ツータン(マボロシハンターズ)44回目の誕生日おめでとうライブ@京都拾得

k_turner2010-04-12



 関西ライヴ鑑賞ツアーの第2夜は京都の老舗拾得。有名なハコなので楽しみにしていたのだが、会場までたどり着くのが一苦労だった。東京に住んでいると大抵のライヴハウスは最寄駅で降りて徒歩○分という感覚だが、その常識は通用しなかった。
 京都駅から路線バスで20分ほど揺られ、降りたバス停は随分寂しいところにあった。そこから地図を頼りに歩いていくと、どんどん住宅地へと入っていく。既に日は落ち、雨も降っていた。人通りは無いし、ポツンポツンと街灯が点いている程度で、民家以外何も無い夜道。本当にこの方向で大丈夫だろうかと不安がピークに達した頃、「拾得」の看板が見つかった。
 開演の19時を10分ぐらい過ぎていただろうか。既に演奏は始まっているようで、外まで音が漏れている。これで拾得のHPにはライヴ時間は21時までと明記されていた理由が分かった。21時以降は音が出せる環境でないのだ。
 重い扉を開けて、店内に入ってみてびっくり。外の閑散振りと打って変わって、平日だというのに超満員。しかも半分ぐらいの人たちがマボロシハンターズのTシャツを着ている!2年前に亡くなったマボロシハンターズのツータンのバースデイ・ライヴであることは承知していたが、これほど支持されていたとは失礼ながら知らなかった。

  • CRACKS & RABBITS



 遅刻してしまったので、途中からしか見られなかった。3ピースのギター・バンドで、オルタナ寄りの曲や、UKっぽいメロディーのギター・ポップもあったし、レゲエのリズムを導入した曲も。技術的にも上手いし、器用なバンドという印象。
 音楽性ではマボロシハンターズとの接点は薄いようだったが、精神的には間違いなくつながっている。最後に演奏した誕生日について歌った曲だけでも、マボハンをリスペクトしていることは伝わってきた。

  • MAMORU & The DAViES



 続いてDAViES。昨日のRock Riderがカヴァー中心だったのに対し、ここではオリジナル曲をメインに。1曲目の「今週週末来週世紀末」から合唱が起きたのは嬉しい驚き。マモさんの曲はかなり浸透しているようだ。マモさん自身、日本で一番好きなハコと公言しており、これほど歓待されれば演奏する側としてもやりやすいに違いない。


 昔の蔵を改装したような作りで、ライヴハウスとしてはスペースは広いし、天井も高い。観客は着席して飲食しながらライヴを見るスタイルで、さながら英国のパブを和風に置き換えたよう。おまけに客のノリも上々とあって、70年代のロンドンで繰り広げられたパブ・ロックの現場が現代の京都で再現されているような感覚になる。

 DAViESのお馴染みの曲に加え、新曲もいくつか。新しい曲もどんどん出来ているようで、さらにそのレコーディングも順次進めているらしい。ライヴだけでも年間100本以上やっているのに、全くよく働く人だ。


 この日はスペシャルなライヴということで、DAViESのレパートリー以外にマボロシハンターズの曲も演奏。「O.K.」と「かくかくしかじか」が続けて披露された時は涙を禁じえなかった。この日のためにバンドで練習して、歌詞も覚えてくるというだけでも大変なことだ。それなのにちゃんとMAMORU & The DAViESの曲になっていたのだから。トリビュートとはこういうことを言うのだ。マモさん良いとこあるなあ。


 アンコールではまたマボハンの「どうってことない」が飛び出した。マボハンのベーシストだったTanyも飛び入りして大いに盛り上がる。そして最後の最後に「Route 66」の演奏が始まるとさらなるサプライズ!何とマイク・スペンサーがステージに上がったのだ。
 マイク・スペンサーとはカウント・ビショップスの初代ヴォーカリストで、数年前までカンニバルズを率いていた。ジョニー・ロットン加入前のセックス・ピストルズに誘われたという伝説の持ち主でもある。言わば英国パブ・ロック界の重鎮のひとり。現在は日本人の奥さんと結婚している関係で、来日していたのだそう。カンニバルズの初来日公演はマボハンがサポートしたこともある。その縁での飛び入りとなったようだが、ちゃんとマボハンTシャツを着ているのが泣ける。日英パブ・ロッカーの夢の共演は、マボロシハンターズ、及びツータンが引き合わせてくれたのだ。

 大層盛り上がったライヴが21時に終わっても、さっさと帰る者はほとんどおらず、引き続き大宴会に突入。これもまたパブ・ロック的。会場には名著「パブ・ロック革命」(シンコーミュージック)を翻訳した中島英述さんや、関西でファンジン「パブっ子」を発行しているパブ子さんも。共に何年も前から存じ上げていた(中島さんは何度かメールのやりとりをしたことも)方にお目にかかれて良かった。
 ここには日本におけるパブ・ロック文化の伝道師が集結していたのだ。もしこの時に拾得にテポドンでも投下されたら、日本のパブ・ロック文化は消滅していただろう。そうならなくて何より。パブ・ロックはギミックに頼らない、最も純度の高いロックンロールであり、娯楽だ。こんなに楽しい文化を消滅させてたまるかよ。