次の日記は例の参議院での文教科学委員会の質疑内容をちゃんとチェックしてから書こうと思っていたので、すっかり遅くなってしまった。というのも絶妙なタイミングで人質が解放されたものだから、そっちのチェックに追われてしまったじゃないか。本当に迷惑な奴らだ(笑)。文教科学委員会の内容を吟味できたのは16日夜、だから日付は16日でアップするが、実際に書いているのは17日午前だということは断っておく。

15日の参議院文教科学委員会の模様
Real PlayerかMedia Playerがあれば上のリンクから今も視聴できます。改正著作権法案に興味のある人なら見ておいたほうがよろしいかと。
当然のこと最も関心があったのは法案成立後、施行された場合に輸入権適用の範囲をどの程度まで想定しているのか、危惧されているように欧米からの輸入盤にもその権利を行使するつもりなのかといった点だ。参考人として出席した日本レコード協会会長の依田巽は邦楽アーティストCDのアジアからの還流を阻止する、その一点においてのみ法改正を望んでいることを再三再四強調しており、欧米その他のアーティストの海外発売盤に関してはその意向は無く、その点については協会内でも5大メジャー本社との間でも意識合わせが済んでいると説明した。これを真に受ければ多くの人が心配していた最悪の事態は回避されるのではと思える。しかし私にはこのおっさん、どうしても時代劇に出てくる悪徳商人にしか見えないせいか、思わず「そちもワルよのお」と言いたくなるものだった。
その根拠として私が気づいた点をいくつか挙げると、まず数字の上でのトリックを用いていることだ。依田の説明によると国内発売されているタイトルの内、41.5%は2,500円未満であり、平均では2,315円になるので、国内盤のCDが極めて高いという指摘は適切ではないとしていた。しかしこれはあくまで発売点数に占める割合であって、主に洋楽のリイシューものなど、廉価盤として発売されるCDも1、3,000円で発売されながらその何倍も売り上げる売れ筋CDも1とした場合の構成比だ。売り上げ枚数に占める割合を調べればこんな数字になるはずがない。それにその数字で示しても6割近くが2,500円以上で発売されている現状を、欧米と比較しても高いとは言えないのか?
次に改正法施行後、アジアでのマーケットが拡大した暁には消費者への利益還元を行うとしていた部分でも、具体例として挙げたのが収録曲を増やすことやDVDとの複合商品を増やすことなどで、国内盤の値下げは二の次三の次という意識があるようだ。消費者への利益還元として最も分かり易い値下げよりも、利益還元なのか販売戦略なのか判断がつかない方法を選ぶということだ。また発想自体「質より量」でアピールしようとしている点が気に入らない。
公明党の山本香苗議員からの、「最近CDの売り上げが低迷していることを受けてその打開策としてアジアの商圏に打って出るという方向にあるようだが、それ以外の策はあるのか」という内容の質問に対しては、依田は完全に質問内容をはぐらかし、還流防止がいかに重要かを重ねて述べただけだった。中国の経済水準を考えると、中国のマーケットでCDを発売するには日本の3分の1〜4分の1の値段を付けなければならず、それが日本に逆輸入されると国内市場に打撃を与えて著作権者に対する報酬が確保できなくなると。確かに構造はそうなのだろうが、そもそも何故日本の3分の1や4分の1の値段で発売できるのか。発売するからにはそれでも利益が出るようになっているのだろう。国内盤がボッタクリ商品であることを自ら認めたようなものだ。
本当に還流防止だけが目的ならば、このような法案を通そうとするのは不自然だ。アジア各国に対して許諾地域を限定したライセンスを供与して発売するのなら、それに違反した場合の罰則規定を強化すれば事足りるのではないか。「ジャケットにそのように明示したりステッカーを貼ったりしてもなかなか守られない」とその根拠をモラルの問題にすりかえているが、わざわざアジアからの還流防止以外にも適用可能な輸入権創設が何故必要なのか。目的は見え透いている。
同じ内容の商品であるにも関わらず、価格が2重に存在するから還流が起こるのである。日本の産業全般に当てはまる高コスト体質に責任を転嫁して、「何もかも安くしては生活が成り立たない」と言っていたが、少なくとも私の目には他の業種と比較してレコード会社が価格を下げる努力をしているとは映らない。CDが最も売れていた90年代初頭にも下がらなかったし、その後日本経済全体がデフレ状態に陥った時でさえ下がらなかった価格が今後下がるとは到底思えない。
輸入権の欧米盤への適用については「どうしてそのような質問が出るのか分からない」「これ以上説明の仕様がない」「私どもを信用して欲しい」とまで述べるに至ってはアホかという感じ。欧米盤へ適用しない根拠は協会内での合意に過ぎないし、5大メジャーとも確認したというが、法的拘束力は一切無いのである。辛うじてこの委員会で成果があったとすれば、施行後消費者利益を害するような運用があれば法律自体の改廃は躊躇しないと国会の場で明言したことだ。それにしても施行後1〜2年は経過した上で審議されることだろうから、その間に抜け道を作っておけばいい話なのだが。
参議院での参考人への質疑はこれで終わり、今後は20日文化庁担当者への質疑を行い、法案成否に向けての審議が始まるとのこと。今回の委員会で分かったのは、国民から寄せられたメールを各委員はある程度チェックしているようだということ。共産党の林紀子はそのコピーまで持参していたし、民主党鈴木寛もソースは明言はしなかったが、消費者がレコード協会に不信を感じていることを意識して質問に立っていた。その割にはいずれも手ぬるい内容で終わったのは残念だし、無所属の会の山本正和に至っては「充分に勉強させていただきました」と言って質問を放棄したのには呆れた。ただし委員会の各議員に国民からの意思表示をすることは決して無駄ではないと分かったのは収穫と言える。この問題のポータルサイトとなっているここに、20日に質問を行う議員が挙がっていたので参考までに。言いたいこと、聞いてもらいたいことは積極的にメールで送りましょう。

《問》 阿南一成自民党:橋本派/比例‥04改選) 午前10:00〜11:00
(持ち時間は200分だが、60分で切り上げ)
※メール有りません。FAXでどうぞ>(03)3593-6275
《問》 中島章夫民主党/比例‥04改選) 午前11:00〜12:00
akio_nakajima@sangiin.go.jp
《問》 【理事】鈴木寛民主党/東京都‥07改選) 午後1:00〜2:00
info@suzukan.net
《問》 【理事】山本香苗(公明党/比例‥07改選)午後2:00〜40
kokkai@yamamoto-kanae.com
《問》 【理事】林紀子(共産党/比例‥04改選)午後2:40〜3:20
info@hayashi-t.gr.jp
《問》 山本正和(無所属の会/比例‥04改選)午後3:20〜40
masakazu_yamamoto@sangiin.go.jp



◆質問に対するAmazon.co.jpからの回答
14日に書いた通り、アマゾンへ質問を送ったら即座に返事があった。返信のタイムスタンプは15日午後。その内容を転載。

Amazon.co.jpにご意見をお送りいただき、ありがとうございます。

当サイトでは、全てのお客様にご満足いただけるサービスをご提供できるよう、スタッフ一同努めております。ご連絡いただきました問題につきまして、対応などの詳細については社外秘のためご案内することができませんが、担当部署にて検討させていただいております。

このたびは、貴重なご意見をお聞かせいただき誠にありがとうございました。
Amazon.co.jpのまたのご利用をお待ちしております。

これもまた期待した内容ではなかった。確かに社外秘には違いないのだろう。しかしアマゾンにしても、現時点で少なくとも反対は表明していない。