裏ジャケ。これも秀逸。



 以前「デイリーポータルZ」の特集で取り上げられた「最安値中古CDを探せ!」で一番最初に使われている写真の「CD1枚20円」看板のお店、あれは私の職場のすぐ近くにある。店の前を通るのも日常茶飯事であって、その度に多少気にはなっていたのだが、在庫は全てレンタル落ちの処分品と分かっていたこともあって、立ち寄ったことは無かった。ところがふと魔が差して、今日初めて店に足を踏み入れてしまった。
 「デイリーポータルZ」にもあった通り、店の入り口には大きなワゴンが出してあり、この中に1枚20円〜のCDが乱雑に放り込まれている。寄ったのは夕刻で帰宅途中の学生や会社員がそのワゴンを取り囲んでちょっとした人だかりになっていた。そこに割って入るだけのガッツは持ち合わせていなかったので、店の中へ進む。3坪ほどしか無い狭い店内には、人がやっとすれ違えるだけの通路を残して在庫がぎっしり。半分がCDで半分はVHSのビデオだ。やはりほとんどはレンタル落ち。
 今さらVHSのソフトはあまり買う気にはなれないので、とりあえずCDだけをチェック。どういう基準でそれが分けられているのかはよく分からなかったが、店内の在庫は店頭ワゴンよりは価格設定が高め。それでも380〜880円ぐらいが価格帯の中心だった。内容は10年以上前の帯がすっかり色あせたもの(プリンセス・プリンセスとかゴーバンズとか)から、ここ2〜3年以内に発売された比較的最近のタイトルもちらほら。オリジナル・ラヴなんて500円以下でほとんどのタイトルが揃っていて、思わずまとめ買いしてしまおうかと思った。CHARAなんかも90年代に出たタイトルは安い。一方これはもう100円でも買う人はいないんじゃ…と思われるTUBEとかT-BOLANとかも一人前に同じ什器に並んでいた。「デイリーポータルZ」にも書いてあったけど、いくらレンタル落ちで減価償却済みとはいえ、3,000円だったCDが数年後に10分の1、或いはそれ以下で売られてしまう現実にもののあわれを感じずにはいられない。レンタル店は在庫しておくより、投売りでさばいてしまう方が効率が良いとの判断でそうしているに過ぎないのだが、流行り廃りの世界の厳しさがダイレクトに見えてしまう。
 元はレンタル品なので、例の日本レコード協会の許諾シールが貼られているし、録音する時に便利なように収録時間が書かれたシールが貼られているものもある。ケースは擦り傷だらけだし、割れているものすら珍しくない。従ってコレクション対象としてはほとんど無価値のCDであり、これらを買った個人が後で中古屋へ買取りに出すこともほぼ不可能。ということは音さえ聴ければ良い人が、「新品で買うほどではないけどちょっと聴いてみたい」タイトルを探すには適当な店ということになる。まあ、1,000円で2〜3枚のCDが買えてしまうのだから、たとえハズレであっても痛手は少ない。
 しかしなあ、こういう店とか、ブックオフなどもそうなのだが、そういう中古ショップでCDを買い漁って音楽ファンでございますなんて顔をされると不愉快だなあ。スポーツ新聞の社会面を読んで社会情勢を知ってるつもりになっているみたいで。中古品自体は否定しないし、私もよく利用するけど、せめてユニオンとかレコファンぐらいの品揃えでないと聴きたい音楽は手に入らないし、気に入ったアーティストや作品ならなるべく新品で買うべきだとも思う。あと、洋楽に限って言えばレンタル落ちの中古ショップはお話にならないね。発売後1年を経過しないとレンタルに使えないようになってから、レンタル店が扱う洋楽CDはぐっとタイトルが減ってしまったし、実際今日行った店でも90年代以降のタイトルはほとんど置いてなかった。こうした状況が洋楽不況を加速させたのは間違いない。
 で、せっかく店に立ち寄ったのだから手ぶらで帰るのも何なので、CDを2枚購入。1枚はDOMINO 88の『Bravo! NOVA』(380円)、もう1枚はソウル・フラワー・モノノケ・サミットの『レヴェラーズ・チンドン』(未開封品で480円)。
 DOMINO 88は…、多分2度と聴かないと思う。確かに380円ではこの内容でも痛くも痒くもない(笑)。一方ソウル・フラワー・モノノケ・サミットの素晴らしさよ。これはきっとこれから何度も聴くだろう。レヴェラーズ・チンドン 阪神大震災を契機に活動を開始したソウル・フラワー・ユニオンの別ユニット「モノノケ・サミット」のアルバム第2弾で、書生節、労働歌、民謡、戦前の流行歌などをちんどんスタイルで演奏する。90年代後半にこうした音楽をこうしたスタイルで取り上げること自体が充分にパンクであり、と同時に彼らが伝統を重んじる音楽探求の徒であることも伝わる。またそれが彼らにとっての必然であったことは、中川敬の確信に満ちた力強い歌声が証明しているのである。演奏、アレンジも素晴らしく、1枚のアルバムを聴き終えるまでに何度も涙ぐむ瞬間があった。ブックレットには中川敬による全曲解説も載っていて、資料性が高い。
 こんな傑作をたったの480円で手に入れてしまったのは、申し訳ない気持ちでいっぱいである。ソウル・フラワーそのものも私にとっては久しぶりに聴くところであって、最近の彼らの動向はあまりチェックしていなかったことも反省。日本にはこんなに素晴らしいバンドがいたんだよなあ。忘れていた。早速アマゾンで持っていなかった最近のアルバム2枚を注文。これで許してもらおう。