ビートメンナイトvol.8@八王子Match Vox



 この日は代々木公園で恒例のアースデイのイベントがあって、UAが出演するのでそちらも見に行きたかったのだが、UAのライヴは午後6時からと判明したため断念。7時からのこちらのイベントも見ようと思ったら、どこでもドアでも使わない限り移動が出来ないのだから仕方がない。何かを得るためには、何かの犠牲が必要なのである。私にUAを断念させただけのこちらのイベントは、THE YOUNGMAN PSYCHO BLUESの恒例企画で、出演は我らがNYLON、THE HAVENOT'S、GUITAR WOLFという強力面子。これを見逃したら生涯後悔することになるはず。

  • NYLON

 さすがのNYLONもこのラインナップでは一番手を務めねばなるまい。

 オープニングは「波乗りビート」(だったと思う)。新曲は控え目に、ほぼNYLONのベスト・ナンバーばかりを演奏。この規模のライヴハウスとしてはやや広めのステージを目一杯使い、メンバーは右へ左へ駆け回り、飛び上がる。それでいて演奏は乱れることなく、ちゃんとグルーヴがある。毎度のこととはいえ、やはりとんでもないバンドだと思う。

 NYLONの八王子でのライヴは昨年の5月以来で、その時も見た人が多かったのだろうか、1曲目から観客の反応がすこぶる良い。フロアの前方は暴徒と化した客で溢れ返る。これぞロックンロールのライヴの光景。八王子、最高。
 久しぶりの土地だったからか、或いはギターウルフの威光に圧されたのか、頭の3曲ぐらいはNYLONとしては硬さが感じられるパフォーマンスだった。シマノはなかなかステージから降りなかったし。見方を変えればそれだけ正確に演奏しようという意志が働いていたのだとも解釈できる。実際演奏の確かさには驚かされたのは前述の通りだ。

 しかし観客からの忌憚のない歓迎振りに押される形で、中盤からはいつもの荒々しいNYLONが。こうなると彼らの独壇場である。実際には40分ほどのライヴだったはずだが、途中から私は「え?まだやるの?」と何度も思った。0.1秒たりとも目を離せないスリルがあるので、時間単位の質の濃さが異常なのだ。

 ラストは定番の「Ride on R&R」で幕。私はただ見ていただけなのに、まるでステージ上で暴れていたかのように汗だくになってしまった。ギターを片付けるシマノを見やりつつ、ステージに腰掛けしばし放心。今日もいいもん見せてもらったぜ。

  • HAVENOT'S

 横浜のロックンロール・バンドの総元締め的存在である彼らを見るのは、半年ぶりぐらいかな。青木さんは今日もシャープな印象。変わらないなあ、この人。初めて見た時から全然歳を取っていないような気さえする。

 今月初めに開催されたビリーさん追悼イベントの第2回は残念ながら見に行けなかったので、この日のライヴは楽しみにしていたのだが、期待を裏切らない演奏。キャッチーなフックを持つレパートリーがたくさんあり、無条件に楽しい。もちろん客は大合唱で演奏に応える。
 NYLONのテンションの高いパフォーマンスで、既にハコは充分に温められていたこともあり、まだ2バンド目なのにこのまま終わっても良いんじゃないかと思うほどに盛り上がる。ああ、これもまた理想の光景だ。

 定番曲に加え、「I Fought the Law」も演奏したし、アンコールでは「Born to Loose」まで披露。この日の観客全員のツボでもあり、ベタ過ぎるほどベタな選曲であっても問題など一切無い。ロックンロールが進化しなければいけないなんて、誰が決めた。我々は過去の遺産だけでもこんなに楽しめるのである。
 終演後もらったフライヤーによると、根城としている横浜F.A.D10周年イベントをとんでもない豪華面子を揃えて開催するようだ。見たい。

  • YOUNGMAN PSYCHO BLUES

 この日のイベントを企画してくれたことを感謝したい。彼らを見るのは、去年このハコの隣のRIPSでNYLONを見た時以来だ。その時も彼らの企画だった。私は彼らに足を向けて寝られないのである。

 地元八王子のビート・バンドで、モッズ色(というかネオ・モッズ色か)が強く往年のシャムロックを彷彿とさせる。音の傾向としては個人的な好みには沿っているものの、去年見た時はそれがあまりにも露骨で既視感が強く、とりたてて強い印象が残っていなかった。
 この日の演奏は、音の傾向そのものは変更無いものの、オープニングから続く熱い雰囲気に乗じたエネルギッシュなパフォーマンスで、懸念材料を吹き飛ばす楽しさがあった。その楽しさはメンバー達自身からも発されたもので、「今日はツアーの最終日で、こんなこと本当は言っちゃいけないのかもしれないけど、今日が一番楽しい!!」とのMCがあった。正直でよろしい。

