恐らく日本盤オリジナルのジャケ



 昨日何気なく見ていたテレビから流れて来たCMに背筋の凍る思いをした。電車の中でつり革に掴まるサラリーマンに全然見えないけどサラリーマン風衣装のキンキキッズの片割れ(名前知りません)が、座席に座る誰かに対してという設定でやおら画面に向かって語りかける。
「辞めちゃえば?そんなに無理して頑張ることないって。もっと自分らしく生きたらいいじゃん。(ディティールは違うかも)」
 ゾーーーーーーーーーーーーー(゜д゜|||)。一体私が何をしたというのだ。何の罪もない(はずの)私が何故こんな不愉快なCMを見なければならない不幸に見舞われるのだ。
 座っている乗客は何者か知らないが、仕事に疲れた同僚か何かという設定だろう。その同僚に対して慰めの言葉をかける優しい男というのがキンキキッズの片割れに与えられた役割だと思われるが、こんなに残忍で暴力的な男はいないぞ。辞職を促したばかりに同僚が本当に辞めてしまったら、その後のことまでこいつは責任を負えるのか?再就職の口を捜して一緒に奔走してくれるとでも言うのだろうか?大体「自分らしく生きたらいい」という訳の分からない呪文は何だ。妬みや揚げ足取りが蔓延する会社組織の中で、退屈な仕事に嫌々取り組むことが「自分らしく」ないことだと誰が決めたのだ。その対価として給与を貰うことで納得していれば、それは自分で決めたことなのだから意志に背くことでは絶対にないし、百歩譲って納得できないまま勤めているのだとしても、それが即ち「自分らしく」ない理由にはならない。優柔不断なまま人生を全うする人などいくらでもいるではないか。幼女を誘拐強姦殺害した犯人でも「自分らしく生きた」結果として起こした事件だったら罪を問わないのか?
 混雑する電車の中でチョコレートを勧めてくるような変な人の言う事を真に受けるのも大人気ないが、こんな虫唾の走るCMだってゴールデンタイムに流れ、有名タレントを起用して作られているぐらいだから、グリコだか森永だか明治だか知らないが、相当の大企業の宣伝部門が何度も会議を繰り返して制作したのだろう。そういうところで「これで行きましょう!」と決定した連中のバカさ加減に呆れているのだ。癒しが求められる時代にはこういう(無自覚で無意味な)CMが受けるとでも思ったのだろうな。
 「本当の自分はここではないどこかにいるべき」などと幻想は抱かない方が身のためだ。今置かれている現実は間違いなく自分のいる場所であるとの大前提に立った上で、それを変えたいというのならそのための努力をするべきである。その行動を起こさないままに「自分のいるべき理想的な場所」になど辿り着くはずがない。ましてや通勤中にチョコレートを忍ばせている同僚ごときが他人のあるべき姿など教えてくれるはずがないのだ。