ワタナベマモル/パイナップル独りウェイ@下北沢CCO



 ワタナベマモルさんが出演するというので、雨の中下北のBAR?CCOへ。CLUB251系列のお店のようで、店内はライヴハウスというよりはバーにライヴ・スペースが併設された格好。ただ気取ったところは全く無く、ステージ脇に出演者の控え席(公開楽屋?)があったり、テーブル席とカウンター席を合わせても、30人ほどで埋まってしまうこじんまりとした店であることもあって、アットホームな雰囲気。
 店は19時オープン。ライヴが20時スタート。ライヴ開始の15分ぐらい前に到着したら、ステージ脇でマモルさんとパイナップル独りウェイのシン君が打ち合わせというか、雑談中だった。この緩い雰囲気のまま、ライヴは20時ごろに適当にスタート。
 この日は弾き語りによる2人の組み合わせで3月から行われてきた「二人ぼっちのロックンロールツアー」の最終日。まずパイナップル独りウェイこと橋本シンイチからステージへ。

 歌うことに注がれるエネルギー量が半端ではなく、右脳だけで生きているのではないかと思わせる熱い熱い弾き語り。初めて見たのだが、目のやり場に困るほどの実直な歌に胸を打たれた。
 曲調はフォークやブルースが中心で、日本語詞。社会一般の目で見ればどうしようもない男による独白調のものが多く、世界観が何とも「分かる」のだ。洗練さは欠片ほども見当たらないので生々しく、自己憐憫に陥ってもいないからこちらの感情にグサグサと刺さってくる。

 大声でがなり、ギターは力いっぱいカッティング。座って歌っているのに1曲目から汗だくなのだ。後半はギターのチューニングもかなり怪しかったがお構いなしに続け、終わった時にはステージ上に汗染みまでできる始末だった。こういう人は信用できるなあ。ディランの曲を弾いているうちにできたという「ボブ・ディランのまね」という曲や、ロッカ・バラードの「休肝日」といった曲が印象深かった。
 続いてワタナベマモル。この人は基本的にバンドでやる方が向いていると思っているが、楽曲がしっかりしているので弾き語りでも聴き応えがある。無骨さが良い味となっているパイナップル独りウェイと比べると、音楽的なバック・グラウンドの豊富さやステージ・キャリアの長さなど、やはり一日の長がある。直球以外の球種も沢山知っているというか。

 思い出せる限りセットリストを羅列してみると、「ひとりで何ができるかな」「 死ぬ程に生きるよ」「オンボロ列車」「今週週末来週世紀末」「ヒコーキもしくは青春時代」「炎のパブロッカー」などなど順不同。知らない曲も何曲か。それに現在レコーディング中で、昨日音入れが終わったという次のアルバムに入る曲も。「炎のパブロッカー」も入るそうだが、これはライヴで何度も聴いたことがあるので曲名まで知っている。

 心情吐露的であったり、ストーリー・テリング的であったり、色んな手法を使った曲が書ける人は案外貴重だ。またどれも耳に残るので、普段の生活の中で鼻歌で歌っている時がある。これがこの人の強み。

 ヴォーカル・トラックの録音の最終段階だったという前日は8時間ほど歌いっ放しで、自分の歌の下手さにうんざりしたというようなことをMCで口にしていたが、この人はどうしてこう自分の評価に厳しいかね。ライヴをやるのも2週間ぶりぐらいなので、「ギターが下手だ」とも。私の審美眼が大したことないと言われればそんな気もしないでもないが、ヴォーカルにしろギターにしろ、ワタナベマモルは水準以上のものはあるはずだが。芸術家はそうあるべきなのかもしれないけど。

 ステージ運びも手馴れたもので、すっかりマモさんのペースに嵌められ、気がつけば1時間近くも続いていたステージが終了。満員の客からの喝采を受け、アンコールはパイナップル独りウェイとのデュオだった。
 パイナップル独りウェイがこのツアーのために作った曲と、もう1曲(タイトルは忘れたがマモさんの曲)。閉めは「8月4日B級劇場」で。これだけやってくれれば私はもちろん、観客全員が大満足。アットホームな会場の空気がより濃密になった。

 ラリナム・モンテプルチアーノというワインが安いのに大変美味しくて、グラスで3杯も飲んでしまい、楽しいライヴとの相乗効果ですっかり良い心持ちになった。ライヴ・チャージが1,000円というのも嬉しい。ドリンク、フードを合わせても4,000円ほどで納まってしまい、コスト・パフォーマンスの高いイベントが楽しめた。ステージは狭いし、ギターもヴォーカル・マイクも全部突っ込むアンプが1台だけなので、ロック・バンドのライヴは難しいだろうが、弾き語り系のパブ・ロックが見られる店があるのはありがたい。


 ところでワタナベマモルが主催し、昨年12月に新宿Club Doctorで行われた『日本のロックンロール』のDVDがいよいよ14日に発売される。マモさんに聞いたら、新宿のタワーレコードではかなり大々的に扱ってくれるようだ。またDOLLでもDr.Feelgoodの来日と絡めて特集記事が載ると言っていた。プレス枚数は多くないので、興味のある方はお早めに。私も制作に関わっているので手前味噌になってしまうが、パブ・ロックと言わずロックンロールが好きな全ての人に見ていただきたい傑作である。なおAmazonを見たら、発売前の予約は26%引きになっていた。新宿タワーのような良心的なショップが近くにない方はぜひどうぞ。