Bob Dylan『THE ORIGINAL MONO RECORDINGS』インプレその4



『Bringing It All Back Home』
 いよいよフォーク・ロック時代へ突入。アナログ盤で言うところのA面(1〜7曲目)がバンド・スタイル、B面(8〜11曲目)が弾き語りによって録音されている。ただしB面曲でも「ミスター・タンブリン・マン」や「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」などはギターの伴奏付き。

 モノ盤ジャケットはこんな感じ。レーベル面はセカンドから使われているものと同じデザイン。

 比較に使用したステレオ盤は、03年リマスターの日本盤紙ジャケ。上部にステレオのロゴが入っているため、写真部分を下げて配置されている。デザインはモノ盤の方がスタイリッシュ。この時代はモノ盤を前提にしてデザインされていたことが分かる。
 ステレオ盤は例によって音圧が高め。リマスターの効果は絶大で、各パートの分離は良いが、時にハーモニカなどが音割れしそうなレベルで聴こえ、耳障りに感じることも。
 ヴォーカル、ドラム、ベース、リズム・ギター、ピアノはほぼ中央に、リード・ギターが左に配置されたミックス。曲によってはリズム・ギターやベースが右寄りに置かれているものもある。ただし不自然な印象は受けない。ビートルズを始め、同時代のイギリスのバンドのステレオ盤は妙なミックス(ヴォーカルだけ右チャンネルとか)が多いが、ディランの場合はそのようなことが無いのは何故だろう。
 続いてモノ盤で聴いてみる。1曲目の「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」を聴くと、恐らくディラン自身のアコースティック・ギターのカッティングに続いて、全パートが出揃う瞬間の迫力は、正にガツンと響く感じ。当時AMラジオでこれを聴いた人たちが受けた衝撃も相当なものだったのだろう。
 音圧はやはりリマスター・ステレオ盤と比較すると控えめ。しかし個人的にはこの位の音圧の方が聴きやすい。ステレオでは左側で主張していたリード・ギターが少し引っ込み、その分ベースがよく聴こえるようになったので、迫力が増した印象。
 またB面曲、特に「ミスター・タンブリン・マン」「イッツ・オールライト・マ」「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」あたりはヴォーカルやギターのリヴァーブが深く、ステレオとは印象が異なるのも発見だった。
 このアルバムあたりになると、ディランのギターはバンド編成でも弾き語りでも、ストロークでガシガシとラウドに弾いており、完全にロックンロールなのだ。そこへシュールで多弁な歌詞がマシンガンのように吐き出され、カオスが生まれる。フォークともロックとも違う新しいスタイルが生んだ衝撃は、今聴いても色褪せていない。久しぶりに聴いたけれども、歴史的な傑作とはこういう作品のことを言うのだなと思った。つい聴き入ってしまい、モノとステレオを比較する目的を見失いかけたこともしばしばだった。

Bringing It All Back Home (Reis)

Bringing It All Back Home (Reis)

 こちらはステレオの米盤CD。モノとかステレオとかはこの際置いておいて、死ぬまでに一度は聴いておきたいアルバム。