あややはカワイイ、ホント?   実はそうでもない



 私が長年愛用していたビデオデッキは、88年に買った東芝のデッキだった。まだ学生で家賃1万4000円の四畳半、トイレ風呂共同の下宿で暮らしていた時に、6万円ぐらいで買ったものだ。当時のモデルなので当然のことでかいし、重たいのだが、バブル期に作られた家電品というのは部品をケチっていないので実に堅牢であった。耐久消費財としての天寿をようやく全うしたのが去年の今頃。再生ボタンを押してもうんともすんとも言わず、さらに挿入したビデオが出てこなくなってしまったのだ。
 デッキがご逝去遊ばされたとはいえ、よく考えたらテレビの録画なんて年に1〜2回程度しかしていなかったし、今やレンタルビデオもDVDだ。昔録ったビデオや購入したソフトは残っているが、買っただけで見ていないDVDが何本もある今、とりたてて見る必要を感じることもなかったので、買い換えるでもなく、修理するでもなく、デッキは放置され、この1年は時計として使っていた。デッキ内蔵の時計が非常に正確で、停電でも起こらない限り1年で1秒も狂わないという優秀さだったため、重宝したのである。
 しかし最近になって、資料として古いビデオをチェックする必要が出てきたため、さすがに不便をきたすようになったのだが、今さら新品のVHSのデッキなど買う気にはならず、ヤフオクで中古品を購入。ソニーの99年製のデッキで、送料、振込み手数料を入れても4,000円ほどしかかからなかった。かつてビデオデッキは4ヵ月分の家賃より高かった時代があったなんて信じられない。
 ぼちぼちソニータイマーの発動が心配な時期とはいえ、数ヶ月動いてくれれば充分だし、恐らくそれでお役御免だ。何しろこの値段では文句のいいようもない。17年間鎮座していた前任者のコンセントを抜き、今日新参者に跡を引き継がせた。
 驚いたことに、6年も前に作られたこのデッキはトラッキングを自動でやりやがる。それに巻き戻しや早送りが速いこと、速いこと。心なしか画質も良いような気がする。髷を結った人が文明開化に触れた時のように、ほぇ〜〜と感嘆の声を上げるしかなかった。
 こうなるとついつい昔の映像が見たくなるもので、今日は10年ほど前の落語のビデオを2時間も鑑賞してしまった。仕事しろ、わし。