ニーネ/SEARCH AND DESTROY

k_turner2005-01-29



 フル作品としては02年の『ハッピータイム ハッピーアワー』以来、今のメンバーとなってからは初のオリジナル・アルバム。この間のニーネの活動は、それ以前と比較すると決して順調とは言えなかった。結成以来のオリジナル・ドラマー定行が脱退してしまったことがその最たるものだが、メンバー・チェンジを経たニーネは益々大塚久生のワンマンバンドの傾向が強くなった。元々ほとんどの曲を書き、歌っていたのが大塚なのだからニーネ=大塚という対外イメージはあったものの、メンバーが変わったことでそのカラーはより鮮明になった。
 アルバムのリリース間隔が空いたり、メンバーの脱退があったからには、それ相応の理由があったと考えるのが自然である。具体的にはどういうものであったかは知る由もないが、久しぶりのアルバムである本作は、バンドを取り巻く何らかの不穏当な事象を克服したことを宣言すると同時に、ニーネを継続していく大塚の決意表明になっている。
 苛立ちがそのまま音になったような無骨で騒々しいギターと、それに絡みつくベースとドラム。大塚以外の2人は大塚の描く世界をサポートする役割以上のことは何もしていない。そして不器用に、ぞんざいに吐き出される言葉の数々。決意表明の意志が感じられるのは、直接的にそれをテーマとした歌詞が多いせいでもある。そのため説明が過ぎる部分や、説教じみた部分が鼻に付いたりもするが、これはこれで大塚には必要なことだったのだろう。

夏の間ずっとずっと眠って 気付いてみたら何も終わっちゃいないさ
人が死んで行くのはとても悲しい
だけどそれは自分か誰かが先かって言うだけのこと
やりたいことをやって行くために仕事で稼ぐとか
やりたいことを仕事にするために妥協するとか
どっちにしろ言訳だ 自分のやりたいことをやって行けよ
自分の気の済むやり方で やりたいようにやって行けよ
市川由衣が表紙の雑誌を買いにコンビニへ行って
また別の雑誌に由衣が載っているのを見つけた
どっちの方を買うかちょっと迷って 結局どっちも買わないことに決めた
                     「夏休みは終わりだ」

 ニーネのオフィシャルに掲載されている大塚の日記に書かれているのは、見事にこの歌詞のままだ。普段考えていることがそのまま歌詞になってしまう人のシンプルさは嫌いではない。むしろストレート過ぎて信用できてしまう。こうしたタイプの歌詞を書く自分を、大塚は自覚しているだろうし、その資質を否定することなく歌詞にしてしまう覚悟もあるはずだ。空元気でも出さないよりは出していた方が良いだろう。またそうすることでしか前進できない絶望も嫌と言うほど知っていることも伝わって来る。
 確かな何かが欲しくてもがき苦しんで、でもそんなものは手に入らないことに気付いた時、全てを投げ出してしまえるならこんなに楽なことはない。ニーネは、大塚は、楽な道など選んではいない。これから先も茨の道が待っているのだろうが、その成果としてこういうアルバムが出来上がるなら苦しんだかいもあるというものだ。
 なおこのアルバムは弱小インディーレーベルから発売されているため、どこでも買えるという代物ではない。確実に入手するならオフィシャルの通販ページか、アマゾンでどうぞ。ただ、26日に発売になったばかりなのに、発送に「8〜12日」もかかるアマゾンはしっかりしてもらいたい。


 今日のトップ画像は久しぶりに内容に合わせてニーネのライヴ写真。2002年12月23日、下北沢Club Queにて撮影。分かりにくいだろうが、後ろにいる女性は川本真琴