DIESEL ANNレコ発「情熱のR&Rエンジンは紅く吠える」@新宿Red Cloth

k_turner2006-05-28



 5/6の当日記で触れたDIESEL ANNのレコ発イベント。DIESEL ANNはそれまで全然知らなかったけど、先日見た時に大変感銘を受けたし、対バンも素晴らしいバンドばかりなので、当初から行く気は満々であった。が、一昨日Totちゃんから連絡があり、「宣伝してくれるなら招待で入れてくれるって」と言うので渡りに船。しかし彼はどこからこういう話を取り付けてくるのか。
 私にできる宣伝など宣伝のうちに入るかどうか疑問だったので、多少申し訳ない気持ちでRed Clothへ。私にできるのは写真をしっかり撮って、レポートを書くことぐらいだ。

  • Mighty Moguls


 お馴染み、原始人ルックのガレージ・トリオ。60年代のトラッシュ・サウンドを現代に蘇らせる、古典主義のバンドである。あの時代の音が好きであれば、文句なしに楽しいライヴ。

 言い換えれば全て予測の範囲内なのだが、いいじゃないの、楽しければ。選曲がいつもそれほど変わらないのは、品質を保証するためでもある。いつ見ても確実に楽しませてくれるし、表面的に真似るだけでなく、ガレージが本来持つ狂暴さをしっかり表現しているから、私は批判する気など全くない。

  • Jackie & Enocky


 ジャッキーのバスドラ無しのドラムと、エノッキーのテレキャスによるデュオ。この編成から察しが付くように、米南部のいなたいブルースやロカビリーがメインで、エノッキーはヴォーカルも聞かせる。

 編成は非常にシンプルなのに、音楽的にはとてもおおらかで表情豊か。時に繊細に、時に攻撃的にと、振幅が大きいのだ。ルーツ音楽と呼ばれるだけあって、あらゆるロックンロールの根元には汲めども尽きぬ泉のような豊潤な音楽が横たわっていることを教えてくれる。ただだからと言ってその支流や傍流はどうでもいいということではないし、技術的に裏づけのあるこの二人だからこそ、こんなハッタリの利かない音楽ができるのだけれども。

 後半3〜4曲ほど、女性のバリトン・サックス奏者がゲストに加わり、ニューオーリンズ、メンフィスあたりの泥臭いジャズ、ブルース・ナンバーも。

  • six


 ライヴを見るのは1年ぶり2回目かな。60年代のスウィンギン・ロンドンを思わせるガーリー・ファッションに身を包んだ、ベースとギターのイメージ通りのガレージ・トリオ。ベテランらしい味で聴かせるバンドが2つ続いた後の出演は少々可哀想な気もしたが、彼らは彼らの個性で勝負していたのは良かった。グレッチの音も素晴らしかったし。

 敢えて注文を付けるなら、ハードな曲と、ソフトな曲のバランスに難ありか。終始叫びながら、ステージ上で暴れ回るようなバンドではないだろうから、メリハリの付け方にもう一工夫あると観客を上手くリードして行けると思うが。


 夜ストを見るのは今年だけでもう5回目ぐらいじゃないだろうか。彼ら自身はその何倍ものライヴをこなしていて、私が見たのはその一部に過ぎないが。

 これだけ何度も見ていても、ほとんど毎回新曲が聴けるのだから、夜ストは本当に働き者である。この日もちゃんと新曲を披露してくれ、PRIVATESとの九州ツアー中に出来たとの曲で、今の彼らの好調ぶりが見事に反映されたような佳曲だった。この曲もそうだが、この日はミウラさんがいつになくアグレッシヴに吠える曲が多く、途中からこの調子で続けて大丈夫だろうかと心配になったほどだ。のほほんとした厭世観が夜ストのひとつのカラーだと思っていたのに、パンク・バンドばりに牙をむくような曲が大半だったのは意外であった。3〜4ヶ月前に初めて聴いた「Soul on Fire」(?)もより緊張感が高まった演奏になったように思えた。今までの夜ストももちろん好きだが、この路線はまた違った魅力がある。どちらも甲乙付けがたい。


 そしてトリはもちろんこのバンド。よく考えたらJackie & Enocky以外はトリオばっかりだな。観客の動員は開演時から好調だったが、DIESEL ANNが出てくる頃にはほぼ満員。Red Clothでこんなに人が入った状態を私は見たことがないぞ。

 この間のU.F.O. CLUBではガレージ色の強いバンドとの第一印象だったが、よく聴いてみるとそれだけでなく50's〜60'sのヒット・ポップスやロカビリーの要素も入っているし、80年代の日本のロックの影響すら見える。カヴァーもあるものの、基本的に日本語詞の自作曲がメインのようで、仔細に検証したわけではないが、歌詞には文学的な単語や表現が頻出しているようで面白い。またその曲を塩辛い声でシャウトするタエコの巻き舌ヴォーカルには強力なインパクトがある。伝統に埋没せず、オリジナリティある音楽を達成しているのは立派。また3人のメンバーそれぞれが、個性的で技術的にも優れたプレーヤーである点も特筆に価する。どうしてこんなバンドを今まで知らなかったのかと、自責の念にかられる。

 MCによると『HOW LOUD THE ENGINE!!』は結成7年にして初めてのアルバムだそうで、そのレコ発イベントが大盛況となったことに関しては感無量だったようだ。無理もないだろう。メンバーそれぞれが別のバンドと同時進行だったことも関係あるだろうが、それでも7年越しでアルバムを世に出せたという達成感は想像するに余りある。しかし気持ちは分かるが、涙ぐむのはよせ、タエコ。可愛く撮れねえぞ、オラー。

 音楽的にはもちろん、キャラクター的にも人に好かれる要素を持っているバンドで、ライヴを見守る観客の視線は終始温かいものだった。この日会場に来た観客は皆ライヴを見ると同時にレコ発を祝うために来ていたかのようだ。DIESEL ANNの演奏が終わった頃には、既に結構いい時間だったにも関わらず、「もう曲が無い」と言うバンドを無理矢理引っ張り出すまでアンコールが続いた。こんな幸福な気持ちになったライヴは久しぶりで、この場に立ち会えて本当に良かったと思う。


【5/31写真追加】
 Red Clothとしては珍しく、照明が明るく、撮りやすかった。逆光が強めだけども。混雑していたとはいえ移動はそれほど難しくなかったので、撮影ポジションも確保しやすく、概ね満足できる仕上がり。ここ数回撮影しにくいシチュエーションが続いていたので、やっと溜飲が下がった。
 心残りなのは、DIESEL ANNのサカッキーがちゃんと撮影できなかったこと。何カットかトライはしたのだが、公開できるレベルの代物ではなかった。せっかくのレコ発だったのに、申し訳ないです。