UA@日比谷野外音楽堂



 恒例の夏の野音。一昨年は記録的な集中豪雨に見舞われ、去年は雨こそ降らなかったものの梅雨明け間際のどんよりした曇り空の下での開催だった。そして今年、ついに雨の心配が全く要らない好天に恵まれたのはめでたい。湿度は低く、気温もそれほど上がらずさわやかで、雨女のUAらしからぬ絶好の野音日和だった。
 7月に発売された『cure jazz』のツアーは終了しており、この公演は新しいアルバムとは関係なく開かれるものであることは事前に分かっていた。さりとて何をやるのかは予想できず、楽しみであった。
 まずステージにバッキングのメンバーがわらわらと現れる。内橋和久(g.)、大野由美子(moog、steel pan)、外山明(ds.)、鈴木正人(b.)、青柳拓次(g.)、高良久美子(vib.、marinba、per.)の6名。去年の12月のライヴの編成から、チューバとチェロが抜けて、ドラムが加わった形だ。続いてUA登場。『cure jazz』のツアーとはまたファッションが一変しており、遠目にはドレッドのようにも見えるふわふわのロングカーリーで、8段ぐらいフリルが付いたブルーのノースリーブワンピドレス。例によって背中はざっくりと腰まで開いていて、一歩間違えばくるよちゃんの舞台衣装のようだが、着る人が着ているからファッショナブルに見える。
 注目の1曲目はエイトビートにアレンジされた「プライベート・サーファー」で、驚く。オリジナルのレゲエ・ヴァージョンで親しんだこの曲が、ロックな感じに生まれ変わっていて新鮮。ただどうも各パートがぶつかり合ってしまっていて、アレンジは完成手前の印象だった。それはオリジナル通りのスティール・パンのイントロで演奏された、続く「スカートの砂」も同様。
 印象が変わったのはMCを挟んで5曲目からの、『Breathe』からのナンバーが演奏された辺りからかな。今回のバックバンドのバンマスは内橋和久で、ということはアレンジも内橋が担当したのだと思う。内橋自身が制作に深く関わった『Breathe』の曲となれば、お手のものなのだろう。「Beacon」「Niji」などは文句なしに素晴らしかった。
 昨年12月に見た2回のライヴでは、ドラムが入っていなかった分、どのパートもリズム楽器として活用されており、ミニマルなビートの連なりに乗ったUAの歌唱が心地よく感じられた。今回はドラムが入ったことで、その時とは違うアプローチを図るつもりだったのだろうが、曲によって出来不出来の差が付いてしまったように思う。ドラムは名手外山明なのに、彼がフィーチャーされる曲が少なかったのも個人的には不満だった。ジャズ・ロック風にアレンジされた「男と女」などは正に外山の独壇場といった感じで、その叩きっぷりが堪能できたが、それ以外の曲での彼は大人しいものだった。
 肝心の主役であるUAの歌声は全く無問題。声もよく出ていたと思う。ひとつ気が付いたのは、歌い方は以前より力まなくなったなということ。バックのアレンジのせいもあるが、ドラマチックに歌い上げる唱法はほとんど見られず、フェイクも使わずスムーズな歌い方が中心だった。『cure jazz』は緊張感が張りつめた空気の中、カタルシスを与えるようなアレンジも多かったので、その反動だったのかもしれない。終始リラックスした歌唱で、夏の終わりの野外の雰囲気にも合っていたと思う。この日は本当に天気が良く、涼しい風と虫の声も手伝って、とっぷりと日が暮れた中でゆるりとUAの歌声を聴くのは実に気持ちが良かった。
 選曲は『泥棒』以降を中心に、バランス良く。この編成では『泥棒』より前のアルバムからの曲を演奏するのは、かなり大胆なアレンジが必要となるのは当然か。前述の「プライベート・サーファー」や「男と女」もそうだが、「大きな木に甘えて」なんて古い曲も歌に入るまで全然分からなかった。特に今回のようなアルバムをサポートしない単発ライヴの場合、ファンサービス的に昔の曲も取り上げるのは自然な成り行きだが、今のUAに出来るスタイル、やりたいスタイルを選んでいるのは好感が持てる。観客に媚びていないし、アーティストとして妥協もしていないのだ。しかも期待を裏切らず、(概ね)納得できる出来ばえで披露したことは単純にスゴイと思う。そのキャリアと共にファンの年齢層も上がっており、20代後半〜30代前半の観客が多かったが、『11』の頃が一番と思っている人はもうこの会場には来ていないだろうし、私自身がそうであるように、今回のライヴは満足できたのではないかと思う。『泥棒』以降はCDのセールスが低迷しているという話もあるが、日比谷野音が立ち見も出るほどびっしり埋まるのだから大きな問題ではないだろう。こういうガツガツしていない音楽をやっている人が、メガセールスを記録する方が意外だし、日本の音楽市場がそれほど成熟しているとも思わない。

  Set list
1.プライベート・サーファー
2.スカートの砂
3.踊る鳥と金の雨
4.そんな空には踊る馬
 〜MC〜
5.Beacon
6.The color of empty sky
7.Niji
8.大きな木に甘えて
9.男と女
10.Lightning
11.彼方
12.ブエノスアイレス
13.閃光
 〜Encore〜
14.太陽ぬ落てぃまぐれ節
15.水色
16.甘い運命

 今回もセットリストは終演後思い出しながらメモしたものに基づいているので、間違っている可能性有り。特に「Lightning」の位置に自信なし。ただ曲数が全16曲であったことと、曲目は正しいと思う。