Bob Dylan『THE ORIGINAL MONO RECORDINGS』インプレその6



 ディランのモノ/ステレオ比較検証シリーズもやっとここまで来た。今回は7作目の『Blonde On Blonde』。


『Blonde On Blonde』
 ディラン初の2枚組アルバムで、フォーク・ロック期の最後の作品。評価、人気とも非常に高い作品で、「ディランの最高傑作」と呼ばれることも多い。

 モノ盤ジャケットとCDのレーベル面はご覧の通り。通常のCDは1枚に収められているが、このモノ盤はアナログ盤同様、2枚のCDに分けられている。

 比較に使用したステレオ盤は、03年リマスターの日本盤紙ジャケ。写真の色合いはモノ盤の方が鮮やかで、並べてみると日本盤紙ジャケは「1年間日光に当てておきました」とでも言わんばかりの褪せた色。

 ゲートフォールドを開いたジャケット内側。上がモノ盤、下が日本盤紙ジャケ。右側部分の写真が異なる。
 発売時のデザインは日本盤紙ジャケの方で、モノ盤に使われているのは68年に改訂されたデザイン。改訂された理由は、オリジナル盤にフィーチャーされていたクラウディア・カルディナーレ(イタリアの女優。『81/2』などで有名。)からクレームが付いたため。カルディナーレはこのアルバムとは全く無関係ながら、ディランの判断で掲載されたらしい。カルディナーレの写真を撮ったのはジェリー・シェッツバーグ(カルディナーレの右隣下に写る人物。)で、シェッツバーグはこのアルバム・ジャケットの写真全体を担当している。シェッツバーグは写真家として活動する傍ら、映画も制作し、『スケアクロウ』の監督としても知られる。

 サウンドは前作『Highway 61 Revisited』の延長線上にあり、バンドの編成もほぼ変わっていない。しかしアルバム全体はやや物憂げで、イケイケだった『Highway 61 Revisited』と比較すると、倦怠ムードに包まれている。
 ディランは偏屈な哲学者か、達観した仙人のような佇まいで、とても24歳の若者とは思えない。冗談なのか本気なのか、厭世観たっぷりの詞を気だるそうに歌っている。過大で、時に見当違いな周りの評価にすっかり辟易していたのかもしれない。
 バンドのアンサンブルやミックスは、そのディランのヴォーカルを際立たせるよう組み立てられている。前作ではピアノとオルガンがせめぎ合うような演奏が繰り広げられていたが、ここではピアノが前に出る時はオルガンが控えめ、オルガンが出る時はその逆となっている。その他の楽器についても同様で、バランスを重視してあくまでもバッキングに徹している印象。
 モノ盤で聴くと、この抑制具合がよく分かり、前作のような聴き苦しさは無い。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ、ヴォーカルありきのサウンドなので、特にAMラジオとの親和性は抜群だろうと思った。
 一方ステレオ盤は、やはりモノより音圧が高めで、パートによって配置が左右に分かれているため、当然のことながら立体感がある。ただし、これは好みの問題なのかもしれないが、ドラムが右チャンネルから聴こえるのは違和感が残った。ドラムは真ん中にある方が自然に感じる。
 「メンフィス・ブルース・アゲイン」での右から聴こえるオルガンと左から聴こえるギターのオブリガードの掛け合いなど、ステレオならではの楽しみ方もあることはあるが、アルバムのトータル性を重視すると、このアルバムはモノ盤の方が味わい深く感じられた。
 アルバムのトータル・タイムは、モノが73分16秒、ステレオが73分00秒と、前作ほどの開きは無かった。


ブロンド・オン・ブロンド

ブロンド・オン・ブロンド

 日本盤(プラケース版)は、10月31日現在14%引きで価格は輸入盤並み。
Bob Dylan: Original Mono Recordings

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 モノ・ボックスUS盤。毎度のことながら、Amazonは発売日を過ぎると価格が上がる。