夜のストレンジャーズ@新宿Red Cloth



 毎年クリスマスの時期に恒例となっている、夜ストの紅布ワンマン。これを見ないと年が越せないので、今年も出かける。恐らく私と同じように考えている夜ストのファンは沢山いるようで、紅布は夜ストのワンマン企画の中でもエキスパートと呼べる観客で埋まるから、格別の楽しさがある。
 ワンマンだからと言って、特別な趣向があるわけではない。いつもの3人がいつも通りステージに現れ、ただただ演奏するだけだ。その時間が他のイベントと比べて長いというだけ。しかしファンにとってはそれが何より楽しみ。滅多に聴けないあんな曲やこんな曲も聴けるのだから。
 期待でパンパンに膨れ上がった観客から大歓声を浴びながら、ライヴは「Down On The Road」でスタート。

さあ出かけようぜ / チェックインは済ませた / いかれた奴らに / きっと今夜も会えるはずだから
カーステの中身は / きっと昨夜のままだろう / 夜空に浮かんだ / あの夏のメロディ
フルボリュームで窓を開け放つ / Down On The Road

 全くもう、1曲目から泣かせるなよ。期待に応えるバンドに喝采を送り、踊り、歌い、フロアを揺らす観客達。それを受けて夜ストの面々もますます拍車がかかる。ミウラさんのギターはパキンパキンと鳴り、セーブすることを知らないシャウトが響く。ヨーホー、テッちゃんのリズム隊は黙々と、でも熱くしなったリズムを刻む。ステージ上とフロアの間で魂の交感とも言うべきミラクルな現象が起きるのである。
 演奏にグルーヴがあるのはいつものこと。この最高の演奏に加え、この日はセットリストが実に素晴らしかった。選曲したのは私か?と思うほど、聴きたかった曲のオンパレード。またその流れがドラマチックで、何度も涙腺がうるうると。
 オープニングから数曲続いたアッパーな曲が一段落すると、「Prince of Ghetto」「Fly Me To The(Liquor Store On The)Moon」「Last Mexican Rose」「夜汽車のシャララ」と比較的古い曲を固め打ち。これらはハードボイルドなストーリー性のある歌詞、ジャジーな曲調という特徴があるものばかりで、初期の夜ストを代表する曲でもある。「Prince of Ghetto」などは個人的に夜ストの最大のフェイバリットの1曲なので特に嬉しかった。
 またテーマや登場人物に類似点、共通項のある曲を続けて演奏する場面も何度かあった。特にグッと来たのが「道化の華」〜「連れていってよ」や「ファクトリーガール」〜「最終バス」の流れ。前者は弱い立場にいる者に向けたシンパシー、後者はブルーカラーの若者の希望を描いたファンタジーだ。会場に詰め掛けている呑んだくれのルーザーども(私を含む)が、こういう曲を聴いて泣かずにおれようか。
 このワンマンライヴに来ている観客はエキスパートだと最初に書いたが、それは選りすぐりのエリートファンという意味ではない。夜ストの音楽を切実に欲している人たちぐらいの意味で、ファンとして知識や経験の豊富さとは関係ない。「為にならないことばかり覚えて/金にならない仕事ばかり身に着けて」いるような労働者諸君であり、「狂った軌道を間違った順路で/旋回しては立ち止まる」不器用な人たちのことだ。
 かつてRCサクセションの『ラプソディ』や『プリーズ』を聴いていた勤労青年と同じ人種だ。アメリカ人だったらブルース・スプリングスティーンを聴いているような。こういう人たちはいつの世にも存在していて、現代の日本では夜ストがそのニーズを一手に引き受けている感がある。
 そんな夜ストのライヴがハレの場となるのは当然で、日ごろのうっぷんやしがらみを全部解消する勢いで羽目を外しての無礼講が繰り広げられる。どれだけ踊り、歌ったことか。ライヴが終わったら足腰がガタガタで、喉がガラガラになっていたことで我に返るまで、全身全霊を傾けてのライヴだった。あっという間に感じたけれども、気がつけば2時間強の長丁場。これだけ満喫できるライヴというのも他にちょっと無い。
 会場へ向かう電車の中で思いつき、紅布に入る前にドンキでクラッカーを調達。前日24日がミウラさんの43回目の誕生日だったので、会場でお祝いしようと思って。ライヴ本編が終わったところで周りの観客に協力をお願いし、アンコールのためにミウラさんが出てきたところで10本ほどのクラッカーが炸裂。ここで盛り上がる算段だったのだが、クラッカーの音より歓声が凄くて全然目立たなかったので目的は達せず。ショボーン━━(´・ω・`)━━
 ご協力いただいた皆さん、しょぼいクラッカーですみませんでした。でもご協力には大変感謝しています。よーし、来年は大歓声に負けない、もっと大きなクラッカーを盛大に鳴らすぞお。

 夜のストレンジャーズ 2010年12月25日 Red Clothワンマン セットリスト

1.Down On The Road
2.Boogaloo Joe
3.トラブルボーイズ
4.ジェリーリー
5.ブギ大臣 Part2
6.Prince of Ghetto
7.Fly Me To The(Liquor Store On The)Moon
8.Last Mexican Rose
9.夜汽車のシャララ
10.おまえを離さない ※
11.Real Low Down Dirty Dog Blues
12.ウィークエンド・シャッフル ※
13.テレサ ※
14.ソウル・バーニング・ラヴ ※
15.砂浜 ※
16.ホーボーズララバイ
17.ブラインドミウラ・イズ・バック
18.バスタブブルース
19.ブギウギ・カントリー・ボーイ ※
20.TWIST FOR DROP OUT
21.道化の華
22.連れていってよ
23.泥の川
24.ギブソン
25.I Woke Up Crying
26.この熱き愛
27.ファクトリーガール
28.最終バス
29.水晶の夜
30.プライベートな話をしよう
31.自由
32.Gimme Gimme
33.Rollin' Stone
34.サムクックで踊ろう
35.(I Set My) Soul On Fire
36.ソウルフリーター
37.ヤング&ヒッピー
   encore
38.Drunk Or Die
39.Big Fat Saturday Night
40.俺が便所に行ってる間に俺のビール飲んだのどいつだ


 ※は未レコーディングの新曲

 会場では「月刊夜のストレンジャーズ」なる冊子が配られた。メンバーのグラビア満載だったらどうしようと思ったが、中身はテキスト中心のオールカラー8ページ。ミウラさんと「酒場放浪記」で知られる吉田類さんの対談をメインに、ヨーホー、テッちゃんによるコラムやミウラさんの連載小説もある。
 ミウラ×吉田類の対談は両者の呑んだくれ節全開で、宇宙を相手に呑むとか、呑んでたら妖精を見たことがあるなどの、常人の理解を超えた最高の内容である。ヨーホーとテッちゃんのコラムも鉛筆を舐め舐め書いたような(←比喩です。実際はそんなことはないでしょうけど)文章で味わい深い。本当にこれから月刊で出る予定だそうで、ということは入手するために毎月ライヴに通わねばならない恐ろしい代物だ。

On The Road Again

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