 数多くのライヴをこなしているだけあって、ステージングは堂に入ったもの。見せ方、観客の煽り方、などにも経験による裏づけが感じられる。少なくとも去年見た時よりは好印象。
 最後はHAVENOT'Sに続いて予定外のアンコールで「Summertime Blues」。「ビリーさんも歌ってたなあ」のMCが効果てきめんで、前座として申し分ない仕事を果たしたと思う。

  • GUITAR WOLF

 そしてトリは王者の風格すら漂わせたこのバンド。意外にも八王子でのライヴは初めてだそう。あれだけ全国津々浦々まで回っているのに。
 やはり観客のほとんどが最大のお目当てとしていただけあって、メンバーがステージに現れただけで一気にメーターが振り切れる。ああ、これまたライヴ会場における感動の一瞬。

 ギターウルフのライヴはお約束の嵐であって、その出で立ち、ラモーンズのBGMに始まり「仁義無き戦い」のテーマに合わせてセイジが缶ビールを一気飲みし、トオルはその間リーゼントを撫で付けるパフォーマンス、等などいつもと全く変わらない。ラモーンズ以来の伝統を守る、ワンパターンの美学に貫かれている。

 音の方も一切変わらない、これ以上なく凶暴で、これ以上なく五月蝿いノイズの洪水である。セイジは1曲目からいきなり弦を2本も切ってしまったが、お構いなしに演奏を続ける。チューニングだって滅茶苦茶なのだが、それも関係なし。彼らは音楽をやっているのではなく、ロッケンロールをやっているのだからそれでOKなのだ。

 曲や演奏内容に関していちいち解説、分析する必要など全く感じられない。この日もギターウルフギターウルフであったというだけで充分ではないかという気がする。新しいベーシストに変わってからは初めて見たライヴだったのだが、変化は特に無し(笑)。変化しないことが彼らの命題なのだから、何の問題も無い。新ベーシストのユージは終始ふてぶてしい態度で、観客を威嚇し続けたのは良かった。ただ演奏に関してはあまりやる気は感じられなかったな。それが彼のキャラクターなのかもしれない。

 「オールナイトでぶっとばせ!!」「ワイルドゼロ」「冷蔵庫ゼロ」「環七フィーバー」などライヴの定番曲は大体やってくれた。「Born to Be Wild」で客を引き上げ、ギターを弾かせるパフォーマンスも相変わらず。ただ女の子を引き上げたのは初めて見たかも。
 当然のことメンバーも観客も最初から最後まで全力でぶつかり合う激しいライヴで、2回目のアンコールが終わった時点で11時を回っており、充分満足し、さすがに力尽き果てた観客が帰り始めた。半分以上の客が帰った頃、照明の消されたステージに何故かセイジがひとり戻ってきてアンプの前でギターのチューニングを開始。どうするのだろうかとしばらく見ていたが、ギターはギーギーとノイズを発するだけで全然チューニングが出来ず、とうとう諦めたのか、やおら立ち上がると「うるせーーーー八王子!!さっさと帰って寝ろ!!」と一喝した後で「アイ・ラヴ・ユー, OK」を歌いだした。自分で勝手に出てきたんじゃないか(笑)。

 もちろん残り少なくなった観客は喝采して喜んだ。ところがフラフラのセイジ(だいたいライヴ本編で全力を出し切ってしまうので、これはいつものこと)はギターのコードを間違えながら、しかも2番の歌詞が分からなくなってしまった様子で、つっかえつっかえしながらヨレヨレの演奏だった。
セイジ「I love you OK〜、 振り返れば〜……。何だっけ?」
客「××××××」
セイジ「振り返れば〜、長く………」
客「ツライ!」
セイジ「長く、辛い…、何だっけ?」
客「××××」
セイジ「長く、辛い道も〜……、お前だけを……???」
客「×××××」
 とこんな調子で客に教えてもらいながらぐでんぐでんの「アイ・ラヴ・ユー, OK」を何とか歌いきり、やっと満足したのかステージを去っていった。カッコイイけど、カッコワリイ〜。一体何がしたかったのだろうか。その間トオルが舞台袖でハラハラしながら見守っていたのも中々笑える光景であった。最高だな、ギターウルフ
 別にこの日に限った話ではないが、仮に音源だけ録音して後から聴いたとしても同じように楽しめるとは限らない。その場にいなければ伝わらない雰囲気というものがあるからだ。だからこそライヴは楽しい。音や映像で残された素材でも楽しめることはあるが、それは別の体験だ。実際に会場で体感したものと同じであるはずはない。実際に見たから偉いというものでもないが。ただ完全なる別物だというだけのことだ。
 こうして文章にしてレポートすることで、見に行かなかった人にもその楽しさの何百分の1かは伝わるかもしれないと思うから、こうして時間を割いて書いてはいるものの、効果の大きさを考えたら何だかバカバカしくなってくる。もしあなたがこれを読んでこれらのバンドに少しでも興味を持ったならば、次の機会にはチケットを買って会場まで見に行くべきだ。その行動にわずかながら寄与するところがあれば、私も救われるし、書いた意義があるというものだ。


 例によって撮影もしてあるが、写真のアップはまた改めて。

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