この世はすべて金しだい

k_turner2006-05-17



<子どもお金調査>お金よりも大事なもの、8割が「ある」

日銀などでつくる金融広報中央委員会が17日発表した「子どものくらしとお金に関する調査」で、「お金よりも大事なものがあるか」との問いに小中高校生の約8割が「そう思う」と答えた。「勝ち組」「ヒルズ族」などと、成功者がもてはやされる風潮が広まるが、同委は「子供の金銭意識は予想以上に堅実だ」と分析している。
 ライブドア事件を挟んだ昨年12月〜今年3月、全国の小中高校506校、8万7447人を調査した。「お金持ちはかっこいい」との問いに「そう思う」と答えた割合は小学校低学年と高校生が2割強と、回答者の中で最も高かった。しかし、小学校高学年は同じ質問に約7割が「そう思わない」と答え、最も否定的だった。その一方で、中高生の6割以上は「お金をもうけられることはすばらしい」と答えた。
毎日新聞) - 5月17日21時2分更新

 この記事にこの見出しを付けることに恣意的な意図を感じ取ったので、元ネタである金融広報中央委員会が発表したデータをチェックしてみた。それがこちら(注:pdfです)。
 記事として取り上げられたのは8項目に及ぶ「子どものくらしとお金に関する調査」の内、「お金についての意識」の一部である。
 「お金よりも大事なものがある」という質問に「そう思う」と答えたのは小学校低学年で69.3%、小学校中学年で82.4%、小学校高学年で84.1%、中学生で79.1%、高校生で77.9%という結果で、平均すれば78.56%なので確かに記事にあるように「小中高校生の約8割が「そう思う」と答えた」ことになる。
 また「お金持ちはかっこいい」という質問に「そうは思わない」と答えたのは、小学校低学年で45.4%、中学年で67.1%、高学年で68.6%、中学生で60.5%、高校生で59.4%に上る。平均で60.1%の子供が「金持ちってかっこ悪いよね」と考えているのである。嗚呼、何と素晴らしい結果であろう。拝金主義の蔓延は子供までは毒していなかったのだ。
 ところが気になる結果もある。「お金をたくさんためたい」という質問に「そう思う」と答えたのは小学校低学年が74.4%、中学年が80.5%、高学年が86.2%、中学生が88.9%、高校生が90.4%で、何と平均すると84.08%が「お金をたくさんためたい」と考えているのである。つまり「お金より大事なものがある」「お金持ちはかっこよくない」と考える一方で、「でも金は欲しいな」と思っていることになる。
 この結果を見ても毎日新聞の見出しの付け方には疑問の余地がある。「金銭意識は予想以上に堅実」と言うよりは、一般的な大人の意識に近いのだと思う。ホリエモンが「金さえあれば何でもできる」と言った時に反発を招いたのは、そうは思っていない人が多いことの証なのだし。大人の社会を映す鏡が子供であり、ちゃんと大人を見ているのである。
 もうひとつ面白い調査結果が。「金融経済の知識」に関する質問で、小学校中学年で正答率が最も低かったものは「ぎんこうやゆうびんきょくにちょきんすると、りしをつけてかえしてくれる」の20.1%。正解は「○」だが、8割の子供は利子は付けてくれないと思っている。
 また小学校高学年で最も正答率が悪かった質問は「銀行はお金を貸してくれるところである」で、「○」と答えたのはわずか25.7%。4分の3は「銀行は金なんか貸してくれない」と思っていることになる。
 これを見ても、子供はちゃんと世の中のことが分かっているなと思う。


◇推薦図書『ヒルズ黙示録-検証・ライブドア』大鹿靖明著ヒルズ黙示録―検証・ライブドア
 評論家、コラムニストの日垣隆が絶賛していたので、読んでみた。1月のライブドアへの強制捜査以降、ホリエモンは一転して大悪人のような報道がなされたのはご存知の通りだが、果たして彼はどれほどの悪事を働いたのか、しっかりと検証したジャーナリストはほとんど存在しない。この本を読んでみて新聞やテレビの報道がいかにいい加減で、悪意を持ったものだったかがよく分かった。
 「アエラ」の記者である著者が「ライブドア事件とは何だったのか」を綿密な取材を通して解き明かしている。サブタイトルに「検証・ライブドア」とある通り、中心となるのはライブドアだが、当然のことライブドアの一連の騒動にも関与したヒルズ族である村上ファンド楽天についても細かく取材を行い、かなりのページを割いて詳述されている。
 単純にルポルタージュとして質の高いものであることは10ページも読めば伝わってくるし、ニッポン放送買収劇から堀江の衆院選出馬、そして逮捕に至るまでの1年余りの出来事は下手な小説よりはるかにドラマチックであり、経済小説としても非常に面白い。その舞台裏では誰がどんなことを行なっていたのか、まだ記憶に新しい出来事だけに「あの時実はそんなことが…」と驚かされた事実は沢山あった。
 エイチ・エス証券副社長だった野口英明の謎の自殺や、暴力団の関与疑惑など、スキャンダルな要素が多々あったこともあって、ライブドア事件はワイドショー的なネタにも事欠かなかったわけだが、マスコミがワーワー騒いだ割には結局噂や憶測の域を出ない指摘ばかりだった。本書では野口の死は不可解な部分はあるものの自殺と断定されているし、暴力団の関与も脱税もスイスの銀行の隠し資産も、全て存在しないと証拠を揃えて言及している。それどころか、ライブドア幹部の逮捕は「国策捜査」であり、「時代のけじめとして検察が象徴的に作り出した事件」であることまであぶり出している。また私も本書を読むまで知らなかったのだが、ライブドア事件で陣頭指揮を執った東京地検特捜部の北島孝久副部長は、2月半ばに東京高検の総務部検事に更迭されているそうだ。捜査の最大の責任者が、事件が解決する前に現場から追い出されたことは何を意味するのか。
 もちろん本書に書かれていることが100%真実であるかどうかは分からない。ただし膨大な時間を費やした取材による説得力は充分唸らされるものだ。今や極悪人のイメージが定着したホリエモンは相変わらず無罪を主張している。これから始まる公判によって白黒決着がつけられるはずだが、司法はこの事件をどう評価するかが見物である。公判のポイントを整理する意味でも、本書を読んでおくとより興味深く報道に触れられるし、現代の日本でこの事件が起きた背景も見えてくる。ハードカバー、350ページもあって税抜き1,500円という価格も充分安いと思う。何十分の一の部数しか刷れない音楽専門書の世界を知っている者の実感である。