踊ろうマチルダ



 四の五の言う前に、まずはご覧いただきたい。

 その名前だけは知っていたものの、音を聴いたことが無かった踊ろうマチルダを初めて耳にし、思わず前のめりになった。
 踊ろうマチルダとは、Nancy Whiskeyのヴォーカルだった釣部修宏のソロ・プロジェクトで、釣部以外のメンバーは流動的なようだ。ネーミングから予想されたトム・ウェイツの影響下にあることは明白。前身であるNancy Whiskeyから予想されるポーグスの影響もやっぱり明白。しかしトム・ウェイツもポーグスも大好きな私が聴いても不快な印象は全く無い。それはどうしようもなく強い影響を受けていることを隠そうとせず、かつエピゴーネンに止まろうとする開き直りも感じられないからだ。この営為、このせめぎ合いの中から個性は生まれる。完全なるオリジナルな音楽など存在しないのだから。
 上に貼った映像は「Last Rose of Summer」のカヴァー。元々はアイリッシュ・トラッドで、日本語詞が付けられたものが「庭の千草」のタイトルで知られる。踊ろうマチルダのヴァージョンは「庭の千草」とも異なる詞で歌われている。厭世観を伴った無垢さが現れた見事な解釈で、踊ろうマチルダとはどんなアーティストなのかを知るには打って付け。時にカヴァーはオリジナル曲よりその人の個性を映し出す。

 こちらはオリジナル曲の「マリッジイエロー」。どこまでもロマンチックな音楽家。今の世の中でシニカルでない姿勢を持っているというだけで貴重な存在だ。
 いろいろ御託を並べているけれど、初めて音を聴いたのは昨日のことだ。早速CDを注文して、今到着を待っているところ。早く聴かせてくれ。


踊ろうマチルダのオフィシャル・サイト
踊ろうマチルダのMySpace
【4/10追記】
 お詫びと訂正。最初に貼った動画を「Last Rose of Summer」のカヴァーと書いてしまいましたが、その後の調査で「夏の最後の赤い薔薇」という釣部修宏のオリジナル曲であることが判明しました。彼のデビュー作『平成トラッド』に収録されています。YouTubeでの「Last Rose Of Summer Cover」の表記を鵜呑みにしてしまったミスでした。お詫びの上、訂正させていただきます。
 ただこの「夏の最後の赤い薔薇」はメロディー・ラインが「Last Rose of Summer」と一部一致しており、さらに歌詞も似た部分があることから、「Last Rose of Summer」を下敷きにした曲であることは間違いないでしょう。それが踊ろうマチルダこと、釣部修宏の評価を下げる理由には当たらないことも付け加えておきます。何故なら「どうしようもなく強い影響を受けていることを隠そうとせず、かつエピゴーネンに止まろうとする開き直りも感じられないから」です。

 「Last Rose of Summer」は民謡であり、YouTubeで検索すると多数のヴァージョンが見つかります。上に貼ったのはMaureen Hegartyという人が歌ったもの。正調と言っていい仕上がりかと。踊ろうマチルダの「夏の最後の赤い薔薇」と聴き比べるとその違いの中に才能が潜んでいることが分かります。
【4/13追記】
おお、上のように書いたらYouTubeのタイトルが修正された!もしかして見てますか?>アップした方