ネタが無いので

昔このおっさんの近所に住んでたことが



 仕方がない。こんなつまんない話でも取り上げるか。
CD売上の水増し発覚!その手口をここに公開する
 ネット上の記事としては既に腐敗が始まっている程度に古いもので、多くのブログにリンクされているので読んだ人も多いと思う。かいつまむと、オリコンチャートの順位を上げるため、そしてテレビの音楽番組へ出演させるため、アーティストの所属事務所が自腹を切ってCDを買っているという告発。
 この「探偵ファイル」なるページでは「もちろん違法行為である。」とわざわざフォントサイズを変えて書かれている。一体何の法律に違反しているというのか(笑)。この程度のことは商行為の範囲内だ。そもそもCDの発売日は何故水曜日に集中しているかというと、オリコンチャートの集計に有利だからなのだ。これもチャートの操作に当たるとでも言うのか?
 今のオリコンがどのような集計をしているのかは知らないが、私がCDショップで働いていた10年ぐらい前は出荷枚数によってランキングが決まっていた。実売数ではないというところが味噌で、そのためかつてシングルCDには送り付け商品というものがあった。新譜CDの発売が決まると、ショップには発売日の1ヵ月半〜2ヶ月ほど前にレコード会社から注文書が届けられる。各ショップはそれを見て、何を何枚発注するか決めるのだが、メーカーによってはシングルに限ってメーカー側が決めた枚数が書き込まれていた。つまり入荷枚数の決定権はレコード会社にあったのだ。そうすることによってレコード会社は希望通りの枚数を出荷することができたのである。ただしこの送り付け商品は、発売日から3ヶ月程度経過した時点で自由に返品が可能だった。実際80枚入荷して、10枚しか売れなかったので70枚は返品などというタイトルは珍しくなかった。もちろん発売日の入荷数以上に売れたタイトルもたくさんあったが。
 この制度を導入していたのはソニー東芝EMIポニーキャニオンなど。ポニーキャニオンの古いシングルを持っている人は確認してもらいたいが、カタログ番号が記載されている所に四角で囲った「Z」の文字が入っていれば、それが「Z番商品」と呼ばれていたもので、送り付けの対象商品だ。80年代半ばからバブル期前半までは、ちょうどレコードからCDへの移行期に当たっていたため、レコード業界は不振で、アイドルのシングルが発売1週目で1位、2週目でトップ10圏外という現象が繰り返されていたが、これはこうした制度を導入していたメーカーが多かったから起きたこと。要するに発売週こそ出荷枚数を稼ぐので、チャート上は上位にランクされるが、実売数は大したことなく、発売日以降発注するショップが少ないためランキングを大幅に下げてしまうのだ。
 この制度はオリコン対策以外のメリットはほとんど無く、返品数が多いため利益率を下げてしまうので、バブル崩壊後の91〜92年頃にはどこのメーカーも実施しなくなった。
 こうした実例から見ても、オリコンのチャートというのはそれほど神聖なものとは言えない。ただしユーザーの嗜好は案外健全で、いくらチャート上の操作をしても支持されていない曲は売り上げが伸びないし、チャートの操作の有無に関係なく、支持を得る曲はゆっくりとでも売り上げを伸ばすものなのだ。
 「探偵ファイル」で告発されている「手口」にしても、全く支持を得ていない曲の場合はコストが掛かり過ぎる。少し考えてみれば分かるが、オリコンのチャート、それもテレビの音楽番組出演基準を満たすとされる15位以内にランク入りしようと思ったら、100枚や200枚買ったところで焼け石に水だからだ。仮に1000円のシングルCDを5000枚買ったとすると、購入実費だけで500万円もかかってしまう。「探偵ファイル」によると人海戦術によってアルバイトが多くのショップを巡りながら買っているそうだから、これ以外に人件費もかかっていることになる。このように湯水のごとくプロモーションに金を使える事務所はそれほど存在しないはずだ。この「手口」に効果があるとすれば、既にチャートの20位ぐらいまでは入る程度の支持を得ている場合で、後数百枚〜せいぜい1000枚ほど売り上げが上乗せできれば、音楽番組出演基準とやらを満たす時に限られる。それにしたって100万円程度は使わねばできないことだが。
 この「手口」を使って、めでたくテレビ番組出演を果たしたとしても、それによってより大きなヒットに結びつくことが約束されたわけではない。前述したように、売れるものは売れるし、売れないものは売れないのである。ユーザーを馬鹿にしてはいけない。そもそもある程度の支持を得ていた曲が、より大きな支持を得る場合は、それなりの理由があるのだ。テレビ番組出演もひとつの切っ掛けにはなり得るだろうが、それが理由の全てと判断するのはあまりにも短絡的だ。
 「探偵ファイル」に書かれている「手口」程度のことは実際に行なわれているだろうし、取り立てて驚くようなことでもない。あまり効率の良い方法とは思えないが。ただこうした商売上の戦略を「手口」と呼び、鬼の首でも取ったかのように書く背景には、オリコンに対する過信と、自分の好みと異なる曲が売れること、或いは自分の好みの曲が売れないことへの苛立ちがあるんだろうなあとは思う。音楽なんて嗜好品であって、それが無ければ死んでしまうものではない。他人が何をどう聴こうが自由じゃないの。チャートの順位で音楽の価値が決まるはずもないし、他人の音楽の聴き方にどうこう口を挟むのは思い上がりというものである。