レーベル対P2P業界、舌戦の勝者はパンクロッカー
アメリカの大学で行われた音楽配信などをめぐる公開討論会でのFugaziのイアン・マッケイの発言がふるっている。全米レコード協会、ファイル交換サービス企業団体P2P United、Distributed Computing Industry Association(DCIA)、など業界団体の代表者が居並ぶ中で彼が語ったのは、

 「どれもこれも、音楽からかけ離れた議論ばかりだ。僕はここワシントンD.C.で育ったから、官僚主義がどれほど根深いものかはよく知っている。何かをしたいのなら、頼むんじゃなくて、やるしかない。いつだって答えはノーなのだから」とマッケイ氏は聴衆に語り掛けた。

 さらにマッケイ氏は、音楽の配布に関する歴史を簡単に振り返った。「音楽は言葉より古くから存在している。かつて人々は音楽の演奏を聞くために外に出かけていた。料金が支払われる場合もあれば、支払われない場合もあった。そして世紀の変わり目には、音楽を録音するという画期的な技術が発明された。そしてすぐに、こうした音楽の市場が生まれ、その後こうした市場で金もうけをするためのビジネスが確立した。人々から音楽を取り上げることはできない。音楽は空中に広まっているのだから」とマッケイ氏が話すと、聴衆からは多くの喝さいが沸き起こった。

この日記は日記という体裁を取りながら、ここ最近は輸入権創設に関する話題ばかり書いていて、それはもちろん私自身の中でプライオリティーの高い話題であるからそうしているに過ぎない。自分以外の誰かのために書いているつもりも無い。輸入権創設に関しては反対の立場であることには変わらないし、一連の消費者をバカにしたような業界の動きには本当にうんざりさせられている。しかし今回の法案がこのまま可決成立してしまって、来年からショップやAmazonなどで輸入盤が手軽に買えないようなことになっても、一体どの程度困るのかを考えると、そんなに困らない気もする。
手元には既に残りの人生を費やしても聴き返せないほどのレコード、CDが集まってしまっている。それらを聴き返すために割く時間が増えるのであれば、それはそれで楽しみだ。今後登場する新しい音楽に対する興味が無いわけではないが、どうしても聴きたくなったらファイル交換でも何でもやって聴こうとするだろう。実は先日BitTorrentというソフトを導入して、遅ればせながらファイル交換デビューを果たしてしまった。これが思っていた以上に簡単で、こんなに手軽に音源が集められるならCDを買わない人が増えるのも無理は無いなあと思っていたところだ。
ネット上のファイル交換で問題になるのは、著作権者にお金が入らないことだ。使用料を効率よく回収するための技術的なハードルが高いために、そのシステムが確立されないという面もあるだろう。しかしもっと障害になっているのは現在のレコード会社など業界組織が既得権益を守りたいがためにネット配信に消極的になっていることだ。お陰でCCCDとか輸入権創設とか、消費者利益を害する方向にばかり走る変な事態が起きている。
私は時々音楽ライターとして仕事をもらっている。書いた文章が雑誌などに載って、その報酬を得ることがある。それらを買って読んでくれる分には、こんなにありがたいことはない。立ち読みで済まされたりすると正直なところがっかりするが、それでも全く読まれないよりはましだ。尤もそれはライター業で生計を立てていないから言えることかもしれない。それが本業ならイアン・マッケイのような勇気ある発言ができるかどうかは自信がない。弘兼氏みたいに国会で権利を主張するかもしれない(笑)。ただ音楽ライターの報酬なんて実に安いもので、その理由は分かっているので不当にとまでは言わないけれど、本当に安いので、執筆のために必要な資料として書籍やレコードを買うと赤字になってしまうことも多い。それでもよほど忙しい時でない限り、来た依頼は基本的に引き受けているし、締め切りが重なると半徹夜状態でふらふらになりながら本業の会社へ出勤ということもしばしばだ。大した報酬にならないと分かっていながらそうするのは、新たな音楽と接する機会を見つけたり、意見を持ったりしてほしいと思っているからだ。職業としては割が合わないので、今後音楽ライターを本業とするつもりはないし、本業が音楽ライターである方々が私と同じ意見だとも思わないが、スタンスとしてイアン・マッケイにはささやかなシンパシーを覚える。
ネット上で配布されている各種ソフトには、ダウンロードするのは無料だけど気に入ったら寄付してくれという作者の断りが付いているものが多い。音楽もこれと同じにはできないのかね。現在のレコード会社の存続を願う人にはとんでもない話だろうが、それくらいの抜本的改革があってしかるべき時期に来ていると思う。従来のビジネススタイルに固執するからアホな立ち回りが増えるし、それを憂慮してこんなことを毎日書き続けなければならないのだ。本当に気に入ったものなら私はお金を払うし、実際BitTorrentの作者には寄付しておいた。