UA@渋谷AX



 9/2の日比谷野音以来の東京でのライヴで、全国各地を回ったツアーの楽日。平日ということもあって超満員とまではいかず、8割ぐらいの入りだった。
 バックのメンバーは野音の時と同じ。ただメンバーの配置が少し変わっており、外山明が向かって左端に移動。その他の面子が右へずれており、ホーンセクションがステージ正面に来る配置になっていた。数々の緑がレイアウトされたセットは同じ。
 幕開けは「雲がちぎれる時」だった。ホーンとギターのみによる簡素な伴奏を頼りに、水の中を泳ぐ魚のようにしなやかに、のびのびと歌うUA。染み渡るような高音が実に素晴らしく、今まで何度となく聴いたはずの曲なのにむしろ鮮度を増しているようにすら響いた。こういうことがあるからUAのライヴは何度でも足を運びたくなってしまう。喉の調子も良いようで、この時点でこのライヴが素晴らしいものになることを確信した。
 野音の時のようにトークのゲストが入ることはなく、極めてシンプルにステージは進行した。セットリストはこのツアーの典型的なもので、特別な曲は1曲も登場しなかった。このツアー、都内では複数回のライヴがあったのだから、最終日には少しぐらい変化球を混ぜたとしても意外ではないが、言い換えればこの選曲こそが完成形だとの判断があったのかもしれない。実際ツアー前の7月のリキッドルームと、9月の2回の野音の計3回を既に見ている私でも、退屈することなく充分に楽しむことができた。むしろあっという間に時間が過ぎる印象を受けたほどだ。
 完成度の高いライヴになった理由は、まずバンドの充実ぶりが挙げられる。内橋和久、鈴木正人外山明の3人はここ数年ずっとUAのバックを担当していることもあり、ツボを心得ている。内橋は時折大きな音でロックのフィールドに持ち込むフレーズを弾くし、外山は変拍子をバシバシ折りこんでくるし、奇を衒ったような演奏も少なくないのだが、バランスの取り方が絶妙であって、あくまでバッキングとして歌い手UAと渉りあっている。また今回フィーチャーされている3人のホーンセクションの多芸ぶりも目を見張る。演奏に繊細なニュアンスを加えていたのは、間違いなくホーンだ。ツボを心得ていると言えばこちらも良い仕事をしているのがコーラス嬢2名。メグは確か『turbo』のツアー以来の復帰ではないかな。UAとは相性が良いようだ。もう1人の太田美帆は声の魔術師である。「トュリ」でのソロ・パートなど、CDで聴けるヴァージョンとは違う魅力を曲に与えている。
 個性的かつ達者なメンバーに支えられたツアーの最終日ともなれば、UAが張り切るのも当然だが、野音の時のような趣向が無かったせいか、肩に力が入り過ぎることもなく、リラックスした様子が伝わってきた。ジャム・セッション風になる「情熱」のイントロ部分や、その他何箇所かでいつもより多めにスキャットを混ぜていたことがその証拠だ。表情も穏やかで、笑顔がこぼれる場面も多く見られた。吾妻ひでおの「失踪日記」に「好きなことをやっていない奴の顔は歪んでいる」という山下洋輔の台詞が引用されていたが、UAの表情を見ていると好きなことができているのだなあと思う。美醜の問題とは別の次元で良い顔をしているのだ。別にUAがブサイクだと言っているのではないので、念のため。
 不満らしい不満は見当たらない素晴らしいライヴだった。強いて言えば「Love scene」が聴けなかったことが残念だったぐらいか。後は鈴木正人の前にトイ・ピアノがセッティングされていたのに「ノレンノレン/灰色した猿の夢」が歌われなかったのも謎。とはいえ、アンコールを含めて2時間強のライヴを長いと感じさせなかったのはやはり大変なことだ。このバンドによるライヴの充実ぶりは、UA自身も実感しているようで、「ツアーは今日で終わるけれど、このバンドでまたいずれお目に掛かりたい」と言っていた。実現する日を楽しみにしたい。

  • セットリスト

雲がちぎれる時
黄金の緑
Melody lalala
大きな木に甘えて
男と女
情熱
トュリ
The color of empty sky
ファティマとセミ
Paradise alley / Ginga cafe
リズム
踊る鳥と金の雨
Panacea
〜encore〜
閃光
スカートの砂
Moor
水色

 今回もセットリストは終演後に思い出してメモしたものに基づいているので、実際のものと間違っている可能性あり。
 「スカートの砂」は「限りある未来だけど/おどけて/ねぇ、笑って/愛して」の歌詞を今回のツアーでは「限りない未来だけど」と変えて歌っていたとのこと(気づかなかった)。この詞を書いた時はせつなに生きていると思っていたので「限りある未来」だったが、35歳になった今「限りない未来」と歌うべきだと考えが変わったとMCで説明されていた。例の六ヶ所村の核燃料再処理施設に対する恐怖、怒りの話は今回もアンコールで触れられていたし、UAは常に正直で、背伸びをせずに意思表明をしていることが分かる。