれ以上望むのは酷と言うものだろう。カヴァー曲もいくつかあり、モンキーズの「Last Train To Clarksville」、ジミ・ヘンドリックスの「Voodoo Child」、ウィリー・ネルソン(というかプレスリー)の「Always On My Mind」などを聴かせてくれた。弾き語りでこれだけの長時間を全く飽きさせることなく務められるミュージシャンはそうはいないはずだ。次はいつになるか分からないが、また来日公演があれば足を運ぶことになると思う。

 終演後会場内でぐずぐずしていたらグレンが現れたのでサインしてもらいました。そんなこともあろうかと、ピクチャーディスクとペンを用意していた私である。分かりにくいとは思うが、グレンは音溝にかからないようにサインしてくれた。記念品としてターンテーブルにはもう乗せないけどね。